第10話 おやすみをおしえて
僕に森の危なさを説いた後、次はイリスさんが語り出した。
「私が魔法に……炎熱術に目覚めたのは12歳の時だったよ。ある日突然手から火が出るようになったんだ、本当にびっくりしたよ。幸いそれで自分が火傷することもなかったんだけど、自分の部屋を燃やして大騒ぎになったんだよね……」
遠い目をしながら微笑むイリスさん。
「私には双子の妹が居るんだけど、同じ日の同じ時間に魔法に目覚めたんだよ。運命ってあるんだなぁってその時は思ったもん。しかも妹は凍氷術に目覚めたんだ。火を消してもらえて助かったよ」
「イリスさんにも姉妹が居たんですね……」
思い出し笑いしながら、イリスさんは
僕はそんな表情が顔に出ていたのであろうか。イリスさんは、あはは! と笑うと顔の前で手を横に振る。
「大丈夫だよ。とっても元気で、仲もとってもいいから。そのうち会うと思うけど、とってもいい子だからリフォロくんもすぐ仲良くなれるよ!」
「それは楽しみですね。仲良きことは美しきかな、ですよ」
「リフォロくん、たまにおじさんみたいなこと言うよね」
何事もなかったようで何よりです。明るく朗らかなイリスさんに、想像できないような悲しき過去があったりしなくてよかったよ。
お茶を飲みながらニコニコしているのがイリスさんには似合う。妹さんもさぞ美人で優しい人なんだろうなぁ。
「妹さんは何されてる方なんですか?」
「妹はまだ軍に居るよ。自慢の妹なんだから! 早くリフォロくんに会わせたいよ」
「あれ? イリスさんは軍人を辞めたんですよね?」
僕がそう聞くと、イリスさんはスッと目を逸らした。あれ?
「い、一応退役したことにはなってると思うんだけどね? うん……」
「一応……?」
「それより! そろそろお昼にしようよ!」
「え? あ、はい」
何かを隠している雰囲気を感じるが、僕は大人なのでそれ以上追及しないことにした。人には一つや二つくらい隠しごとがあるからね。
今、大変なことが起きている。
この小屋はワンルームなのだが、僕の目の前でイリスさんが着替えている。僕のことなんてまったく気にせず。
「家族が増えるっていいことだね」
「ええ、まったくですね」
まっ裸でルンルンと鼻歌を口ずさみながら、クローゼットをガサガサと漁るイリスさん。後ろ姿をガン見してても、まったく気にした様子がない。前屈みになって、その形のいいお尻をこちらに突き出してくれるサービス付きだ。僕、一生ここに住むよ。
クローゼットの中はかなり散らかっていて、イリスさんの性格が伺い知れる。その中から藍色のパンツを引っ張り出すとそれを穿く。
同じく藍色のブラを肩に通すと、その中に肉を詰め込む。
それは胸というにはあまりにも大きすぎた。大きく、丸く、重く、そしてムチムチすぎた。それはまさにおっぱいだった
「変なこと声に出すのやめてくれないかな?」
思わず声に出ていたらしい。
「それに……リフォロくん……そんなにじっと見られると、流石の私も恥ずかしいよ……」
「ご、ごめんなさい……」
そんな至福の時間もすぐに終わり、白いシャツにジーンズ姿になってしまったイリスさん。ほんの少しの時間だったけど、ありがとう。それしか言葉が見つからない。
ウキ太に洗濯を頼んだり、トリ男を水に浸けたりしているうちに夜になった。
辛うじて血の味が少なくなった野鳥の丸焼き(塩味)を食べた僕らは、寝ることになった。寝ることになってしまったんだ。
と言ってもこの小屋には木でできたベッドが一つ……。これは流石にまずいんじゃなかろうか?
「ここは標高が高いから、まだ朝晩は冷えるよ? 床で寝たら風邪引いちゃうよ?」
僕が戸惑っているとイリスさんは、寝間着らしい薄い水色のワンピース姿で、ベッドをぽんぽんと叩いてくれている。ベッドと言っても木の台に毛皮を何枚も敷いたものだ。
「自分で言うのもなんだけど、この家で一番暖かいところは私の隣だから……。もう諦めて来てくれると嬉しいな?」
言外に思春期の男の子扱いされている気がする。でも風邪引いたら困るもんね。そうだよ。うん! そうだ!
「では、お邪魔します……」
「あはは! 邪魔はしないで欲しいかな?」
謎のふわふわの毛皮に挟まれ、人間湯たんぽと化したイリスさんにくっついて僕は寝ることになった。
魔力灯が落とされた真っ暗な室内。外からは虫の鳴き声だけが入ってくる。僕が目を閉じると、すぐに意識が遠のいていった……。
いや、そんな訳がない。向い合って寝ることになった僕の目の前では、呼吸に合わせて上下する大きな胸と、
すーすーとイリスさんが息をするたびに、僕は嫌でもその距離感を感じてしまう。
これ本当に眠れるのかな……。
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