第9話 僕と吊られた鳥

 あれから沸騰した風呂を見るという得難い経験を積んだのち、僕は無事さっぱりとした。


 ガーゼのようなタオルを貸してもらい、体を拭く。混浴イベントは発生しなかった。非常に残念だ。


 服は洗うことになり、代わりにイリスさんの服を借りることになった。……女装デビューかと思われたが、裸ワイシャツデビューで済んだのは不幸中の幸いだった。


「やっぱり色々買い出しに行かないといけないね」


「ご迷惑おかけします……」


「一蓮托生ってやつだよ!」


「それフォローになってなくないですか?」


 坂を登ると小屋の周りの雑草は粗方刈りつくされていた。刈られた雑草は一ヶ所にうずたかく積み上げられていて、その前ではウキ太が待っていた。


「お疲れ様。結構きれいになったね」


「すごいね! ウキ太くん」


 イリスさんの言葉に片手をあげて答える。なんだこいつ。


 僕がイラっとしていると、遠くで鳥の断末魔が上がり、木々から鳥が飛び立つのが見えた。


 僕は操っている死体たちと何かパスのようなものが繋がっており、それに集中すると彼らが何をしているのかぼんやりとわかるのだ。もう少しはっきりわかってもいいと思うんだけど……。


 今トリ男は……えーと……こちらに向かって移動しているらしい。


 僕が役に立たない情報を受信している間に、森の中からトリ男が出て来た。


「ひえっ!?」


 イリスさんが可愛らしい悲鳴をあげる。


 トリ男は血塗れになっており、なかったはずの首は黒い羽の生えた別の鳥の首が生えている。その虚ろな目の鳥の首は、その元々の持ち主であったであろう鳥の両足を咥えていた。その首のない鳥の死体からは血が滴っている。


 ああ……血抜きしてくれてるんだね……。僕の意図を汲んではくれているらしい。


 礼を言いながら獲物を受け取ると、虚ろな目をした首は嬉しそうにゲェゲェ鳴き出した。ぶ、不気味だ……。確かにこれが街をうろうろしていたら、問題になるな……。


「はい、イリスさん! 鳥ですよ!」


「わ、わぁ……ありがとう……」


 イリスさんは僕から血塗れの鳥を受け取ると、先ほどトリ男がぶら下がっていたところに吊るし、下にブリキのバケツを置いた。


「……楽しみですね」


「う、うん……」


 僕はイリスさんとぶら下がる鳥を見つめながら、何とも言えない空気を味わうのだった。




 それから僕はノーパン裸ワイシャツのまま、小屋の中でイリスさんと向かい合って座っていた。誰も得しない格好である。


 こんな格好では室内でも寒いかなと心配したが、イリスさんから暖かい空気が出ているらしく、室内は暖かかった。イリスさんは歩くハロゲンヒーターか何かだろうか?


 それから僕たちは紅茶のようなお茶を飲みながら、身の上話をすることになった。


 僕は普段の村の様子から、家族の話、それから熱が出た時のデカい金の顔の話をし

た。それから兄に見つかり、森に逃げ、村人や魔女に追われて危ない時にイリスさんが来てくれた話。


 そんな話をイリスさんは相槌を打ちながら聞いてくれた。


「あの時はびっくりしたよ。ディグニス山からの帰り道に、森で狼煙が上がってたから見に行ったら、夜の森でシャドウイーターに人が襲われてたんだもん」


 夜のザーグラーの北の森に入るなど、普通の人間にとっては自殺行為に等しいらしい。


 魔女以外に会わなかった僕は運がよかったみたいだ。


 僕に森の危なさを説いた後、次はイリスさんが語り出した。

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