第21話 怪しげなヤツを排除せよ!

【前回のあらすじ】

レもん「恋にバンドに悪魔退治か……最近のことっちは忙しそうだ」


   #   ♪   ♭


 このところ鳴りをひそめている悪魔たちの動向を探っておきたい。

 校外の索敵はマキナに任せ、ことは校内の情報に詳しい新聞部を日ごと訪ねていた。


 一週間、成果はなし。ただ一つ、不審者の目撃談が生徒から寄せられていた。ロングスカートを穿いた背の高い人物が、学校の裏山方面をうろついていたらしい。

 時間帯は午前中だという。


(ただの変質者か? だとしても正義のヒーローとしちゃ放っておけねぇ)


 授業が自習になったのを見計らい、ことは一人で教室を抜け出した。


 人目を避けて校舎裏へ。しかる後、ひとっ飛びに塀の上へ跳び乗った直後。

 思いがけずも、外側にいた人物と目が合ってしまった。


 ポニーテールに黒いマスク、セーラー服――まではいいとして、足首丈のスカートまで合わさった格好は、時代錯誤なスケバンそのものだ。


(ウチの学校になんの用だ?)


 ことは塀の外へ降り立つも、相手はその場を動かず。逆に質問を浴びせてきた。


「この時間は授業中では……?」

「アンタこそ制服でうろついてていいのかよ」


 スケバンが着ているのは、隣町にある出海でみ西にし高校の制服だ。


「今日は創立記念日で休みだ。それで……近くまで散歩に来たついでにお嬢……じゃなかった、知り合い……その、顔見知りに会いに……いや、一目見ようと……」


 目測だが、スケバンの上背はことよりも一回り高い。加えてロングスカートという服装も不審者の特徴と合致する。


「聞いてもいねーのにベラベラしゃべり出しやがって……証拠はあんのか?」

「しょ、証拠……」スケバンはポケットから何かを取り出してみせた。「こ、これは彼女からのプレゼントだ!」


 『アラヨ企画』とロゴが記されたコースターは、地元企業のありふれた宣伝グッズにしか見えない。


「そんなショボいもん証拠になるかよ。怪しげなヤツめ」


 ことが口にした途端、スケバンの様子が一変した。


「おい……アタシに名指しでケンカ売ったからには覚悟できているのだろうな?」

「名指し? いきなり何言って――」


 前方から凄まじい風圧。あっという間に肉薄されている。考えるより先に繰り出したことの拳は、スケバンの顎先をかすめたかに見えた。


「――る…………っ!?」


 気が付けば、ことの身体は宙を泳いでいた。攻撃を受け流されただけでなく、勢いを利用して投げ飛ばされたのだ。

 即座に身をひねって着地。ことはスケバンの方を向き直る。


「クッ……よくもおちょくってくれたなァ!」

「それはこっちのセリフだ! 大事な贈り物をショボいだの何だのと……あの人のいる学び舎にキサマのようなイカレたヤンキーをのさばらせてはおけん! アタシが成敗する!」


 怒りに燃えたスケバンは、先ほどとは反対に一歩ずつ、じりじりと歩み寄ってくる。その様相に並々ならぬプレッシャーを覚えつつも、引き下がることではない。


「さっきから訳の分かんねぇことを……テメェ、一体何様だ!」

「くどい! アタシは出海西高デミコーの当代番長、綾重あやしげなつ!」

「は? アヤシゲ……ヤナツ……?」


 ことは呆気にとられた。不審者が堂々と素性を明かしたこと以上に、その名前が脳裏を駆け巡る。


「今さらビビったのか? シャバ僧が」

「いや、オレは怪しげな奴をブッ飛ばしに……」

「何度も呼び捨てにするなぁっ!!」


 またもや瞬速の接近。怪しげな奴、改め綾重あやしげなつの豪腕がことを捉えようとする。


(クソッ、正面は悪手だな)


 冷静に側方へ回る。裏拳をフェイントに足払いを仕掛けるも、蹴りはスカートの裾を虚しく叩くのみ。

 巧みな足さばきで体勢を崩されたことの胸部に、なつの蹴りが叩き込まれた。


「ぐは……っ!」

「そのまま寝ていろ」


 襲い来る踏みつけを、すんでのところでかわす。なりふり構ってなどいられない。ことは迷わず地面を転がって離脱した。


「みっともなく転げ回りおって。ダンゴ虫か、キサマは」

「ぬかせ。真剣勝負に見てくれなんぞ関係あるかよ」

「違いない。ちょっとは見直してやる」


 なつの実力は確かだが、上からの物言いには腹が立つ。


「んだと? デケェ図体ずうたいして小細工ばっか使いやがって!」


 こと渾身の体当たりは、片手で横へ逸らされた。すかさず振り返り、なつの中段蹴りをガード。続けざまの掌底にはカウンターの前蹴りを見舞う――つもりだった。


 なつの掌打は半ばで向きを変え、ことの脚を掴み取る。


「小細工をめるなよ」


 ことは自分の脚を軸に旋回、頭から投げ落とされる寸前にあった。

 唯一の幸運は、両腕がフリーだったこと。


「上等だコラァ!!」


 ことは両手を地面につき、なつの投げに抵抗した。


「正気か!? この体勢でどうしようと――」

「こうするんだよォッ!!」


 逆立ちのまま、ことは背筋と脚の力でなつを釣り上げにかかる。


「ぐっ……! 馬鹿力が…………っ……!!」


 片足が浮きかけたところで、なつは両手を離した。


「危ねっ!」


 ことは逆さ風車で牽制けんせいしながら間合いを広げ、元通り両足で地面に降り立った。


 仕切り直しには持ち込んだものの、依然として分は悪い。得意の打撃で攻めようにも、なつには触れられただけで力の方向をねじ曲げられてしまう。


(拳も蹴りも、タックルもダメとなりゃ、残る手は……)


「どうした? 降参するか?」


 なつが前進を始めた。もはや出し惜しみする猶予はない。


「減らず口も……そこまでだぜ!」


 気合い一発、ことは両手に込めた闘志をあおく燃え上がらせる。それを目にしたなつの驚愕の表情たるや、痛快だ。


「な、何だそいつは!?」

「今すぐ教えてやる――〈魂波ソルファ〉ァッ!!」


 撃ち出された光の波動が、浮足立つなつを直撃した。

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