第13話「それはいけませんね」

「ああー、琴音ちゃん可愛いわぁ~、よしよしよし、お姉さんがなんでも買ってあげようか~」

「ほんとー可愛い~、ちゅーちゅー吸いたいわぁ」

「ありがとうございます」


 変態の姉二人に絡まれる天乃原さん……は、いつも通り真面目な顔だが、少し笑っているようにも見えた。


「大河ー、せっかく琴音ちゃん来てくれたんだし、部屋に案内しなさいよー」

「そうよー、二人でイチャイチャしておいでー」

「なっ!? い、いや、それはしないけど……あ、天乃原さん、俺の部屋に行こうか……」

「あ、はい、そうさせてもらえると嬉しいです」


 ここにいると姉二人がうざいからな……いや、そんなことを言うと怒られるので、絶対に口にしないでおかねば。


 二人で二階に上がり、俺の部屋へと案内する。お、女の子が俺の部屋に入るなんて、ちょっと想像ができなかった。俺も大人への階段を上る……ということか。

 ……ん? お、俺は何を考えているのだろうか。


「ど、どうぞ……」

「おじゃまします。わぁ、綺麗なお部屋ですね」


 天乃原さんが部屋をきょろきょろと見回している。一応片付けてはいたから、そんなに散らかってはいないと思うが……。


「そこ座ってくれるかな、あ、お茶持ってくればよかったな、ちょっととってくるよ」

「はい、ありがとうございます」


 俺は一階のキッチンへ行って、麦茶を用意して部屋に戻った。天乃原さんはまだきょろきょろと見回しているようだった。


「どうぞ」

「ありがとうございます。まさか赤坂さんの部屋に入れるなんて、思いもしませんでした」

「そ、そうだね、俺も不思議な感じがするというか……あはは」


 な、なんだろう、学校で会っている時よりもなんか緊張する……! 少しの間沈黙の時間が流れた。な、何か話さないと……と思っていると、


「あ、そういえば、お借りしていたCDを持ってきました。ありがとうございました」


 と言って、天乃原さんが鞄からCDを取り出して、テーブルの上に置いた。


「あ、いえいえ、どうだった?」

「とても歌が上手なのが伝わってきました。元気もあるし、それでいてしっとりとしたバラードも上手で、感動しました」

「そっか、天乃原さんも気に入ってくれたようで、嬉しいよ」


 よかった、天乃原さんにJEWELSの良さが伝わったようだ。嬉しい気持ちになるのは単純だろうか。いや、誰でもそんなものかもしれない。


「せっかくお借りしたので、曲をスマホに入れておきました。これでいつでも聴けます」

「そっか、それもありだね。俺もスマホに入れているから、一緒だね」

「はい。あ、スマホといえば私、赤坂さんの連絡先を知りませんでした。よかったらRINE交換してもらえませんか?」


 真面目な顔で言う天乃原さん。RINEとはメッセージアプリだ。な、なるほど、RINEの交換か……まぁいいかと思った俺は、「分かった、ちょっと待ってね」と言って、RINEのQRコードの画面を天乃原さんに見せた。


「ありがとうございます。これで……よし、大丈夫です。今度からこれで連絡が取れますね」


 真面目な顔の天乃原さんだが、嬉しそうな顔にも見えた。


「あ、うん、女の子とRINE交換するなんてあまりなくて、ちょっと恥ずかしいね……」

「私も、クラスの男の子と交換したのは初めてです。赤坂さんが初めてということで、嬉しいです」


 そう言った天乃原さんが、笑顔を見せた。


 ……その顔がとても可愛くて、俺はドキッとしてしまった。


「あ、そ、そうなんだね、俺も嬉しいというか……あはは」

「それならよかったです。あ、あそこにあるのはゲーム機ですか?」

「ああ、うん、ゲームは好きで、よくやってるかな」

「そうでしたか、私はあまりやったことがなくて、どんなものか興味はありますね……あれ?」


 その時、天乃原さんが不思議そうな顔をした。な、なんだ、何を見たのか。あれやあれは片付けてあるはずだから見えないよな……高校生男子は、女の子に見られては困るようなものが一つや二つあるのだよ……って、なんだそれは。


「……赤坂さんの机、勉強している形跡がないですね」


 天乃原さんの言葉を聞いて、俺はドキッとした。い、いや、テスト前には勉強してたんだけどな……。


「そ、そんなことないよ、テスト前はちゃんとここで勉強してたし……あはは」

「……ということは、普段はやってないってことですね?」

「あっ! いや、まぁ……はい、その通りです……」


 素直に白状してしまう俺も真面目なのだろうか。


「それはいけませんね、私が見てあげますので、勉強しましょう。さぁ赤坂さんは机に座ってください」


 ……天乃原さんは、やっぱりスパルタだった。

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