第12話「ご挨拶しないと」
「はい、でもこうして会えたのでいいのです」
なんとなく嬉しそうな天乃原さん……はいいとして、どうしよう、会ったのはいいんだけど、これからどうするべきなのか。俺もスマホと財布のみで出てきてしまったし、どこか涼しいところに……と考えていたそのとき、ポケットに入れていたスマホが震えた。画面を見ると南美姉からの電話のようだ。
「も、もしもし」
「もしもーし、大河、どこまで行ってんのー? アイス買ってきたから帰っておいでー」
「あ、い、いや、それが、あの……」
「……ん? どーした? あ、もしかしてあれか、こっそりデートか!」
「ああ! い、いや、そういうわけじゃないんだけど、クラスメイトと偶然会った……」
「そかそか、連れておいでよー、外は暑いだろー」
ま、まぁそうなんだけど、天乃原さんを連れて帰ると姉たちの質問攻めが容易に想像できる。これはまずいな……と思ったが、
「早く帰っておいでー、待ってるからさー」
と言って、南美姉は電話を切ってしまった。
「――電話ですか?」
天乃原さんが俺の顔を覗き込むようにして見てきた。
「電話ですか?」
「あ、う、うん、姉からだったんだけど……」
「……まぁ、お姉さまがいらっしゃるのですね、これはご挨拶しないと」
「あ、そうだね……って、ええ!? ご、ご挨拶……?」
「はい、そうです」
天乃原さんは俺のことをじっと見てくる。恥ずかしくなって目をそらしてしまった。
「ま、まぁいいか……じゃあ、せっかくだし俺の家……来る?」
「はい、そうさせてもらえると嬉しいです」
俺は天乃原さんと一緒に、家まで帰ることにした……って、な、なんかこっちが緊張してしまう……クラスメイトとはいえ、女の子を家に連れてきたとなると、姉たちの反応が……。
どうすればいいのかぐるぐる考えているうちに、家まで帰って来た。
「あ、こ、ここ、俺の家……」
「そうなんですね、立派な一軒家ですね」
もうどうにでもなれと思って、玄関を開けて「ど、どうぞ……」と、天乃原さんを招き入れる。天乃原さんは「おじゃまします」と言って靴をそろえて上がった。
「お、大河おかえりー、アイスあるから食べ……」
「おかえりー、どこまで行って……」
南美姉と咲美姉がそこまで言って固まってしまった。視線の先はもちろん天乃原さんの方だ。
「……あ、く、クラスメイトの天乃原さん……偶然駅の近くで会って」
「こんにちは、天乃原と申します」
そう言って天乃原さんはぺこりとお辞儀をした。
「あら! あらあらあら! 大河の姉の南美です~、ようこそいらっしゃい~」
「あらまぁ! 同じく姉の咲美です~、さあさあ、座って座って~」
南美姉と咲美姉が天乃原さんを引っ張るようにしてリビングのソファーに連れて行った。
「あらまぁー、可愛いわねー、なんかこう、真面目そうな感じがいいわぁ!」
「ほんとほんとー、あ、天乃原さん、下の名前はなんていうの?」
「あ、琴音と申します。すみません、言うのを忘れていました」
「あらぁー、いい名前! 琴音ちゃんかぁー! あ、琴音ちゃんはアイス食べる人?」
「あ、はい、好きです」
「よかったわ、アイスあるから食べてー、大河もぼーっとしてないで、こっちおいで」
テンションの高い姉二人……は置いておいて、俺たちはみんなでアイスを食べることにした……って、どうしてこうなったんだろう。
「すみません、いただきます……あ、美味しいです。バニラの濃厚な感じが」
「そうでしょー、でもそっかー、大河にこんな可愛い彼女がいたなんてねー」
「ほんとほんと、大河、なんで隠してたのよー、もっと早く言いなさいよ」
「ええ!? い、いや、天乃原さんはクラスメイトで……」
「――あら? なんか楽しそうね」
母さんが二階から降りてきたようだ。
「あ、お母さん! 大河が彼女連れてきたー!」
「そうそう、めっちゃ可愛い彼女ー!」
「あらあら、そうなのね、こんにちは、大河の母です」
「こんにちは、天乃原琴音と申します」
また天乃原さんがぺこりとお辞儀をした。
「まあまあ、礼儀正しくて可愛らしいお嬢さんねー……って、あら?」
「ん? 母さん、どうかした?」
「ああ、いや、琴音ちゃん、どこかで会ったような気がするんだけど、きっと気のせいね」
……あれ? そういえばばあちゃんも同じようなこと言ってなかったっけ……? どこかで会ってるのかな? でも、たしか天乃原さんとは中学も違うしな、誰かと間違えているのだろうか。
「琴音ちゃん、可愛いわぁ~、食べちゃいたいくらい」
「ほんとほんと、ぎゅーって抱きしめて、ちゅーってしたいわ~」
「ありがとうございます」
変態の姉二人は……もう放っておこう。
そんな感じで、俺の家になぜか天乃原さんが来たのであった。
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