推しと釣りとバーベキュー
最後まで丁寧な対応で気持ちよく旅館を出る。
猫達も存分に楽しんだようで機嫌が良さそうだ。今はキャンピングカーの中でゴロゴロしている。絶対また来よう。
「次は冬休みに来たいなぁ。」
「はい。私もです。次はもう1ランク上げてみましょうか。」
昨日ほぼ裸で密着したせいか美憂に女を感じてしまって参ってしまう。きっと付き合えば美憂は喜んで俺に体を許すだろう。
だけど性欲の為に付き合うなんて論外だ。
結局出せる回答が今の俺にはない。
「そうだな。こういうイベント関係は一任するよ。でも金が足りなくなったらちゃんと相談してくれよ?」
「勿論です。報連相は社会人の基本ですから。」
上目遣いが可愛い!さすが俺の推し!
「先ずは買い物ですね。」
「あぁ。せっかくだから金に糸目はつけないでいこう。先ずはいい肉を仕入れに行こうぜ。」
「ふふっ野菜もちゃんと食べてくださいよ?」
「わかってるって。」
車を走らせる。今日も楽しい1日になりそうだと俺の心は弾んでいた。
食材を買い込んだ俺たちは、安全運転第一でキャンプ場に向かっていた。
「私、キャンプも初めてです。」
「まぁちょっと特殊なキャンプだけどな。」
「特殊なキャンプ?」
「普通はテントとか用意するけど俺達にはこのチートキャンピングカーがあるから。他のキャンプ好きの人から言わせればちょっと邪道だと思う。ほら風呂、ベッド完備のキャンプってキャンプらしくないだろ?」
「あぁ成程です。でもそれって猫ちゃんの為ですよね?達也さんから高校時代の宗司さんは自転車にテントをくくりつけて、よく一人キャンプに行ってたって聞きました。」
その通りだ。だが猫が増えるにつれてそれが出来なくなった。車の免許が取れて遠出が出来るようになった俺はキャンプ欲を抑えきれなくなる。導き出された結論が金に糸目を付けない最高級キャンピングカーの購入だった。
これなら猫も一緒に行動できるし。
「そうだな。猫を置いて行くとそわそわしちゃうし純粋に楽しめないんだよ。」
「私が猫ちゃんを見ているのでたまには1人で行ってもいいですよ?」
「嫌だ。」
嬉しい提案だが速攻で却下する。
「あっ、私じゃ不安ですよね。ごめ」
「違う違う。2人で色々やりたいって言ったでしょ?なら行動する時は一緒がいいよ。」
言葉を遮る。
何か変な方向で捉えられるのは嫌だった。
「あぅ。」
?美憂からなんか変な声が出たような。
「宗司さんの言葉が嬉しすぎてキュンキュンしてしまいました。」
美憂は耳まで真っ赤になっている。
「そ、そうか。」
俺は君の反応が可愛すぎてドキッとしたけどね!?キャンプ場が見えてくる。
ここはペット可予約ありのキャンプ場だ。
予約ありの方が治安がいいし、予約スペースを川の近くにする事でこのキャンピングカーを川近くまで持っていくことができる。
「じゃあちょっと受付に行ってくるから待っててくれるかな。」
「はい。」
微笑む推しが眩しい!
俺はぱっと受付を済ませて車を移動させた。
「あっ、私の竿引かれてる気がします!」
美憂が嬉しそうな声をあげる。
今俺達は釣りをしていた。
初めてやるとの事だったが美憂には釣りの才能があるらしい。
なんなら俺より釣れてる気がする。
負けてるのはちょっと悔しいけど、推しの可愛さの方が勝った。
「見てください!さっきよりでかいですよ!」
「おぉ。立派なヤマメだな!ところで魚は捌けるのか?」
「勿論です!任せてください!」
笑顔で頷く美憂は可愛い。ウチの猫も魚が好きだ。俺はいつも苦労しながら捌いて、魚を焼いて猫に食べさせていた。
「助かるよ。自分で言うのもアレだけど生活力は皆無だからさ。猫にあげたくて頑張って魚を捌くんだけどいつもボロボロになっちゃうんだよ。」
俺は遠い目をする。
「逆に私は家事以外壊滅的ですから…。寧ろ活躍の場があってほっとしてます!出来ないことがあるからこそ人は支え合うんだと私は思います!」
この子の言っている事は真理だなと思った。
俺だって家の掃除にハウスキーパーを雇っていたし、料理は出前でなんとかしていた。
誰にでも得意な事、苦手な事があるから多種多様な仕事がある。需要があるから供給がある。
「だから家事だけは任せてください!」
ずいっと美憂の顔が近づく。
整った顔に手を添える。
美憂は気持ちよさそうに目を瞑り、俺の手に顔を擦り付ける。すべすべとして柔らかい。
俺はそっと頬にキスをした。
「あぁ。頼りにしてる。」
位置的に耳元で囁いたのが悪かったのか、美憂がビクッと体を震わせる。
「あっ…ひゃい。」
と返事をして美憂が惚けた様な顔で至近距離で俺の顔を見るので、咄嗟に顔を背けた。これはダメだ。脳が壊れる破壊力!
今は顔は見れないので俺は肩に頭を乗せてくる美憂を撫で続けた。
手際よく魚を捌く美憂を見て感心する。
見事なものだ。俺が捌くボロボロの魚とは全然違う。なんだか今まで捌いた魚たちに土下座をしたくなる気持ちだ。
最後の一匹を捌くと美憂は手を洗い俺の方に向き直る。
「一通り下準備は終わりましたね。バーベキューをしますか?」
「そうだな。じゃあ火を起こしてくるよ。」
俺は外に出ると早速準備をする。
キャンピングカーにもコンロはあるけれど、キャンプといえば炭火でバーベキューが鉄板である。慣れた手つきで準備を終わらせると火がついた。とりあえず放置しても問題ないところまでやった俺はキャンピングテーブルと椅子を取りにキャンピングカーに戻る。
キャンピングカーに戻るとましろと美憂が遊んでいた。
「あっすいません。ましろが遊びたそうだったので…。」
気まずそうにする美優とましろの頭を撫でる。
「問題ない。力仕事は俺の仕事だからな。猫と遊ぶのも大切な時間だ。むしろどんどん遊んでやってくれ。」
「えへへ。ありがとうございます。」
なぜか美憂がお礼を言い、にゃ〜とましろが鳴く。うん可愛い。自然と頬が緩んでしまうのがわかる。
片手にテーブル、片手に椅子を持ち外に出る。
「それにしても暑いなぁ。」
見上げると太陽が俺を容赦なく虐めている。
こんな時はアレだ。今日はビールだな。
昼から飲む背徳感に勝るものはない。
となればさっさと準備をするとしよう。
俺はせかせかと準備を進めた。
のんびりとタバコの煙に包まれていると美憂がクーラーボックスを持ってくるのが見えた。
恐らくあの中に食材が入っているのだろう。
女性には重そうだ。
俺は靴の裏で火を消して携帯灰皿に突っ込む。
「手伝うよ。美憂は調味料を頼む。食材はそこそこあるから俺が運ぶよ。」
「はい。有難うございます。」
美憂はパタパタとキャンピングカーに戻っていくとすぐに調味料を持って戻って来た。
俺たちは手早く準備してバーベキューを開始した。
カシュ
良い音を立ててビールの缶が空く。
乾杯と缶を併せて俺は一気に飲む。
美憂は恐る恐るといった感じでチューハイに口をつけた。
「あっ、甘くて美味しい。」
「酒は初か?」
「はい。飲む機会もなかったので。私、女子校出身なんですがおとなしい子とばかり付き合ってたので飲み会にも参加した事ないんです。」
「そうか。じゃああんまりグイグイいかないほうがいいな。最初は加減がわからないもんだから。加減がわからないうちは誰もが一度は失敗するもんだし。」
「そうなんですね。」
美憂が俺の皿に肉を乗せる。
さんきゅっと言って俺は肉を口に運ぶ。
うん最高の焼き加減と塩加減。完璧だ。
ビールが進む。
また皿に乗る肉を見つめてふーふーとすると美憂を手で呼ぶ。
キョトン顔で近づいてくる美憂に肉を差し出す。所謂あーんというやつだがまだ肉を食べていない美憂に食べて欲しかった。
これなら断らないだろう。
美憂は少し驚いたようだが嬉しそうに微笑み口を開けた。
「美味しいです♪」
「君が完璧に焼いてくれたからだ。君も食べてくれないと据わりも悪い。だから俺を優先しなくていい。それにほら、なんだ、もし付き合ったら俺は対等がいいんだ。」
酒の勢いで口にすると美憂は本当に嬉しそうにはいと笑う。流石に少し照れ臭く、俺は頬をかくのだった。
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