旅行の約束と友人達との時間

「温泉?」

「はい。貴方から頂いた給料を貴方と使いたいんです。今回の件の湯治もかねて私は宗司さんと行きたいんです。因みに猫可の所を見つけました。家族全員で行けます。だから家族旅行と社員旅行を兼ねるというか…。運転だけは任せる事になっちゃうんですが…ダメですか?」

家族全員で…。

そうだなそこまで言われて断る理由もない。

「でもいいのか?別に金は出すけど?」

「いえ。これは私の我儘ですから。それに住まわせていただいてるのでありがたい事にお金も貯まっています。私はこのお金をこういう事に使いたいんです。」

いい子すぎる。別に自由に使っていいのに。

「じゃあ羽を伸ばしにいくか。温泉でゆっくり休んだらついでにキャンプにも行こうか。キャンピングカーは定期的に達也に動かしてもらったからおそらく問題なく使えるはずだ。」

「良いんですか?」

「あぁ。キングベッドしかないから誘いづらいなぁと思ってたんだけど、俺たちは一緒に寝る事にも慣れてきたし大丈夫だろ。猫も放し飼いに出来るから問題ないよ。」

「嬉しいです♪」

はい可愛い。

それにしても家族旅行兼社員旅行か。猫が気になってキャンプくらいしか外に遊びに行く事は無かったが猫と行ける旅館なんてものがあるのか。正直1年前まではこんな事予想もできなかっただろう。

色々話した結果、温泉に1泊、キャンプ場に1泊で予定を立てた。

泊まる旅館は白銀旅館と言うらしい。

どこぞの大財閥の夫婦がカップルと夫婦向けに建てた旅館らしく、猫を連れていると更に割引されるとのことだった。

一度に10匹まで可。

因みに評価は1万以上あるのに⭐︎4.9/5。

見た時は目を疑った。高評価すぎる。

自慢の家族風呂、大浴場、料理。

猫がのんびり過ごせるようにキャットタワーやおもちゃまで完備。正直今から楽しみである。


「なぁ。好きって何だろうなぁ。」

「は?俺が知るか。」

旅行を一週間後に控えた今日。

世話になってる親友2人とバーベキューをする為に庭を解放していた。

今俺と達也は喫煙室で駄弁っている。

美憂と茜は仲良く台所で準備をしていた。

「現実は漫画とは違うしな。相手のことを考えると胸が苦しいとかありきたりの事は言えるけど、俺の実体験じゃない。逆に聞くけどお前にとっての好きって何よ。」

「リアルの恋愛なら相手の資産。金があれば大抵解決する。人間はみんな金が好きだ。第2に顔。見た目。どうせならビジュがいい方が良いだろ。」

「真理だなぁ。」

達也が長く煙を吐く。

「じゃあ美優さんはなんでお前を好きになったんだろうな。」

俺は長めに吸い込むと輪っかを吐いた。

少し考えながら頭を振る。

「わからん。俺の常識では測れないということはわかった。だって俺に金を使わせるならともかく俺の為に金を使う女なんているか?」

「いないな。もしかしてリアルにも漫画のような恋愛があるのかもな。で?好きなの?」

「だから好きってなんだ。」

「知らん。自分で考えろ。」

「お前はいい加減茜のことを考えろ。何年保留にしてんだよ。」

今度は達也が長く煙をすう。

「藪蛇だったか。なぁとりあえず付き合うってありだと思うか?」

「そんなに溜めといてとりあえずかよ。いや知らんけど。俺も保留にしてたわ。同じ穴の狢だった。」

2人してため息を吐く。

「よし。恋愛を学びに行こう。」

達也が立ち上がる。

「どこに?」

「書斎だよ。宗司の図書館。」

「漫画かよ。」

俺も立ち上がって達也と喫煙室を出た。


リビングの2人に声をかけて、俺たちは書斎へと移動する。勉強用の資料、漫画、小説。

俺の趣味に合うものは全て揃っている。

「恋愛漫画はこの辺だ。」

「あぁ。どうすっかな。やっぱ学園?」

「卒業してから久しいのに学園ものかよ。なんの参考にもならないぞ。まぁ読む分には面白いからいいと思うけど。」

俺は届いたばかりの本を手に取り読み始めた。

財閥同士の恋愛ものだ。

主人公は俺と同じく金持ちでヒロインがそれを献身的に支えるという話。

先週ネットで見つけて購入してみた。

これが勉強になりそうだと思ったからだ。

ふと達也を見ると幼馴染ものを読んでいた。

センスがいい。俺はそれを読み込んだ。

めっちゃ面白いけど現実にあんな幼馴染はいない。リアルには程遠い。

こいつ勉強する気ないだろ。

まぁいいか。漫画は楽しんで読むものだ。

その後、俺たちは無言で漫画を読み続けるとコンコンと音がした。

「準備ができました。」

「何読んでんのよ。」

扉の先には2人がいた。達也を見ると寝ていた。

そういえばこいつが恋愛ものとか読んでるとことか見た事ないわ。

「あぁ。漫画だ。」

俺は本をさっと戻して立ち上がる。

達也を軽く蹴ると目を覚ました。

こいつが恋愛漫画に興味がなさすぎて寝てしまったと言ったら茜が悲しむだろう。

俺は達也が読んでいた本をサッと回収して本棚に戻した。

達也がふぁ〜っと欠伸をして伸びる。

こいつは全く…。

少しは俺に感謝してほしいところだ。

「達也。アンタ涎なんて垂らしてもう…。子供なんだから。」

茜がそっとハンカチで達也の顔を拭く。

「あっ?あぁすまん。さんきゅ。いやぁちょっとあの本は俺には向かねぇわ。」

俺は余計な事を言うなともう一度達也を蹴る。

「いて!何すんだよ宗司!」

「うるさい。黙れ。名作が汚れる。」

「で?何読んでたわけ?」

「ん?あぁ…それは…。」

もう一度蹴る。

「うるさい。黙れ。名作が汚れる。」

俺がジト目で睨むと察したのか達也が黙った。

「えー何よー。」

茜が頬を膨らます。

「秘密だ。」

「あ、あぁ。秘密だ。」

「あっ、わかった。エロ本でしょ!」

「そんなものはここには無い。」

現にここにはない。

そういうものは今時は電子媒体だ。

「そうだぞ茜!こいつのエロ本はPCの中だ!」

「え?そうなんですか?」

美憂が俺を見る。

「よし。殺そう。それが世の為だ。」

失言に気づいた達也の顔が青くなる。

その後、達也の土下座を受けて仕方ないと許した俺は美憂にしつこく聞かれるハメになった。


「酷い目にあった…。」

バーベキューも終わり、俺と達也は大浴場で伸びていた。

「美味かったなぁ。」

「あぁ。最高級の肉と最高級のシェフのセットだ。不味くなるはずがないが、幸せな時間だったな。」

「それよりこの風呂だよ!前より小さくなってね!?」

達也のいう通りだ。

元々の大浴場は1人では明らかに大きかったから中央に壁を儲けて二分したのだ。

その関係で色々と改造を加える事にはなった。

ついでにサウナを向こうに一個増やした。

「元々がデカすぎて持て余してた。それに女性が来たからな。ラッキースケベ防止策だ。」

「それはあえて残すべきでわ?」

達也の声に反応するように壁に何かが当たる音が聞こえた。

「おい茜!壊すなよ!?」

そう、この壁はあんまり厚くない。それなりの声量で話せば向こうにも聞こえてしまうのだ。

「達也。あんま失言しないでくれ。壁が壊れるから。」

「あ、あぁ。わりぃ。」

「サウナ行こうぜ。」

俺が立ち上がると達也も頷いて立ち上がった。

「いやぁ実に整った環境だよな。」

「風呂は効能とかないからやっぱたまには温泉とか行きたくなるけどな。つか1人だと結局面倒くてサウナ→水風呂→シャワーで終わりだったよ。」

「あぁ。確かに俺が遊びに行った時は必死に浴槽掃除してお湯張ってたもんな。」

「あぁ。美憂様々だ。当然手伝ってるけど、あの子がいないと封印されてたのは間違いないな。」

達也はふっと笑う。

「なんだよ?」

「いや…やっぱ2人はお似合いだよ。俺は応援している。」

お似合いの意味がわからない。

彼女なら選り取り見取りだ。俺じゃ釣り合わん。

「人のことより自分の事だろ。お前と茜だってお似合いだから。」

「そう…かな。」

達也は苦笑いを浮かべる。

コイツにはコイツの悩みがあって、俺はそれを知っているからこれ以上言う気はない。

汗をかきながら上を見上げる。

やっぱり俺たちには恋は難しいようだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る