第3章 ふたりのTURNING POINT 第五話

 太陽が西に大きく傾き夕陽が空を橙色に染める頃、セントルアの王城に集まっていた幹部達が一人また一人と正門から馬車で帰路に着いていた。

 アルホース隊のバット(通称コウモリ)は正門が見える高い木の上でベクターの馬車を待ち構えていた。

 バットは隠密と音探知能力に優れておりコウモリと言う通称通り多少の距離があっても一度会った相手なら息遣いや鼓動の音で相手を判別出来る、そのバットがベクターを捉えた。


バット(みつけたぜ……此方に気付く様子も無しと……)

バット「ベクターは正門から西門通りを西へ移動中キャビンは黒に組蛇紋章だ」


 セントルアの幹部達は丸二日間王城に監禁状態だった、ここ数年の軍部予算増額が国庫に大きな負担をかけている事への質疑応答だったのだ。


ベクター「無能者共が!私の大事な時間を無駄に使いおって!」


 軍部の研究室客員であるベクターはセントルア国王の後押しもありムーア時代に起こした研究を追究し続けていたが、その研究費用に関する答弁の為に大事な時間を潰され苛立ちを隠せないでいるのだ。


アルホース『アスル嬢ちゃん予想通りそっちに向っている見えるかい?』

アスル『此方に向かって来るのがみえます!』

ヴィンス『全員配置通りだな?ホシだけでなく周囲の警戒も怠るな!』


 混合チームの内で足の速い者達でベクターを遠巻きに追跡する、眼の良いアスルはコロッセオの高層からイーグルアイで組蛇紋章を確認した。


レディ「お嬢ちゃん見失うんじゃないよ」

アスル「あの…レディさん、背中に尋常ならざる威圧感が……」

レディ「しょうがないさぁ!アンタの護衛役を嫌々任されてんだからぁ」


 アスルとレディのコンビはこの辺りでひと際高いコロッセオの最上階からベクターの行き先を監視していた、アスルの護衛役としてレディが起用されてはいるが裏社会でトップクラスの重圧にアスルは冷汗が止まらない思いだった。


レディ『此方に向かってるねぇ』

アスル『此処に来ますね』


 ベクターの馬車はゆっくりとコロッセオの周りを一周するとそのまま止まらずまた城の方へと帰って行った。


バット『キャビンからは奴の気配が感じられません……消えました』

アルホース『転移したな…奴の転移魔法ではそう遠くへ飛べないはずだ、この近くを探ろう』

バット『わかりました!時間をください』


 バットはベクターの気配を見失った地点を重点的に歩いては止まり進んでは戻りを繰り返しながらベクターの音を追った。

 アルホース達はツーマンセルとなりコロッセオ周辺を巡廻しながら怪しそうな建物に探りを入れた。


※※※


 生暖かく湿った空気が全身に纏わりつく、壁に松明が有るとはいえ薄暗く手に持ったランタンの灯りだけでは心許ない。

 地下に降りてから暫く進み鉄格子の前で足を止めた。


ベクター「ご機嫌ようお嬢さん、質の良い料理を提供するよう言いつけておいたのだが口に合わなかったようですね」


 鉄格子の中には猿轡さるぐつわをかまされ手脚を鎖で繋がれて動く事を封じられたメアリーが居た、動きを封じられているとはいえ実験体としての最低限の健康は保たれているようだった。


ベクター「今日は馬鹿の相手で疲れた上にもう遅い、お前は明日私自らじっくりと相手をしてやる楽しみにしておけ…ククク……」

メアリー「グアオァァ!!」


 メアリーは卑しく笑いながら遠ざかってゆくベクターの背中に咆哮の様な叫び声を挙げながら闘気を解放する、それは『お前は私が殺す』と言わんばかりの怒りを十二分に込められた殺意だった。


※※※


ラヴ『残すはこのデッカイ建物だけね』

バット『ビンゴだ!間違いねぇ足の下から女のうめき声といけ好かねぇ男の高笑いが耳についた!』

ヴィンス『地下道……いや地下に隠し施設か……入口は…』

アルホース『闘技場だな!』


 混合チームは四人一組の2チームに別れ闘技場へと潜入する、パンはロキシーを背負っての移動となるので外での待機となった。

 

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