第4話 家の周りで、ちょっと魔法の練習
セリーナもここが大きな森の中だと忘れていたんじゃないかな? 首を跳ね飛ばされたビッグボアは、セリーナが魔法で浮かせて小屋の前に運ぶ。
私は、セリーナに突き飛ばされたので散らばった薬草を結界の中に持って入る。
セリーナが、私に魔法を教える事にした。薬草を摘みに結界の外に出た途端、ビッグボアに襲われたからだ。
「あんなビッグボアごときにやられたら、あんたをここまで育てた苦労が水の泡だよ」
それは、セリーナがうっかりしていたからじゃない? と思うけど、口にしたら、赤ちゃんの時から育てた苦労を延々と言われるので黙っておく。私も7歳まで生きて、賢くなったんだよ。
「セリーナがビッグボアをやっつけていた魔法を教えて欲しいな」
セリーナは、煽てられるのに弱い。機嫌をなおして教えてもらった方が、わかりやすいと思う。これは、生活の知恵だよ。
「あれは、なかなか難しいんだよ。でも、風の魔法から練習するのは良いかもしれないね」
確かに、火の魔法とかは森を燃やしたら困るし、水浴びには寒い季節だからね。
「ゾーイは、赤ちゃんの時から物を浮遊させていたぐらいだ。だから、風の魔法とは相性が良いはずだよ」
それ、初耳だ。バスケットから抱き上げたら、オシッコを掛けられたとか、お腹を減らして泣き止まないから、山羊のメリーを金貨を置いて召喚したとか、鳴き声が大きくて読書の邪魔だったなど、色々と私への苦情は多かったけどね。
「じゃあ! 私は魔法を使えるんだね!」
前世の記憶が蘇って、魔法がない世界だったのがわかった。この世界では、魔法があるみたいだけど……あまり使える人はいないみたい。
だって、大きな森に住んでいるのは、セリーナだけだから。魔物がいても平気なのは、魔法が使えるからだよね。
「まぁ、使えるんじゃないかな? さぁ、見ていてごらん」
セリーナは、片手を前に出して『ウィンドカッター!』と唱えた。
目の前の若木がスパッと切れた。
「わぁ、これが使えたら、薪集めが簡単になるね!」
セリーナは、魔法で火も起こせるけど、料理や暖を取るのには、薪を暖炉で燃やしている。料理も、基本は暖炉だけど、一応は竃もある。
セリーナは、料理が苦手だし、私も記憶が蘇る前は、教えてもらった粥とスープぐらいしか料理できなかったから、暖炉で十分だったんだ。
「薪を集めるなら、こちらの魔法の方が良いね!
そこら辺に落ちている木の枝などが集まった。でも、それだけでなく、木の葉なども一緒だ。
「セリーナ、木の枝だけ集めたい時は?」
これ、失敗したんじゃないかな?
「木の枝だけを思い浮かべたら良いのさ。ただし、枯葉も焚き付けになるだろう」
セリーナは、自分の失敗を絶対に認めない。
「ゾーイ、
それに、飽きっぽい。私に魔法を教えるのに飽きたんだと思う。
こんな教え方で魔法が使えるようになるのか、凄く不安だけど……大きな森には、私とセリーナしか人間はいない。山羊のメリーとベンよりは頼りになるよね。
結界の外に出るのは不安なので、中から薪を集める事にする。あの呪文が使えたらだけどね。
セリーナが薪を集めたのは、家の玄関の前だったから、横手に回る。
つまり、山羊小屋の前だ。今は、昼なのでメリーとベンは、杭に縄で繋がれて、ムシムシと雑草を食べている。
それを後ろにして、結界の外の薪になりそうな折れた木の小枝とかを集めるのだ。
「イメージが重要なのよね」
手でいちいち拾って歩くより、魔法で薪を集められたら楽だよね。
「
手を前に出して、薪が集まるイメージもちゃんと思い浮かべて、唱えた。
「メエェェェ」
私が大きな声を出したから、メリーが嫌がって鳴いた。ベンは、メリーの後ろに隠れている。ベンって、お乳も出ないから、いつ潰されてしまうのか怯えているんだ。
「ごめん、ごめん! 他所で練習するね」
魔物の肉は、今日みたいにセリーナが討伐したら手に入るけど、山羊の乳は貴重な蛋白源だからね。それに、メリーとベンは家族だもん。
これは、セリーナに山羊に名前をつけた時から注意されているけど……この大きな森の中で、セリーナと二人だけはキツいんだ。
だって、セリーナは読書や魔法の研究をし始めたら、私の存在を忘れちゃうんだもん。
そんな時、メリーとベンにどれだけ慰められたか。
横手から、裏側に周る。ここには、井戸があって、夏はタライに水を汲んで入ったりする。
家の裏口から出入りもできるんだ。洗濯は、セリーナが時々していたけど、私が大きくなったから、自分でしなさいと言われている。
セリーナは魔法で洗濯物を綺麗にしたり、乾かしたりできるけど、私はタライでゴシゴシするんだ。いつか、魔法で洗濯できるようになりたいな。
裏手の結界の外には、何本もの木の枝が落ちていた。
「木の枝よ、
ふぅ、全く集まらない。セリーナの教え方が悪いのか、それとも私に魔法の能力がないのか? 悩んじゃうよ。
「一日で魔法が使えるようになるわけがないのかも?」
修業が必要なのもわかるけど、気分を変える為に、家の裏手から周って、横手に行く。
ここからは、大きな森から近くのラング村までの獣道っぽいのが見える。
「普通は、道に向かって玄関を作らない?」
まぁ、セリーナは世捨て人というか、世捨て魔女だから、普通の感覚で生きてはいないのだろう。
それは、私もそうなのかな? だって、セリーナ以外の人間とは……一度、結界の外で騒いでいる男の人を見た気がするけど、幼い頃なので朧げなんだよね。怖かった気がする。
これって、普通の育ち方じゃないのは、前世の記憶が蘇ったのでわかる。
ただ、玄関前の方が森が迫っていない。この家をどうやってセリーナが大きな森の中に建てたのかは知らないけど、空き地があったのか?
それなら、玄関前に広く土地を取って建てたのかもね?
つまり、こちらの横手には、結界の中にも木が生えているんだ。
結界を越えられなかった時、木登りして、結界の外に飛び降りたらいけるんじゃないか? と試したけど……無惨に跳ね返されただけだった。
木から落ちて、全身を擦りむき、セリーナに魔法で治療して貰ったんだけど、一ヶ月ぐらい馬鹿にされた。
あの当時は、六歳になったばかりだったからさぁ。今は、七歳! それに、前世の記憶のお陰で賢くなっている筈。
何が言いたいかというと、木の上から薪にする枝を直接見ながらだったら、魔法で集める事ができるんじゃないかなって事。
木には登りやすいのと、登りにくいのがあるんだよね。他に遊び道具もないから、枝が足を掛けやすい木に登るのには、慣れている。
木の上に登って、下に見える落ちている木の枝を見ながら「
結果は……一日で魔法の習得は無理だった。ふぅ、明日も頑張ろう!
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