第39話 わおわおがんばる
「いくよ、クーン」
「わおわお!」
「発動、アルティメット!」
「わおおおおおん」
アルティメットを付与した途端、クーンの体から青白いオーラのようなものが沸き上がり、彼の体を包み込む。
オーラの色が濃くなり、クーンの姿が見えなくなってしまう。
「クーン」
自分の時とはあまりに異なるアルティメット発動後の状態にアルティメットを解除しようと彼に触れようと手を伸ばす。
その時――。
オーラが晴れ、一回り大きくなったクーンが尻尾を振っていた。
毛色が純白から青みがかった白……アイスホワイトとでも表現しようか。アイスホワイトカラーのクーンがペロンと俺の頬を舐める。
クーンはクーンのようで安心したよ。
「フェンリル」
「クーンはフェンリルじゃくてクー・シーなんだよね?」
独り言のように呟かれたハクの言葉に反応し、彼女へ質問を返す。
「いまはフェンリルと同じ」
「アルティメットが一時的な進化を促したのかな?」
ハクは首を横に振るばかり。彼女としても何が原因なのか捉え切れていない様子。
考察は後からでいい。
「クーンは俺と一緒に行きたかったんだよな、それでアルティメットをかけてくれと」
「わお」
「ごめん、一人で外に出ようとしていて。共に行こう、クーン」
「わおん!」
言わずとも彼には分かっていたらしい。そうだな、クーン。俺たちはどこまでの一緒だ。
クーンにまたがり、彼の首元を撫でる。
「ハク、すぐに戻る」
そう言い残し、雷が絶え間なく降り注ぐ外へ。
ピカっと光ったと思ったら、地面に雷が突き刺さっている。
だけど、これは本物の雷ではない。『本物の』ってのが何をもってとすべきか異論が多数あるけど、自然現象の雷とは異なる、という意味で本物とは異なると表現した。
素の俺では気が付かなかったが、アルティメットを付与した状態でジンライが発する雷を観察すると一目瞭然だったんだ。
自然現象の雷と同じだったら、そのまま外へ出ることはしなかったよ。
ジンライの発する雷は『遅い』んだ。目視できるほどに。そうだな、マッハ3くらいだろうか。更に空が光ると確実に雷となり数秒後に落ちてくる。
自然現象の雷だと光って落ちてくるとは限らないし、光速なので回避不可能だ。
だからといってジンライの雷が劣っているのかというとそうでもない。観察するに狙ったところに落とせるようだし、破壊力も規格外である。
「クーン、空が光ったら真っ直ぐ落ちて来る、右だ」
「わおん」
動くものに対し優先的に攻撃をしてくるようになっているのか、次から次へと雷が俺たちに狙いをつけて落ちてきた。
しかし、クーンは雷に当たらないスレスレのところで華麗に回避していく。
「エンチャント・タフネス、そして、エンチャント・ストレングス」
崖を強化すると同時にクーンが崖を駆け上がる。
後ろを追いかけるように雷が落ちるも崖が崩れることはなかった。よおし、強化済みの崖なら雷でも崩落してくることはなさそうだな。
崖の上には予め準備していた大岩がいくつも鎮座していた。
大岩もエンチャント済みだ。
大岩を掴んだところで雷がふってくるが、大岩を盾にして雷をふさぐ。
「うおおおお」
力いっぱい大岩をジンライに向け放り投げる。
音速を越えた大岩からソニックブームが発され、ジンライに直撃……する前に雷のオーラでバラバラに崩れ落ちてしまった。
「雷のオーラ? が厄介だな」
奴の攻撃は回避できている。色んな手を試してみて奴に通る攻撃を模索していけばいい。
「平常心、平常心……あああ」
『グルウアアアアアアア』
ジンライが鼓膜をつんざくような咆哮をあげる。あまりの音に木の枝が揺れ、ひらひらと多数の葉が落ちてきた。
ぐ、ぐう。
音によって動きが鈍ったところへ雷が!
しかし、クーンが身をひるがえし間一髪のところで回避してくれた。
「ありがとう、クーン」
「わおん!」
ふう、肝を冷やしたぜ。大岩だとダメなら次は何をぶつける?
考えを巡らせている間にも絶え間なく雷が落ちてくるが、軽々と回避(クーンが)しつつクーンが跳躍し、崖の反対側に着地した。
すっげえええ。百メートル以上跳んだぞ!
「ん」
雷が止んだ。さすがに連続で雷を打ち続けて魔力切れとか息切れでも起こしたか?
違う!
溜めているんだ。
『グルウアアアアアアア』
ひときわ大きな落雷が襲い掛かってきた。でかすぎだろ、あれ。
これでは大岩で防御してもクーンに当たってしまう。
瞬時に防御することを諦め、クーンに全速で駆けてもらい回避。
ガサリ。
最大強化した俺の聴覚が僅かな異音を捉える。これは、足音だ。
俺以外の足音となれば、ハクのものとなる。足音のしたところは避難所の入口付近……ハク、外に出たのか!
ジンライは俺とクーンに集中しているが、動くものとなれば容赦なく雷を落としてくる。
俺たちは崖上にいて、避難所は崖下だ。
「クーン」
呼びかけるだけでクーンは俺の意図を察知し、雷を躱しながら避難所に向かう。
ハクもまた俺たちの方へ進んできていた。
「ティル、ハクにもかけて」
「分かった。外は危ないって」
『グルウアアアアアアア』
俺の声がジンライの凄まじい咆哮でかきけされる。この咆哮の後にくるのは。
マズイ!
空にはひときわ大きな光の塊が浮かび上がっている。
『付与術だよ、ティル』
その時、頭の中に声が響く。付与術? どこに?
次の瞬間、地面がめくれ上がり俺たちを護るような岩の盾となる。
「エンチャント・タフネス」
土の盾に付与術をかけたのと雷が直撃するのはほぼ同時だった。
「ふ、ふう。危なかった」
「間一髪だったね」
「兄さん!」
「急いで向かって正解だったよ」
声をした方を見上げると宮廷魔術師のローブに身を包んだ赤毛の女の子……ではなく兄のリュックが空に浮かんでいたではないか。
彼はキュートに片目をつぶり、ひらひらと小さく手を振る。
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