第17話 今日は親友とよく喋った

「フハハハハハ!!! 俺の名前はガーダ! 魔王八天王の一人であるガーゴイル族だぶぎゅ?!」

 今日はレレレータおばさんにプヨプヨチーズをお届けしないといけないので、早々に魔物を倒して、配達に向かった。

 あれ? 変身しなくても勝てた。

 まぁ、いいや。

 それよりもレレレータおばさんの家はかなり難解な所だった。

 具体的には距離ではないのだが。

 私はレレレータの家に着いた。

 しかし、ドアにある貼り紙があった。

『問題:猿も木から落ちるというが、落ちるとはいってもそう簡単に落ちる事はない。重力が手助けしてくれる。そんな人はいないはずだが、いるにはいるのだ。それにしても猿も木から落ちるのは無に等しく、もう何もかもテンデンバラナラな事をしている。さらに言えば、屍の中に眠る開業は開放でもあり、快楽でもある……さて、パンがパンでも食べられないパンは?』

 これだ。いきなり難解な問題を突きつけて来るから非常に困る。

 最初の頃は何を言っているのか、さっぱりだった。

 けど、何回か訪れているうちにようやく答えが見えた。

 この文は所謂時間稼ぎ……というか、人を選んでいる。

 だから、物理的にドアを蹴飛ばせば問題ない。

 私は足でドアを蹴飛ばすと、レレレータが姿を現した。

「はい、レレレータおばさん、持ってきたよ」

 私がプヨプヨパンを彼女に渡すと、おばさんは嬉しそうに受け取った。

「ありがとう。よかったら、お茶を飲んでいかない?」

 あぁ、またかと思った。

 おばさんの話は難解過ぎて疲れてしまう。

 だから、このまま帰ろうとしたが、おばさんの腕が強くてアレヨアレヨという間に連れ去られてしまった。


「いいかい。世の中というにはね。アヒルが大事なんだよ。アヒルというのはサカシタノボルという人が開発したドンドン食べれる装置の事なんだけど、トリバエズジャンという構想を得た人間がアリウエという人に託したとされていて、それで角煮を食べた人編の本を読み取っていく、ハーークション!!! ハーーークション!! あれ? あれ? どうしたかしら? 急にクシャミが……私は何を祖としているのかが重要よ。いいこと? とにかくハンバーグを食べなさい。ハンバーグとハンバーグするだけで頭がハンバーグとミンチになって、喜びの回答をするの。回答というのは、金座の下にあるチキンライスのことであり、金座にチケット? いやいや、金座にバンザイだった。だけど、ママレードの味はとても美味しい。美味しいのか? ママレードってなに? マーマーレード? マーナーナーナーナー! ほう、歌いたくなっちゃう。ばっちゃう、はっちゃう、まっちゃう、よっちゃう、のっちゃう、バッチュア!

ふう、それにしても喉が乾いたわね。だからこそ、紅茶を作らなくちゃいけないのよ! あるいは、サカシタノボルの大きな力が働いているのか、いやいやそれでもサカシタノボルは誰なんだ。アルファンス・ボンドレードなら知っているけど……。


あぁ、また鼻がムズムズするわ……。


アーーーショイ!!!

アーーーショイ!!!

アーーーショイ!!!


アーーーショイ!!!

アーーーショイ!!!

アーーーショイ!!!


アーーーショイ!!!

アーーーショイ!!!

アーーーショイ!!!


アーーーショイ!!!

アーーーショイ!!!

アーーーショイ!!!


アーーーショイ!!!

アーーーショイ!!!

アーーーショイ!!!


アーーーショイ!!!

アーーーショイ!!!

アーーーショイ!!!


アーーーショイ!!!

アーーーショイ!!!

アーーーショイ!!!


アーーショイ……」


 クシャミが長すぎたので、私はそのまま帰った。

 全く本当にクシャミが多いんだから。

 それにしてもハンバーグというのは不思議な生き物だ。

 何もかもミンチにして、そこからデミグラスソースかブラウンソースかのどちらかを指している。

 でも、そうだからといって、トマトソースにトマトジュースをエタノールに浸して揚げたものを口に入れたとしても、私はよく分からない。

 そうだからといって、ところてんを心臓に入れたからといって、諦めたくはない気持ちが湧き上がるが、それはそうと喜びのコンビネーションは抜群だ。

 確か18世紀の末頃に起きたアボカドとところてんの闘争を書いた作品『マーレッド・ドレトット・バレンテッド』という人物が描いたとされる絵画が何者かに盗まれたらしい。

 それにしても、猿も木から落ちるなんて、これほど滑稽な事はない。

 だからこそ、喜びを分かち合わないといけない。

 確かにさるかに合戦でアンパンを食べる事は法律で禁じられている。

 しかし、それでも私はアンパンを食べなければならない。

 けど、分からない。

 私には分からないのだ。

 そういえば、私は何の配達をしていたのだろう。

 配達ってなんだっけ?

 私は一体何をしていたんだっけ?

 ここはどこだっけ?

 一体私は誰なの?

 私は……私の名前は?

 名前といえば、カンドルという人物が考案したカンドル名前法というものがある。

 これは一本の鉛筆と画用紙を用意して、屍とひたすら書き続けるというものである。

 しかし、そうだからといって、私のアイデンティティが崩れる訳がない。

 でも、カレーライス運勢を占うのも悪くはないかもしれない。

 確かバーレスク・アンドロジャンという旧スロットダン帝国の第四六皇帝が紅茶を嗜んでいた時に考案した方法で、カレーライスにビスケットをダンクさせて、どれくらい美味しいかを競うものらしい。

 あいにく私は大のカレー嫌いだ。

 食べた事ないけど、たぶんカレーは嫌い。

 カレーという丹木が出たのは、恐らくマーシクア現象によるものだろう。

 北海の海の中に生息するランドルフという下流生物により節酒された毒物による効果で、相手の神経細胞に多大なる影響を与えるのだ。

 しかし、即死ではなく、じわりじわりと侵食していき……。

「モプミちゃん!」

 背後から私の名前を呼ぶ声がした。

 振り返ると、シャーナがいた。

「どうしたの? 白目を剥きながら歩いて……」

 シャーナは心配そうに私を見ていた。

 彼女の側にはチュプリンとピャメロンもいて、困惑していた。

 私は我に返った。

「何でもないの。ちょっと疲れただけ。ほら、レレレータおばさんの所に配達に行ったから」

 私は笑顔で返すが、シャーナは「無理しないでね。最近のモプミちゃん、ちょっと様子がおかしいから」と本当に心配そうな顔をしていた。

「大丈夫! 大丈夫! 帰ってすぐ寝たら平気だから!」

 私は声を張ってそう言うと、スキップで家に向かった。

「モプミちゃん!」

 すると、また背後から私を呼ぶ声がした。

 振り返ると、サザエ……じゃなかった。

 シャーナが立っていた。

 側には子犬……じゃない。

 コハダでもなくて……猫がいた。

「……どうしたの?」

 私がそう聞くと、シャーナは私の所に駆け寄って、いきなり手を握った。

「やっぱり一緒に帰ろ! 今日はモプミちゃんの家でシチューを食べたいな!」

 シャーナは満面の笑みでそう言った。

 すると、チュプリンとピャメロンもなぜか私とシャーナの食事会に参加する事になった。

 急にどうしたのだろうと思いつつも、「いいよ。お母さんに頼もう」と言って歩き出した。

「モプミちゃん、最近どう?」

「どうって……何が?」

「魔法少女生活! ちゃんと魔物と戦っているよ」

「でも、今日は魔物が来たけど、全然変身しなかったね」

「うん。なんか素の状態でも倒せちゃった」

「えぇ?! 変身なしで倒したの?!」

「うん。私って武術の才能があるのかもしれない」

「そうなんだ……あ、そうそう! 村長さんから伝言が来たんだけど、今年の祭りが決まったって!」

「へー! 何の祭りにするの?」

「なんか仮装パーティーにするんだって」

「仮装パーティ! それは滑稽ね!」

「……こっけい?」

「うんうん! シャーナは何のコスプレをするの?」

「えーと、猫かな?」

「ベタね! 私は鯉の天ぷらにしようかな!」

「てんぷら? てんぷらって何?」

「さぁ? 私もよく分かんない! アハハハ!!」

「どうしたの? 急に笑い出して、そんなに私が『てんぷら』を知らない事が面白い?」

「うん! 最高に面白い!」

「そ、そっか……そうなんだ。あ、そうそう! 最近、メルーニャさんとローロさん夫婦に赤ちゃんが生まれたんだって!」

「へーーー!! それはめでたいね! 腹踊りして祝福しなくちゃ!」

「そ、それはやり過ぎじゃない?」

「いいのよ、いいのよ。向こうも絶対に喜ぶと思うから!」

「うーん……えっと、パン屋に寄らない?」

「え? なんで?」

「なんか小腹が空いちゃって」

「いやいや、シチューがあるんだから駄目でしょ」

「そっか。そうだよね……ごめん。あ、パン屋で思い出したんだけど、新作が出たんだって! 何でもリンゴジャムとイチゴジャムを組み合わせた……」

 今日のシャーナはよく喋った。

 そんなに私と会話がしたいのかと内心驚いていたが、でも悪い気はしなかったので、ちゃんと答えた。

 チュプリンは何も言わずに私の側で歩いていたが、前よりも距離を感じた。

 いや、物理的な距離ではなくて、心との距離だ。

「モプミちゃん!」

 すると、シャーナは急に大声を張り上げた。

 思わずビクッとなって、彼女の方を見た。

「大丈夫?」

 シャーナはやたらと私を心配していたが、その真意は定かではなかった。

「うんうん! 平気平気!」

 私は大人な対応をして、シャーナの手から離れようとした。

 が、彼女の握力が凄まじく変身してもいないのに、恐ろしいほど馬鹿力だった。

「痛い痛い! 離して!」

 私はそう叫ぶと、シャーナはハッとして、「……ごめん」と静かに手を離した。

 ふぅ、真っ赤になってらぁ。

 私は人工呼吸しているかのような吐息で手を暖めていた。

「シャーナってそんなに寂しがりやだったけ?」

 私がそう聞くと、シャーナ「ううん。そんなんじゃないけど……」と俯いた。

「何だか、モプミちゃんが遠くに行っちゃいそうで……」

 何を言っているんだ、この子は。

「私はどこにも行かないよ。村から一歩も外に出た事なんてないじゃない」

 私がそう言っても、シャーナは浮かない顔をしていた。

 けど、すぐに笑顔になると、また歩き出した。


 その後、普通に家に帰り、母にシチューを作ってもらった。

 体調があまり優れないのか、味が全くしなかったが、それでも食べ続けた。

 シャーナは嬉しそうな顔をしていたけど、目の奥が笑っていなかった。


↓次回予告

 サキュバス、現る。

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