第11.5話 魔王のトラウマとサーターアンダギーを巡って争う王子達

◎魔王sideストーリー

 皆さんが読んでいる最中、何かうるさい状況でしたら、すぐに音を消した方がいい。

 外だったら仕方ないですが、なるべく静かにしてください。

 只今、魔王は夢の中にいるからだ。

 側にいるのは『お眠り大臣』のジャーナです。

 彼女はアスピス族という蛇の魔物の種族で、目線を合わせるだけで相手を眠りに誘う。

 バレーシアは魔王の執務で疲れた時やストレスで寝れない時、心寂しい時は彼女に頼んで寝かしつけてもらうのだ。

「ね〜むれ〜♪ ね〜むれ〜♪ 安らかに〜♪ 夢の中へ〜♪」

 スーパーウルフマーンの音痴な歌声で寝かしつけられたモプミが可哀想なくらいウットリするような美声で子守唄を歌っていた。

 普段であれば絶対に触れる事ができない魔王の頬を撫でられるのもお眠り大臣ならではの特権だった。

「う、うぅ……うぅっ!」

 すると、バレーシアが苦しそうな顔をしていた。

 どうやら悪夢を見ているらしい。

「ま、まま、まま……やだ……殺さないで……」

 過去のトラウマが浮かんでいるのか、枕をギュッと握りしめていた。

 ジャーナは慣れた様子でソッと彼女の手を握ると、耳元で「ママはここにいますよ」と囁く。

 すると、安心した様子で再び眠りに着く。

 ジャーナはその度に魔王が幼少期の時に起きたトラウマを思い返していた。


◎王子様sideストーリー

 マルチーズ王子とオーワン、オーツンの間に緊張感が漂っていた。

 彼らのテーブルの上には、白い皿の上にサーターアンダギーが一個乗っかっていた。


 少しだけ話を遡ろう。

 王子はオーワンの食事の量とスピードに手を焼いていました。

 そこでオーツンに料理を作ってくれる人形はいないか聞いた所、ある一人の名前が浮かんだ。

 オーツンというシェフの格好をした人形だ。

 彼は人形達の中でも一番料理がうまいと言われているオーセンを呪文で復活させると、すぐに料理を作ってくれとお願いした。

 そして、出来上がったのが山盛りのサーターアンダギーだった。

 これが想像を絶するぐらい美味しくて、オーワンはもちろんのこと、食べるつもりじゃなかった王子も虜になっていた。

 さらに人前では決して食べなかったオーツンですら、堂々と口に運んでいた。

 そうこうしていると、あっという間に減っていき、気づけば最後の一個になった。

 皆、目線だけで確認したが、誰も譲る気はなかった。

「なら、仕方ない……」

「戦争よ」

 オーツンは巨大なハンマー、オーワンはナイフを取り出した。

 王子は素手で挑んだ。

 オーセンに追加で頼めば済む話だが、この時の彼らは争う事しか解決の道が分からなかった。


↓次回予告

モプミ、踊る

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