閑話 残された人々
獣医である西田浩司は過労がたたり心不全でこの世を去った。彼の葬儀が終わり、残されたクリニックも医者が不在となり経営していた西田もこの世を去っていた事もあり、恐らくは閉鎖するだろうと考えていた看護師の南野は病院の片づけをしていた。
「とりあえず私の私物はこれくらいだし、あとは西田先生のご家族に任せた方がいいかな……」
南野がそう言うとクリニックの扉が開く音がしたので様子を見に行く。
「あの、申し訳ないのですがもう診察は……」
「あ、すいません、私です、西田の妹の綾香です」
「あ!お葬式の時にお会いしましたよね」
「はい、あの南野さん、実は南野さんにお話とお聞きしたい事があって来たんです」
西田の妹である綾香は現在研修医であり、獣医志望でもある。そんな彼女が南野に話があると言うのだ。
「私にお話ですか?何でしょう?」
「まずお聞きしたいのですが、南野さんはもう次に働く病院は決まりましたか?」
「次の病院ですか?いえ、少し慌ただしかったし、一応クリニックの物とかは整理したので、あとは親族の方にお任せして私も次の病院を探そうかと思っています」
「あのまだ決まっていなかったら南野さんさえよければまだこのクリニックで働き続けてくださいますか?」
綾香は南野にクリニックで働き続けて欲しいと訴えるが南野は現状について話す。
「だけど綾香さん、もうクリニックには獣医はいませんし、西田先生のお父様だってご自分のクリニックがあるでしょうし」
「あの、実は父と話したんですけど、私がこのクリニックを引き継ぐわけにはいきませんか?」
「え?でも綾香さんはまだ研修医ですよね」
「ええ、まだ1年研修期間がありますし、その間は父が病院の経営を引き継ぎ、父の知り合いや兄の同期の先生方が日替わりにはなるけど診察をしてくださると言ってくれました」
「そんな話になっていたんですか」
「兄がこの近隣の住民の方の為に力を尽くしてくれていた事は聞いています、このままクリニックを閉めるのは皆様にとっても不便かと」
「綾香さん……」
「もちろん研修の合間に診察のお手伝いはしますので、どうか南野さん、お力を貸してください!」
綾香の強い懇願を聞いて南野は応じる言葉を投げかける。
「綾香さん、綾香さんがお兄さんの思いを継いでこのクリニックを引き継いでくれるなら私もまだここで働かせていただきます」
「南野さん、ありがとうございます」
「いえ、これからお願いしますね
「はい、兄に負けない獣医になりますので!」
西田の命は失われたが彼の思いを妹が継ぎ、動物の為の診療が続くことになったのだ。
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