第27話 再会の宵と満月の明かり

「え?」


 空翔は指を差されたため、顔を見ざる得なかった。知らない人を凝視するのは良くない。失礼だと感じていた。でもそれはすぐに覆った。


「空翔だよね?」


 セミロングにふわふわのウェーブの茶髪に金髪のインナーカラーを入れていた。目元には黒いアイライナーにブラウンのアイシャドウとボリュームたっぷりのつけまつげをつけていた。一瞬、誰か分からなかったがすぐに声でわかった。


「……えっと、夏楓?」


 自信なさげに問う。彼女は空翔の背中をバシバシ叩いた。さすがはアメリカ生活に慣れてきたからか対応が豪快になっている。


「そうだよぉ。本当、久しぶり! 元気してた?」


 性格変わったんじゃないかと言うくらいパワフルで陽気が感じになっていた。


「うん、まあ。そこそこね」

 

 麦焼酎を片手にグラスに入った大きな氷を揺らす。夏楓はさっきより笑顔でケラケラと思い出話をマスターに話し始めた。馴れ初めから別れ話、その後、別な人と結婚したなど赤裸々にお酒をグビグビ飲みながら喋っていた。深酒をしてカウンターに腕を伸ばし、そのまま腕を枕にしてゲップをした。夏楓はいつの間にか、イビキをかいて寝始めた。熟睡してちょっとゆすっても起きなかった。


「あ、あの……すいません。ご迷惑をおかけして」


空翔はマスターに声をかけて謝った。まるで夏楓の保護者になった気分だ。


「大丈夫、最近いつもこんな感じで酔い潰れてるから。元彼の話は初めてだったけど……僕、 樫崎かしざき りょうって言います。夏楓さんとはここ最近知り合って、彼女と付き合ってはないですけど、酔い潰れた時に自宅まで送り届けているんです」

 

 空翔はふと疑問に残る。夏楓は確かに結婚したはず。なんで、この日本にいて、こうやって酔い潰れているのか不思議だった。


「あー、そうだったんすか。な、なんか元彼ながら申し訳ないです」


「いやいや、いいんです。ただ、空翔さん。申し訳ないんですけど、今日、夏楓さん自宅に送るってことは可能ですか?」


 ものすごく申し訳なさそうな顔をしてマスターの樫崎は、お店の扉の札をcloseに変えた。テーブルや椅子も片付け始めている。お客さんは空翔と夏楓しかいなかった。


「実は僕、彼女の今の自宅の住所知らなくて……ごめんなさい」


「あ、だったら、教えますよ.今スマホに送りますから、出してください」

 

 空翔に断ると言うことはできないようだ。半ば強制的にスマホに夏楓の住所とマップをご丁寧に送られた。ついで、樫崎の連絡先も知ることになった。付き合ってないと言うが、空翔は信じていなかった。もう結婚して自分と別れた身分で気にしていなかった。相手が誰と付き合おうが関係ない。


結局、街灯がぼんやりと照らす道を肩に夏楓を背負いながら家路に向かう。


 このまま、夏楓の自宅に送り届けていろいろ情報を得るのが申し訳泣なく思い,自分の家に連れて帰ることにした。せっかく樫崎から教えてもらったというのに自分は何をしてるんだろうと着いてから後悔した。

 既婚者を自宅に招くことの危機感を感じていなかった。お酒を飲みすぎたんだろう。正しい判断ができなかったんだ。


 空翔はソファに夏楓を寝かしつけて、1人シャワーを浴びた。冷静な心を保ち,いつもの日常を送る。ソファからベッドに夏楓を移動してからリビングのソファに横になって眠りについた。


 今は夏楓は恋人じゃないと何度も言い聞かせた。


 窓の外、雲に隠れた満月が光っていた。

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