第23話 本当は見たくも触りたくもない白い封筒
街の喧騒に飲み込まれそうになる。
今ここにいる自分は誰なのかわからずに日々やり過ごす。
何をやっているのかさえ、空気のような感覚で一日が終わる。
恋愛という言葉はどんなものか。そんなもの知らない。
どんな食べ物なのか。空翔は開き直った考えになり、夏楓と別れてから新しい人と付き合うという考えには至らず、ただひらすらに仕事に没頭する。いつの間にか同期の人らが周りから消えていく。人間関係が移り変わっていく。出たり入ったりを繰り返しながら、空翔の周りでは変化していた。自動的に上司という肩書に立ってしまう。何の権力も持たないと思いながら、後輩たちを育てた。時々ジェネレーションギャップを感じながら、何それと思い会話に入るのも億劫な時もある。仕事には関係ないやと思いながら、やるべきことをただ淡々に行動するだけだ。仕事の鬼になりつつある。
そんな朝起きて、会社に行って家に帰っての単調な毎日を過ごして、夏楓と別れて3年が経過した。全然成長しない自分に達観することしかできない。もうあきらめている。だが、何の変わり映えのない生活の中に変化が訪れた。自宅の受けポストに煌びやかな装飾の封筒が届いた。誰かの手紙なんて、実家の母親から来たとき以来だ。封を開けると中身は孝俊と夏楓の結婚式の招待状だった。
確かに孝俊とは高校3年間の部活で付き合いが濃密だったが、最近の3年間はラインさえメッセージ交換しなかった。むしろ、したくない相手だ。なぜ僕に送って来るのか意味がわからない。不満を残しつつ、結婚式日程を確認する。時に予定もないのに調べる動作も意味があるのか自分にツッコミをいれたいくらいだ。暇な時間が多いはずなんだ。
参加不参加の返信ハガキを丁寧に〇をつけて、名前と住所を書き込み、早急に返送した。誰かに声をかけてもらえることはありがたいことだと言い聞かせて、結婚式に参加することに決めた。
◇◇◇
夏楓と孝俊はアメリカ留学の生活にもすっかり慣れ、
日本と比べてカロリーも量も豪快な食事でとても幸せに太り始めた孝俊は、
夏楓と一緒にコーヒー専門のカフェをオープンすることになった。
学校に通いながら、アルバイトをし続けるのも日本と同じで何かつまらないと感じた孝俊が提案する。ちょうど起業している同級生に会い、アドバイスを受け、テナントを借りて、お店経営をし始めた。その際に一緒にカフェをやるなら名義のことでもめなくて済むからと周りのアドバイスのもと、結婚もしちゃおうとトントン拍子で話が進んだ。親戚がほとんど日本にいることもあって、日本の高級なホテルでのチャペルで式をすることが決まった。大きな式をあげるには沢山の招待客が必要だ。80名からしかできないということで連絡を取ってない友人にも声をかけた。
その1人が空翔だ。
お互いの友人でもあることは大きくは言えない夏楓だ。
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