第22話 冷凍庫に詰まった寂しさ

朝起きて、服に着替えて、朝ごはんを食べる。

時計を確認しながら、出勤する。

街の喧騒の中、交差点の横断歩道を黙々と歩く。行きかう人々の肩にぶつかりそうになる。

音楽を聴きながら、会社に出勤して、上司から昨日の仕事の発注ミスを指摘されて、心打たれて、デスクに座る。電話応対も早く誰か出ないかと数秒待つが誰も出なくて結局自分が出る羽目になる。若い後輩たちは、先輩を変なところで立てるらしい。電話は先輩に譲ると訳のわからないことを言う。そんな不満も誰に言うわけでもない。一昔前は、先輩よりも先にやるのが後輩で上下関係が成立していたはず。ジェネレーションギャップをいつも感じる。頑張りすぎは良くないって若い人から言われてるのかと言いながら淡々といつも通りに仕事をこなす。ミスがあってもなくても、単調な日々を送る。仕事が終わればまっすぐに家に帰る。冷蔵庫の中に何もないなと思い出した時は近所の格安スーパーでお勤め品の野菜や総菜、割引シールがついた刺身を買うこともある。1人暮らしは何食べてもいい。分け合う人もいない。自由なんだ。でもそれはそれで寂しさが倍増する。夏楓と買い物した時はお互いに何が好きで嫌いでと言いながら買ったことを思い出す。あまり好き嫌いがない空翔は夏楓の嫌い物が多い事にいつも驚いていた。アレルギーと思っていた母親が出さなかったから食べなかったらしいが、検査してから全然アレルギーじゃなかったことにびっくりしたらしい。夏楓本人も驚いたらしい。そんな話をしながら、パンの棚に置いてあるピーナッツクリームのパッケージをジロジロと見た。夏楓が食べられないって言った商品だった。今は食べられる。拒否する人はいない。いないけども何だか寂しい。買い物を終えて、冷蔵庫に買ったものを次々と入れた。1人であることを忘れていたのか多く買っている。溢れそうになった。入らないもの冷凍保存かと思って冷凍庫を開けると夏楓が好きだった高級アイスのハーゲンダッツが敷き詰められていた。夏楓の実家からお中元で送ってきたものだった。夏楓に渡すのを忘れている。今さらアイスごときで会うのも未練がましい。ちょっとずつ食べてしまおうと考えた。マカダミアナッツの入ったアイスは空翔のお気に入り。クッキー&クリームは夏楓のお気に入りだ。お風呂上りに容器で乾杯して食べるのが楽しみだった。こんなに食べきれない。2人で食べるから美味しいんだよなと思う。ぼんやりと食べ終わった後、スプーンをシンクで洗った。


 シンクの端っこに置いていた白いマグカップがあった。空っぽになったマグカップの中、珈琲の茶色のシミが残っている。ブラックよりカフェオレの方が汚れやすい。溶けなかった砂糖が下に固まっている。まるで僕が夏楓に対する執着してる気持ちと同じだ。漂白剤に付けておいたらスッキリするだろうか。僕の心は皮膚と一緒でシワシワになりそうな気がする。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る