第21話 孤独な朝のコーヒータイム

小鳥のさえずりで目が覚めた。

カーテンの隙間から太陽光が差し込む。腕で目を隠した。ひとつため息をつく。今日も仕事だ。時計の針がカチカチと鳴って、やっと目覚まし時計がジリリリと鳴った。スマホのアラームも同時に鳴る。アラームよりも先に目覚めた。何だか朝起きる勝負をして時計よりも勝ったはずなのに、何だか虚しい。ベッドから体を起こしてスラックスに足を通し、ワイシャツに袖を通した。お気に入りのネクタイを全身鏡でチェックした。

電気ポットのお湯を確認して久しぶりに夏楓の置いて行ったドリップ珈琲を飲もうと考えた。マグカップにエチオピアコーヒーのドリップをセットしてポットのお湯を注ぎ入れる。香りが鼻に広がる。珈琲の苦いのは嫌いだが、この香りは好きだ。エチオピアコーヒーの特徴としてはコクとフルーティな酸味が特徴だ。苦いのは苦手なのは相変わらずだが嫌いなものも受け入れて学ぶという作業もしてみた。味の違いが判らない。苦いのが先に来て結局一口飲んですぐにミルクと砂糖を入れてマドラーでかき混ぜた。空翔は、つくづく自分の口にコーヒーは合わないんだと感じた。

夏楓がいないのにまたコーヒーを飲んでいる。コーヒーを淹れて飲む些細な動作も1人って切ない。寂しさを紛らわすため、ブラックコーヒーが少しでも飲めるようにと珈琲専門店に通って豆から買って自宅でバリスタのごとく淹れ方を独学で学んだ。

結局、どんな珈琲も苦く感じてミルクと砂糖を入れてしまう。コーヒーの銘柄を調べて味の特徴や香りなどの調べたものをノートにまとめてみた。コーヒーに詳しくはなった。でも未だにブラックコーヒーは飲めない。SNSを見ていると、ラテアートのイラストが可愛いと思って、ラテアートを勉強をしてできるようになり、得意になった。コーヒーをキャンバスに絵を描くのが楽しくなってきた。1人で描いて1人で飲む。SNSに載せたらバズるかなと変な妄想を考えるが、恥ずかしくてそんなことできなかった。夏楓が見たら、どう思うか。嫉妬されてしまわないか。そこまでいうほどうまく描けたわけじゃないのに変な自信を持ってしまう。変な考えになっていた。夏楓が空翔の描いたラテアートを見たら喜んでいただろうか。


どんなに頑張って今更コーヒーの知識を頭の中に入れても、隣の席には君はいない。


出勤時間だというのに、ぼーっとして体が動かなかった。

夏楓のいた感覚が何度も脳裏を駆け巡る。この台所を何度も行ったり来たりしていた。その場で崩れこみ、涙を流して、目頭をおさえる。誰もいないのだから別に隠れて泣いても誰も何も言わない。自分で自分が恥ずかしくなる。穴があったら入りたい。どこか遠くへ行ける地下通路はないかと考えてしまう。

部屋には空翔以外誰もいない。

壁掛け時計の針がカチコチと鳴った。





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