第8話 大型魔獣

 二人は先に進む。

 俺は急いで二人に合ったトラップを仕掛けた。

 前衛の男がトラップの盾となっていることで後衛の女エルフは安心しているだろう。

 ならば、これならどうだ。


 カチッ


「うおっ!? こんなところにもスイッチが!」


 男はその場で停止しバスターソードを構えた。

 女も弓を構え後ろを警戒する。

 よしよし、想定通りだ。

 

「……何も起きないな?」


「ええ、注意して先に進みましょう」


 二人が警戒を解除し武器を収めた瞬間……よしっ、ここだ!


 ガガッガラガラガラ!


 天井が崩落し二人を分断する。

 そう、先程の床スイッチは単に設置しただけ。

 何かを作動させる機能など付加していない。

 だが、そのことを知らない冒険者は必ず警戒するだろう。

 そして、暫くはその場で警戒する。

 俺が待ち望んでいたのは警戒が緩む瞬間。

 これは動物ならば何者でも抗うことはできない。

 長時間、警戒を維持し続けることなど不可能なのだ。

 必ず緊張の糸が解ける時は来る。

 その瞬間に天井の地中に待機させていたジャイアントワームに移動命令を出す。

 天井を崩落させるトラップなど無いが間接的に起こさせることは出来る。

 俺はそれを利用したのだ。

 本来なら生き埋めにしたかったところだが、やはり思うような崩落は起こせなかったがこれはこれで面白い。


「トム、無事!?」


「ああ、大丈夫だ。リンは!?」


「こっちも大丈夫よ。それよりどうしましょう?」


「この岩をどける。それまでそこで待っていてくれ」


「分かったわ」


 ふむ、男が岩をバスターソードで叩き崩していく。

 かなりの怪力の持ち主のようだ。

 二人が合流できるまでざっと見て一時間程度はかかるかな。

 よし、今のチャンスを逃すことなどしない。

 ここでケリを付けさせてもらおうか。

 女エルフの背後に床スイッチを配置。

 付加する機能は落下トゲ。


 カチッ


「!」


 ヒュゥゥゥ…

 ガッ


 流石、エルフ。

 素早さがある分落下トゲも簡単には当たらないか。

 だが、避けられることは想定済み。


「ウゥゥゥ……ガウッガウッ!」


 落下トゲが地面に落ちた音に気付き逃げ去ったワーグが仲間を連れて再び集まってくる。

 今度は七匹だ。

 二人は分断中。

 女エルフだけで複数匹を同時に相手できるか見させてもらおう。


「リン! まさか、ワーグか!?」


「ええ、なんとか耐えてみせるわ。そっちも急いで!」


「ガウッガウッ!」


 ヒュッ


「ギャン!」


 ワーグの脳天を貫き一匹目はあっという間にやられる。

 だが、ワーグに徐々に囲まれていく女エルフ。


「くっ……トム! 急いで!」


「うぉぉぉぉ!」


「ガウッガウッ!」


「くっ……きゃぁぁぁ!」


 一斉にワーグが襲いかかり女エルフも捌き切れず両腕両足を噛み付かれる。


「トム! トム! いやぁぁぁ!」


「リン! あああ……駄目だ! この岩が硬くて!」


 雑魚魔獣でも数の力には勝てないようだ。

 女エルフは叫ぶ力も無くなり魔獣の餌となる。


「冒険者を撃退しました」


 完全に死んだようで俺のLPが1上がり経験値も入る。


 ガラッガラガラガラ!


「あ、あああ……リン! リン! くそう、お前らぁぁぁ!」


 崩落した岩を排除した男は一心不乱にワーグを攻撃する。

 相方が亡くなったことで完全に我を忘れているようだ。

 ここでワーグの餌にしても良いが、一度死者を放置して駒としてみたいんだよな。

 ただ戦闘中の魔獣を俺の意思で退かせることができない。

 なんとかしてトラップで男を殺らなければ……いや、死体もワーグに食われてしまうか?

 うーん、アイテムの肉は大量にあるしワーグも巻き添えに出来そうなトラップで殺るか。


「ぎゃあああ!」


 男の左腕にワーグが噛みつき引き千切った。

 あ、これは……。

 男は恐れのあまりか旧最奥部へと逃げ走る。

 よほど混乱しているのだろう。


「ひ、ひぃぃぃ!」


 ガガッ


 運が良いのか、仕掛けていたトラップが発動しても走り続ける男に当たることはなく彼は旧最奥部の部屋の扉を開ける。

 これは勝負あったな。

 彼の遺体は魔獣にくれてやる。


「へっ!?」


 バクン


 扉を開けた瞬間、男は巨大な口に一飲みされてしまった。

 大型魔獣、ジャイアントクロッグ。

 所謂、デカい蛙だ。

 敵を一飲みできる口を持つ、それは相手にとっては即死攻撃と同等だろう。

 ただ、こいつは身体がデカすぎるためか自分で歩くことはほとんどない。

 口が届く範囲内に入った生物を何でも丸呑みする。

 そんなジャイアントクロッグを旧最奥部の扉付近に配置しておき扉が開くと同時に飲み込めるようにしているのだ。


「冒険者を撃退しました」


 ふぅ、終わったか。

 ワーグが食い散らかした女エルフの肉片や骨もスライムが集まり自身に取り込み消化している。

 今回の狩りはこれで終わり。

 次はどんなパーティーが来るのか楽しみだ。

 

 


  


 


 

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ダンジョンマスター! ~魔王城に至るまで~ 昼神誠 @jill-valentine

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