僕が小説

「僕ねぇ、これからの構想に案があるんだ」


「えっ、本当?珍しいね。じゃあ、その案とやらを聞かせてよ」


(彼女は、僕の案を本当に聞きたいのだろうか?『案とやら』という言葉が引っかかる。何かいぶかしげに僕の方を見ているし)


「えっ、何?何て?聞こえなかった」


「あっ今、心の声をやってるの!反応しちゃダメじゃん」


(彼女は、こういうところがあるんだよな。鈍いというか鋭いというか……。僕の計画は台無しだ。こうなったら、もう説明するしかない)


「知ってる?一人称小説と三人称小説があるんだって。今回から僕が主人公の一人称小説にしようと思ってたんだ」


「そりゃあ、先に言ってもらわなきゃ分からないよ」


(言われてみれば、それもそうだ。今回の非は僕にあった)


「で、何であんたが主人公なのさ?」


*私も主人公のはずなんだけど……*


「あっ、あなたも心の声でしゃべったでしょ。あぁもう、滅茶苦茶だよ~」


「でも、最初に相談しなかったあんたが悪いんじゃない。それに、これがいわゆる『キャラが勝手に動き出す』ってやつだよね。つーか、私の意志は私にあるけどね」


(僕の計画は無残にも崩れ去った。彼女をとがめたい気持ちもあるが、正直なところ、彼女の言い分が正しいことは僕にだって分かっている)


*まぁ、いいさ。やってみれば。あなたの書きたいように書けばいい*


(もう、何で心の声で話しかけてくるんだよ……。でも彼女はいつも、何だかんだで許してくれる。僕は息をひとつ吐き、紙とスマホを手に取った)

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