第十七話 宿にて
俺たちはお代を払って館を後にする。
外に出ると辺りは既に暗くなっていた。
「そろそろ寝る場所を探すか」
俺は近くにあった手ごろな値段の宿に泊まることにした。明日が祭り最終日だからか今日は込み合っている。
夕飯を取る為、食堂へ向かうと、既に大勢のヒトビトがいた。
「ゲルグ! あれ何!」
レーテーが指差す先には、巨大な料理を運ぶ
「あれはカワイノシシだな。川に住むイノシシで、ああやって丸焼きにすると美味い」
「食べてみたい」
「他にも料理は沢山ある。どれを食べるか決めてからにしよう」
実際は、あのカワイノシシは予約しなければ食べれない。レーテーには他の料理を見せて忘れさせよう。
「ふうぅん。……あれは⁉︎」
今度は両腕の翼でぱたぱたと空を飛んでいる
を指差す。どうやら芸をしているようだ。
「あいつは
では翼の膜を戦闘服の材料にしていると聞く。なんでも燃えにくく、柔軟でそこそこの強度があるからだと言う。まあそんな惨い情報は言わないが。
その後もレーテーは色々なことを質問してきた。その度に俺やカガチが答えていった。この子はついこの前まで収容所で外の世界を知らなかったのだと思い出された。
「ゲルグ、祭りが終わったらどうするの?」
食事を頬張りながらレーテーが問う。その口には蔓スパゲッティをはじめ、焼き魚、ヌマウシハンバーグが詰まっている。この数日で今まで食べれなかった分を取り戻すかのように食べている。
「そうだな、〈薬の国〉に行くため、ヒャッコ山道を進む。その途中で俺の幼馴染のアゼミが住んでいるからそこで一晩泊めてもらい、次の日には に着くだろう」
お前達が祭りに行かなければもう一日早まるがな。と付け足す。だが帰ってきた言葉は「行く!」だった。
「アゼミってどんなヒト?」
「アザミは……」
アザミの事が思い出される。子ども時代を共に過ごし、固い絆で結ばれた。そして大人になり、アザミは〈命の国〉の国の男と結婚した。その後〈薬の国〉と〈命の国〉で戦争が始まった。そして、……戦争の中で俺はアザミの夫を殺した。
「……今はこの話はやめておこう」
「?」
レーテーはきょとんとする。
レーテーにこんな話をするわけにはいかない。
夕食を食べ終わり、部屋に戻る。今日の宿は、〈命の国〉で一番美しい街の宿らしく、部屋から家具に至るまで綺麗で豪華だった。あの値段でこの部屋だから、ただただ驚かせられる。
「ゲルグ、明日の花火、楽しみだね」
枕元でレーテーがほほ笑む。
「そうだな。俺も花火は初めて見るから楽しみだな」
とは言ったものの、製造元である〈黒鉄の帝国〉にはいい思い出が無い。十年前の戦争で、俺達を苦しめた大砲も、同じ〈黒鉄の帝国〉が作っている。何か変な物を仕込んでいなければいいのだが……。
「ほら、花火が見たければ早く寝なければ駄目だぞ」
「はあぃ」
そう言いながらもレーテーは暫く起きていたが、やがて限界に達し、こてんと寝てしまった。
まだ子どもだな。そんな事を思いつつ、布団をかぶる。
ふと、今日の事を思い出す。今日の占いの事だ。ハバ様は俺に宿敵との対決を、レーテーには花畑に向かう事、そしてカガチには……。
「カガチ」
まだ起きているカガチを呼ぶ。
「なんですか」
カガチは目を擦って眠そうなふりをする。
「ハバ様の占いで思い出したが、お前の旅の目的は何だ。〈薬の国〉に行って何をするつもりだ」
ハバ様はレーテーを守れと言った。それならばカガチの旅はレーテーと関係することになる。俺はレーテーを守るという使命がある以上、知っておくべきだ。
「教えません」
「っ! おい!」
「では寝ます」
そう言うとカガチはすぐに寝てしまった。
まあいい、目的と言っても相手は子どもだ。遠方の恋人に会いに行くとかそんな所だろう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます