77.エルフマン降臨

「覚えた」


上位チャット:信頼と実績の覚えた

上位チャット:勝ったなガハハ

上位チャット:我々に掛かればチョロいもんです

上位チャット:敗北を知りたい

上位チャット:お前らw


「お嬢さん、本当に覚えられたのかい? 大雑把な台本だが、気になる箇所があるなら見直しても――」

「衣装くれ」

「……わかった。すぐに着せよう!」


上位チャット:昨日に続いて、今日もアクションですなぁ

上位チャット:エルフさんのトンデモ身体能力はワクワクする

上位チャット:今回は台本のあるヒーローショーだし、安心ですね

上位チャット:スーパーヒロインエルフさんの殺陣たて楽しみだ

上位チャット:怪人を殴り倒さないかだけが不安

上位チャット:いやいや、映像も見てるから大丈夫でしょ

上位チャット:ん?

上位チャット:あれ?

上位チャット:んんんんん?

上位チャット:待って待って待って


「着た」


 俺はゴツゴツした爪の付いた手を動かして、最後に残った大きな角の生えた頭部を被った。完成だ。


上位チャット:怪人側かよ!

上位チャット:ヒーローじゃないんかーい!

上位チャット:それはちょっと想定外


「がおー」


上位チャット:がおーじゃないよwww

上位チャット:なんで吠えたw

上位チャット:草


「お嬢さん、最後に確認するよ。司会者の合図に従って舞台に上がり、観客席をぐるっと見渡して胸を張って構える。そうしたら、怪人のセリフを再生するから、喋っているフリをしてくれればいい」

「ん」

「もしわからなくなっても、こっちでフォローするから大丈夫だ。アドリブでどうにでもなる」

「わかった」

「最悪、問題が起きても棒立ちにさえならないでくれれば、それでいいからね?」

「任せろ」

「ああ、頼んだよ」


上位チャット:果たして、アドリブは必要になるのか

上位チャット:お、そろそろ始まるー?

上位チャット:そうだけど、見てなかったの?

上位チャット:いやー、電車が混んでてー

上位チャット:はいはい、エルフさんは怪人役だよ

上位チャット:ぶはははは、エルフさんが動きを忘れたらヒーロー全滅しそうじゃーんw

上位チャット:アドリブでどうにでもなるってさ

上位チャット:え


 時間を稼ぎ切ったキョーカが、司会と挨拶を交わして舞台袖へと下がってきた。


「けほっ……お兄ちゃん」

「お疲れ。ノドは大丈夫か?」

「うん。ここまで低音で歌うのは久しぶりだったけど、平気だよ」

「そうか。後は任せろ」


 俺はノートパソコンとカメラを預けて、キョーカと入れ替わりに舞台袖に向かう。


上位チャット:「え」って何?

上位チャット:その言い方だと、エルフさん、ちゃんと覚えててもアドリブするようなー……

上位チャット:は?

上位チャット:なんで?

上位チャット:アドリブでどうにでもなる(から、好きにやっていいよー)

上位チャット:……

上位チャット:エルフさーん?


「合図だ」


上位チャット:あ、やべ! これ、見てねぇ!

上位チャット:こんなときばっかりぃ!

上位チャット:気付いてー! 気付いてー!

上位チャット:エマージェンシー! エマージェンシー!


 俺が舞台に上がって見得を切るも、観客はまだぼーっとしていた。キョーカの歌の衝撃から抜け切れてないようだ。

 ならば、


「早速、アドリブの出番か」


上位チャット:あかーん!

上位チャット:これ、完全に懸念のど真ん中ァ!

上位チャット:あああああ


「わーっははは。手始めに、この怪人エルフマンの力を見せよう。――荒れ狂え」


上位チャット:エルフマン?

上位チャット:マン?

上位チャット:いや、そのマンは男性じゃなくて人間の意味だから


「きゃっ!?」

「わあっ!?」

「なんだぁっ!?」

「俺、二時間も掛けたのにぃ!?」


上位チャット:わぁ

上位チャット:そう来たか

上位チャット:凄い絵面にw


 うむ、いい感じ。

 観客全員、逆立ててやった髪を押さえて目を白黒させている。アドリブ成功だ。


「ヒーローよ。早く出てこないと、全員ドラゴンスクリューだぞ?」


上位チャット:それ、俺らにしか通じないですw

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