第21話 莉子がビッチだとは思いたくない

 今後の事について考えていると、色々と妄想が膨らんだりする。

 難波啓介なんば/けいすけは午後の授業が終え、帰宅する準備を整えていた時に一人で考えていた。


 月見里莉子つきみさと/りこはビッチではない。

 どちらかと言えば清楚系であり、同世代と比べると明らかにスタイルが良く、そう見えてしまうところがある。


 普段から真面目に授業に取り組んでいる女の子が、まさか、あからさまに如何わしい事はしないはずだ。


 ……でも。


 気にかかるところがあった。


 それは、この前の放課後に、莉子から誘われた日。


 莉子からキスするか、付き合うかの二択を迫られた事だ。


 あの時は付き合う方を選んだわけなのだが、もしも別の方を選んでいたのなら、莉子とキスする事になっていたのだろうか。


 色々と妄想をしていると、啓介の脳内が卑猥な事で支配され始める。


 でも、月見里さんはそんな卑猥な誘いなんてしないよな。

 わざとそういう提案をしてきただけで、噂で言われているようなビッチな子ではないと思うし……。


 椅子に座ったまま、通学用のリュックに課題をしまい、余計な妄想を膨らましていた。


 気のせいだと考え込んでいると、教室内には殆ど人がいなくなっていた。

 部活に向かったのだと思われる。


「難波君」

「は、はい」


 啓介は少々ボーッとしていた事で、突然の莉子から呼びかけに、心を震わせ、動揺していた。


「どうしたの、そんなに驚いて」

「いきなり声をかけられたから、ビックリしてさ」


 椅子に座っている啓介の目の前には、彼女の胸元がハッキリと見える。


 さっきまで如何わしい事ばかり妄想していた事も相まって、変な緊張感に襲われていた。


「今日はごめん」

「え?」


 なぜか、彼女は謝って来た。


「今から先生のところに行かないといけなくて」

「でも、急だね」

「うん、だからね、少し教室に戻ってくるのが遅くなるかも。少し待ってくれる?」


 周りにいる人に聞こえない程度の音量で、莉子が耳元で囁くように話してくれた。


「う、うん、わかった、待ってるから」


 啓介は莉子にだけ聞こえる声で返答しておいたのだ。


 話を終えた莉子は教室から立ち去って行く。


 啓介が一人で席に座っていると、近づいてくる足音があった。

 気配を感じて右の方を見やると、そこにはクラスメイトの桜田亜佑奈さくらだ/あゆなが佇んでいたのだ。


「さっき、何を話してたの?」

「ただの雑談的な事で、特に大した事はないよ」


 亜佑奈は、啓介と莉子が付き合っている事は知っている。が、啓介は余計な発言はしないでおいた。


「難波君が良いのなら、私と一緒に帰らない?」

「でも、俺、月見里さんと帰宅することになってて」


 そんな話をしていると、スマホにメールが届く。


 啓介が内容を確認してみると、その送信主は莉子からであり、今日は遅くなると思うから、やっぱり、一人で帰宅していてもいいよという内容だった。


「……一緒に帰ろうか、予定がなくなったから」


 啓介が席に座ったまま言うと、亜佑奈は笑顔で対応してくれたのだ。

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