第8話 和歌研究会/動物を愛する会

 三成が野ッカー部で頭を締め付けられた翌日の昼休み。ESS部の部室で吉継、左近と共に書類の整理をしていた三成の元に、うたが全力で走ってやって来た。


「みっちゃん! 将門先輩がずるい! 私の所にも来ーてーよー!」

「ぐえ。う、うた。ずるいって僕、引きずられて行っただけなんだけど……」


 部室に入るやいなや、三成に勢いよく飛びつき、昨日の将門に対する嫉妬を喚いた。魂の片割れである自分が、ポッと出の先輩に先を越されてしまったのだ。その悔しさたるや、相当なモノである。

 そんなうたに、三成は呻き声をあげた。なにせ、飛びついてきたうたの制服に引っかかって、首元を隠す空色のマフラーに締め付けられてしまったのだ。仕方がないので三成が軽くうたの背中を叩いて緩めるように合図を送る。背中から伝わる振動に気づいたうたが、咳払いをして急いで三成を解放する。そうして何事もなかったかのように三成達に向き直った。


「みっちゃん! これから私達の和歌研究会に来て! 吉継くんと左近くんも、ついでに来ていいから」

「えー!? うた様、左近くんはついでなんですかー!?」

「エ? だって、今回の主役はみっちゃんじゃん」


 うたの宣言を茶化すように左近が声をあげる。秀吉をはじめ、名だたる大名達が臣下にと望んだ島左近にこんなにも雑な扱いができるのは似た者兄妹たる三成とうたくらいなのだ。その事実が言葉で形容しがたい程には嬉しく、左近はついつい調子良く口を回らせる。

 うたと左近のコントのようなやりとりが続いて、吉継と三成は顔を見合わせ苦笑した。大好きな人達が楽しそうだと自分も嬉しいが、時間は有限なのだ。特に、昼休みなんてあっという間に過ぎてしまう。さあ行こう、と吉継が未だコントが続く二人に声をかけた。


「さてさて、行こうじゃないか。僕も興味があったんだ。“乙女の花園・和歌研究会”にね」


 なんとも、吉継には似合わないセリフではあるが。



 ――――



「そういえば、うた。和歌研究会の部室ってどこにあるの?」


 そういえば、と三成が今更な疑問をもらす。編入以降、色々と忙しかった彼は、必要最低限しか学園の事を知らないのだ。そんな片割れに、うたはキョトンと目を瞬かせて言った。


「ESS部の隣の隣だよ」

「エ、めっちゃ近いじゃん!?」


 最愛の片割れからの返答に、三成は驚いた。すぐ近くにある同好会に今の今までずっと気がつかなかったうえに、先の吉継の言い方である。ESS部の部室からかなりの距離があると三成は誤解したのだ。

 目を白黒させる三成に笑って、うたが「こっちだよ」と彼の手を引いた。そしてESS部の部室から数十歩、愛らしい花のリースで彩られた扉をうたは躊躇いなく開け放った。


「きぃちゃん先輩! 初芽ちゃん! みっちゃん捕まえたよー!」

「つかっ……!?」


 呆気に取られる男三人を他所に、うたは三成の腕を掴んでずんずんと部屋の中へと進む。その部室内では、きぃちゃん先輩と呼ばれた女子制服姿の大男と初芽ちゃんと呼ばれたスポーティーなポニーテールが印象的な少女が満面の笑みで待ち構えていた。


「アナタがうたちゃんの双子のミツナリちゃんね! とってもソックリで素敵だわあ。アタシは和歌研究会の会長の紀貫之よん。ヨ・ロ・シ・ク・ネ」

「三成さま。三成さまはあたしを覚えていますか? あたし、初芽です! 今生では創作上の人間って事になっちゃってますけど、やっぱり三成さまの側室として、また会いたかったんです!」

「わあ、情報過多」


 三成の姿を認めるなり一気に詰め寄ってきた二人に、彼は気の抜けたような声しか出なかった。そのくらい、三成にとっては情報量が多かったのだ。

 前世の頃から読書を好んだ三成は、読破済みの本の中に当然の様に紀貫之の『土佐日記』もあった。だからこそ、前世の記憶が戻ってから紀貫之が男性だと改めて知って驚いたのだ。そして今、その紀貫之が女装をしているという事にひっくり返りそうなくらい動揺しているのである。

 そのうえ、初芽局の事だ。前世で、確かに自身の側室として愛した彼女が、今生では存在しなかった事にされていたというのだ。驚くなと言う方が無理である。


「いやあ、圧がすごいですねえ。三成様、大丈夫ですか?」

「う、うん。平気。ちょっと、ビックリしただけだから」

「もー! きぃちゃん先輩も初芽ちゃんも! みっちゃん、驚いてるじゃん」


 左近が固まる三成の肩を軽く叩き、うたは自分の事を棚に上げて紀貫之と初芽局に拗ねた様に言う。吉継も、笑いながら三成をさりげなく彼女達から距離を取らせた。そうして、ようやく我に返った三成が口を開いた。


「……初芽。僕は、ちゃんと覚えてる。お前とうたと、みんなで佐和山で暮らした事、覚えてるよ」

「三成さま……!」


 作り物でも何でもなく、しっかりと、実体験として記憶に残っている。あれほど壮絶な苦楽を共にした第二の妻を忘れるはずがない。そう、三成が伝える。

 初芽局の目は、潤んでいた。彼女とて、いくら気丈に振る舞えども不安は消えなかったのだ。現代に確固たる証拠が残っていなければ創作上の存在として扱われる。この事はわかっていても、記憶の覚醒に遅れがあった愛する人の思い出から自身が失われているかもしれないという恐怖は、本人から否定されなければ拭えなかったのだ。

 そして、安心と感動で涙ぐむ初芽局はそのままに、三成は紀貫之に向き直った。


「貫之先輩! 僕、『土佐日記』を読みました! ファンです! サインください!」

「み、三成さまあーっ!?」


 良くも悪くも、空気を読めない三成である。

 三成の告白に初芽局の涙は引っ込み、紀貫之は眉を下げ、周囲は笑いの渦に巻き込まれた。吉継達の笑い声が響く中、紀貫之が三成にあらあらウフフと微笑みかけた。


「アララ、ミツナリちゃんったら。でも堂々としてて可愛いから許しちゃう! サインくらい、いくらでもあげちゃうわ! あと、アタシの事は『きぃちゃん』と呼ぶように! ね?」

「ハイ! きぃちゃん先輩!」


 顔をズイ、と近くまで寄せられて、三成が反射的に返事をする。部室に響く笑い声は、しばらく収まりそうになかった。



 ――――



「聞いたぜ、ミツナリ! あの紀貫之センパイに気に入られたンだってな!」

「わ、吉宗……と家康。“あの”ってどういう事?」


 迎えた放課後。吉宗は家康の首根っこを掴んで三成の前に立っていた。そして三成が吉宗の言葉の中に気になる言い方を見つけて訊ねると、吉宗は苦笑をもらしつつ答えた。


「イヤ、な。貫之センパイって押しと圧が強いのなんのってンで、みーんな逃げ出しちまうんだ」

「えー……確かに圧は強いけど、きぃちゃん先輩、いい人なのに」

「……うん……もったいない……」


 三成が不満の声をもらす横で、家康もウンウンと頷く。転生してから口数の少なくなった家康としても、“圧が強い”や“無口”だとか本人ではどうにもできない事で逃げ出されるのは心にグサリと刺さるものがあるのだ。だからこそ一癖も二癖もある彼らは、前世の因縁こそ引き継げど、今生のそんな事情など知らないといった風に接する三成に懐くのであるが。

 話をしているうちに三成の準備も整い、部活見学へと向かい始める。今日、三成達が見学する部活は部室を持たずに野外で活動をする同好会・動物を愛する会だ。

 活動場所である中庭へ移動し始めて、三成は首を傾げた。下駄箱で別れると思っていた家康がついて来ているのだ。


「あれ? 今日は家康も来るの?」

「……会長……徳川一族……挨拶……した事ない……」

「動物を愛する会の会長は綱吉の叔父貴なんだがな。転生してから、オレも家康の叔父貴も会ってないから数百年ぶりに顔を見とこうかと。な」

「ふぅん」


 徳川綱吉。非転生者としてごく普通に受験勉強をした三成にとっても馴染みのある名前であった。それと同時に動物を愛する会の会長であると聞いて、納得した。かつて、生類憐みの令を発した綱吉であれば、動物愛護の心を持って行動するのだろう、と得心したのだ。

 三成が一人納得しているその横で、吉宗がただ……と小さく呟いた。前世では吉宗が尊敬した綱吉ではあるが、転生してからの彼はあまり良い噂を聞かないのだ。むしろ、不気味な噂の方が多い。

 事実関係が明らかでない噂を嫌う三成の前だからこそ何も言わないが、何か嫌な予感がする、と吉宗はその色違いの両目をひっそりと細めた。


「あ、見えて来た。あそこ……か、な?」

「……みてェ、だな。オレの見覚えがあるツラだ。……間違いなく……綱吉の伯父貴だぜ」

「……余の……知らない……徳川……楽しみ……」


 明るく太陽に照らされた中庭に何やら儀式中の真っ黒なローブの集団。なんともアンバランスな風景にワクワクと目を輝かせる家康以外がピシリと固まった。常ならば真夏の空のように晴れ渡っている吉宗の表情も、ドン引きするあまりに引きつっている。


「こ、こんにちはぁ……。部活見学に来た石田三成と徳川吉宗、ついでに家康でー……ヒィエッ!?」


 なんとか挨拶をしなければ、と一歩踏み出した三成ではあるが、次の瞬間には家康を盾にするように彼の後ろに隠れた。三成が話しかけたその瞬間、円陣を組んで下を向いていた彼らが一気に三成達の方向に勢いよく首を向けたのだ。

 異様な雰囲気に怯える三成達一行の心情を知ってか知らずか、円陣の中から一人の少年がゆらりと覚束ない足取りで現れた。重く垂れ下がった深い樹海の髪に仄暗い夕闇の瞳。動物を愛する会の会長・徳川綱吉である。


「ふふ、あは、あははははー。待っていましたよお、今日、この日を!」

「……そんなに……楽しみ……? ……ちょっと……照れる……」

「バッカ、ンな訳ねェだろ!? 照れんな!」


 不気味に笑う綱吉にボケる家康、そしてツッコミを入れる吉宗。徳川一族による珍妙なコント空間が出来上がって、三成もふと気を緩めたその時。三成のうなじに、チリチリとヒリつく嫌な感覚がよぎった。


「うっ……!? 家康、吉宗!」


 痣に首を締め付けられる様な感覚に息を詰まらせつつ、三成が家康と吉宗を綱吉から引き剥がす。一瞬後、二人の立っていた場所には、不穏な気配を漂わせた黒いカードが突き刺さっていた。


「げほ、う、……間に合って、よかった……ゲホ、ケホッ」

「お、オウ。助かったぜ、ミツナリ……」

「……三成……大丈夫……?」

「あや? 外しちゃいましたねえ。残念残念」


 崩れ落ちて咽せる三成を宥めつつ綱吉を睨む二人に攻撃を仕掛けた当の本人は緩く首を傾げた。向けられた敵意にもどこ吹く風な彼の様子に異様な感覚を覚えつつ、吉宗が口を開いた。


「テメェ、何のつもりだ!? 合戦以外での攻撃目的の能力行使は犯罪だろうが!」

「ヤですねえ。攻撃じゃあ無いですよう。ワタシはソコのカレとお話がしたいんですう。その為にも……家康様と頼方には大人しく、してもらいます、ねえっ!」

「……『守りよ、開けガーディアン』……!」


 闇にまどろむ瞳をニマニマと細めたまま襲いかかる綱吉に、咄嗟に家康が結界を展開する。うずくまって咳き込む三成をなんとか逃がせないか、と吉宗と目線で会話する。いつの間にか会員達に囲まれてうまく撤退できない中、綱吉が切り出した。


「ワタシにはわかりますよう。アナタの首のそのマフラーの下。斬首痕。強力なカゴと引き換えに植え付けられた魂の傷痕。神君たる家康様に楯突いた愚かなオロカな大罪人の証」

「ッ……!?」


 綱吉の言葉に、三成は顔色を悪くしてヒュッと息を飲んだ。

 かつて、記憶が戻る前までの間、自分の身体で一番目立つコンプレックスだった首の痣。転校前の講習で、初めてその痣が、加護や呪いを持つ転生者に刻みつけられる“魂の傷痕”と呼ばれる枷のうち、最も強力な“斬首痕”と呼ばれるモノだったと知ったのだ。

 魂の傷痕は、転生者が能力を使い過ぎると使用者に苦痛を与えて能力の使用を制限したり、いわゆる“嫌な予感”を感じた時にも傷痕の主にペナルティを与えて知らせるのである。

 それでもやはり、三成は自身の斬首痕を鏡で見るたびに苦い気持ちを思い起こさせていた。三成にとって斬首痕は、家康との対立を選んだ自身の末路、豊臣政権崩壊の決定的な引き金を引いてしまった罪の象徴のようなモノなのだから。

 綱吉は普段は隠している斬首痕について触れた挙句、三成の苦い思いを悪意を持って刺激したのだ。青ざめた顔色のまま、手を震えるほどに握り込み、どうにか反論しようとした。その時。家康が綱吉を殴りつけていた。


「……ふざけるな……! ……三成……愚か……罪人……違う……!」

「え? えっ?」


 家康は今までに無いほどに激怒していた。かつては諸々の理由で手を取り合うことの叶わなかった彼と、ようやく対等な友人関係であれると思った矢先に、初めて顔を合わす己の子孫だったという従兄弟に水を差されたのだ。

 たとえ身内といえど、この暴挙を許してなるものか、と家康が怒りに震える。対して、綱吉は混乱していた。家康がここまで激怒するとは思っていなかったのだ。


「で、でもでも! カレが家康様に楯突いたのも、斬首されたのも事実ですよう!? そ、それに、弱ってる今、ワタシの呪いを打ち込めば、徳川に従順なお人形にもできちゃいますう! 家康様、カレが欲しかったんですよね!? そのまま大奥にでも囲っちゃ……」

「てやんでい、べらもうめい! 転生者保護法と基本的人権の勉強してから出直して来い! それと、叔父貴に衆道の趣味は無ェ!」

「ぐはっ!?」

「……その欲しい……違う……三成……政治能力……官僚で……欲しかった……」

「ぐえっ」


 混乱のままに失言を続ける綱吉が、吉宗に殴られ、家康からも言葉で否定される。そうして心身共にボコボコになった綱吉に、動物を愛する会の会員達は動揺し、隙が生まれた。

 いくら怒りで頭が真っ白になっていようとも、一瞬の隙を見逃す家康と吉宗ではない。咄嗟に、二人同時に三成の手を取って走り出した。


「ミツナリ、走れ! 苦しいだろうが走れ! オレも叔父貴も、アンタの手を引いてやる!」

「……行こう……」

「家、康……吉宗……」


 徳川二人に手を引かれて三成は駆け出す。息苦しさは残るものの、力強く握られた手の温もりが、三成は足を突き動かした。その後ろで、地面に崩れた綱吉が、三成を怨嗟の目で見ている事も知らずに。


「畜生風情め……」



 ――――



「ぜえ、はあ……こ、ここまで来りゃア大丈夫だろ……」

「……つかれた……」

「……ヒイ、ふう、ゲホッ……も、ムリ。走れない……」


 しばらく走り続けて学園の駐車場まで来た一行は、息も絶え絶えの状態で転がっていた。しばらくそのまま息を整えていると、真っ先に回復した吉宗が一気に起き上がって勢いよく三成を振り返った。


「ミツナリ! オレ達の身内がすまなかった! 謝って許される事じゃあ無ェってのはわかってる。アンタの意思丸無視だったからな……」


 吉宗がガバッと擬音がつきそうな勢いで頭を下げて、恐る恐る顔を上げる。その金と深緑の瞳は、友人からの拒否を恐れて、不安に揺れていた。


「僕は、大丈夫。ありがとう。吉宗、家康」


 吉宗を安心させようと三成は笑ってみせた。が、その笑顔も疲れたように引きつっていた。


「……大丈夫……見えない……」


 家康から指摘されて、三成が言葉を詰まらせる。そして、無理に作った笑顔を崩して、とうとう不安をこぼした。


「……ごめん。やっぱ大丈夫じゃない。面と向かって好き勝手言われるの、結構堪えるね。前世である程度耐性ついたと思ってたけど、全然そんな事なかった」

「ンなモン慣れんなよ」

「うん……そうだね」


 吉宗と家康に背を摩って慰められ、ほどほどに落ち着いた三成は、一つ、決心した。言うかどうか迷ってはいたが、表面的な人格の入れ替わりの事もある為に、家康も無縁ではないと思っていた事だ。


「……ねえ。一つ、聞いてほしいんだ。魂の傷痕って普通、一人一つだよね?」

「アン? マ、そうだな。死因が二つあるヤツなんて聞いたことねェし」

「コレを、見てほしいんだ」


 言うなり三成は、首を覆うマフラーといつも着けているグローブを外した。

 三成の首には普段通り、くっきりと斬首痕が浮かんでいた。通常であればそれで済むのではあるが、三成の両手の指先は異様だった。魂の傷痕と思われる火傷痕に覆われているのだ。


「な!? コレは……」

「あと、ココと、ココにも。あるんだ。魂の傷痕っぽい痣が」


 そう言って三成は自身の胸と腹を指した。三成自身も身に覚えが無く、主治医も首を傾げた石田家の最重要機密。長年三成に仕える勘兵衛すら知らなかった事実。三成の身体には、斬首痕の他、手足の火傷痕、胸の銃痕、腹部の刀傷の三つの魂の傷痕が刻み付けられていたのだ。


「家康は僕の転生に一枚噛んでるんじゃない? 僕の傷痕の事、何か知ってるんでしょ?」

「……」


 家康は少し黙り込んで、そして、頷いた。


「……三成……魂……余と……吉継……細工した……」

「お前と、吉継が? なんで……」

「……全部は……言えない……でも……その傷痕……ペナルティは……四人分……」


 家康はゆっくりと、三成の魂に細工をしたのは自身と吉継である事、何故やったかなど全ては言えない事、三成は自身の傷痕の他、うた、左近、吉継の傷痕を背負っている事、その分傷痕から与えられるペナルティも四人分である事を語った。

 家康が話し終えた時、吉宗は憤慨していた。


「どいつもこいつも! ミツナリの意思は無視かよ! なんだってコイツがこんな苦労背負わにゃなんねェんだよ!」

「よ、吉宗。僕は平気だから……」

「アンタもアンタだ! 嫌ならイヤって言えよ!」

「ほんとに平気だから! 吉宗が怒ってくれたし、吉継も関わってるんだ。いつかは教えてくれるし、きっと、退っ引きならない理由があったはずなんだ」

「……ごめん……」


 怒りを撒き散らす吉宗を、三成と家康が2人がかりで宥める。なんとか吉宗の怒りを鎮めると、それでもやっぱり三成が心配なんだと華奢な両肩を掴んだ。


「綱吉の伯父貴の件にその傷痕……そもそもアンタがチョロすぎる。ミツナリさえ良ければ、これからしばらく、昼休みと放課後は一緒に行動させてくれ。そもそも、オレの身内がアンタを苦しめる原因作ったみてェなモンだ。責任は取るぜ」


 「チョロい」と言われて少しムッと顔をしかめるも、三成は吉宗の提案にすぐさま頷いた。この一件で三成は、綱吉をはじめ、動物を愛する会の会員達に苦手意識を抱いたのだ。それを吉宗が守ると言うのだから、願ったり叶ったりの提案である。

 そうして、二日目の部活見学は幕を下ろした。後への禍根と謎を残して。



 ――――



◯TIPs


  斬首痕/魂の傷痕

強力な加護/呪いを持った転生者が生まれついて持つ痣。前世の死因になった傷痕や病気の痕跡など。

転生者が能力を使いすぎると傷痕からペナルティが発生して力の使用が制限される。前世で斬首された者の傷痕(斬首痕)は通常の傷痕よりも更に強力。

また、傷痕のペナルティは能力の使いすぎ以外に嫌な予感などを感じる時にも発生する。

補助器は本来、外付けの傷痕でもある。


  紀貫之(前世)

 (870頃〜945頃)

平安時代の歌人。代表作「土佐日記」は仮名文字日記文学の先駆け。

  紀貫之(転生後)

 1話時点で17歳、3月生まれ

 身長198cm、体重96kg

 転生能力「土佐日記」

 補助器「万年筆・早乙女」

 日ノ本学園高等部 芸術科 3年平安組

和歌研究会の会長。セーラー服がよく似合う大男。面倒見の良い姐さんだが、圧が強いためみんな逃げ出してしまう。

  初芽局(前世)

 (?〜?)

三成の側室。……だが、実際は後年の創作で生まれた実在しない人物。元・くのいち。

  初芽局(転生後)

 1話時点で16歳、12月生まれ

 身長158cm、体重48kg

 転生能力「忍術」

 補助器「苦無・青野原」

 日ノ本学園高等部 武将科 2年江戸組

和歌研究会の会員。転生したら前世の自分の存在が無かった事にされていて、実は精神的にヤバかった。うたとは大親友。

  徳川綱吉(前世)

 (1646〜1709)

江戸幕府の5代将軍。生類憐みの令で有名な犬公方。

  徳川綱吉(転生後)

 1話時点で16歳、10月生まれ

 身長163cm、体重53kg

 転生能力「生類憐みの呪」

 補助器「太刀・犬君」

 日ノ本学園高等部 武将科 2年室町組

動物を愛する会の会長。暗い瞳を蕩けさせて生類に呪いを撒き散らす危ないヤツ。家康に楯突いた三成が嫌い。

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