第4話 合戦の鬼神
「そういえば気になってたんだけど、何で駐輪場に馬が居るの?」
休み時間の賑やかな空気が凍りついたのは、そんな純粋な疑問からだった。
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新学期が始まって一週間。新たな環境にも慣れてきた三成の中には、怒涛の一週間の間で忘れていた疑問が蘇っていた。
駐輪場に居る馬だ。
三成の知る常識には、駐輪場とは自転車とバイクを駐めておく場所であって、馬を駐める場所ではない。そもそも、馬は厩に繋いでおくべきなのだ。だというのに、日ノ本高校の駐輪場には馬が居た。それが三成にとって、強烈な違和感となり、疑問を溢すに至った。……教室を凍りつかせるというオマケ付きで。
「アレ? みんな、どうしたの? まさか僕、また余計なこと言っちゃったりした?」
ヒトの心に疎い三成といえど、一瞬前まで賑やかだった教室が静まりかえれば流石に己の失態を明確に悟る。しかしながら、どの辺りが“ダメな事だった”のかを理解できぬが故に、三成の頭上には疑問符がひっきりなしに浮かんでは消えている。
「ヤ、その……ウン、そうだな……。三成は何も間違っちゃあいないさ。だがな……ソレはあの……アレだ。触れんでくれ」
「エ、う、うん……? アレって何だ?」
いち早く回復した吉継が、三成の両肩をひっしと掴んで激しく前後に揺さぶる。動揺しているのか、ソレとアレばかりで要領を得ない吉継の様子に、三成の混乱は増すばかりである。
「ねーねー。“あれ”って、なぁーにぃー?」
不意に、三成達の足元から少々舌足らずな声が届いた。途端に教室の凍りついた空気が蘇る。“足元から声が聞こえる”という違和感に三成が目線を下に向けた途端、「ひぃっ!?」と小さく悲鳴を上げて固まった。
三成の足元には、ニコニコと笑っている生首が転がっていたのだ。
「あははー。ね、ね。びっくりした?」
「ひェあっ!? な、生首がしゃべった!?」
ケラケラと笑う生首に驚いてひっくり返る三成、三成を支えようとして彼の下敷きになってしまった吉継。教室の一角は混沌と化している。
正気を取り戻したクラスメイト達が何とか混乱を鎮めようと動きだしたタイミングで、教室のドアが音を立てて開いた。
入ってきたのは生首の胴体と思われる頭の無い体だった。
「あ、どうたい、きたー」
もう何も驚かない、と心の中で言い聞かせ続ける三成を他所に、体は頭を拾い、埃を払って首に乗せた。無事に頭と体を付けることのできた少年が、笑顔のまま三成の方へ振り返った。
「きみが、てんこうせいの、みつなりくん、だよね? おれ、たいらのまさかど。さんねんせい、なんだー。よろしくね」
「せ、先輩!? えっと、二年の石田三成、です」
自身よりも幼く見える少年が先輩であることに驚きつつも何とか自己紹介をする三成に、将門の笑みは深くなる。ブンブンと三成を振り回す形で握手をした将門が、今度は頭だけで吉継の方を向く。
「よしつぐくん。のぶながくんに、つたえて。ほうかご、みつなりくんと、かっせんがしたいから、いーえすえすの、みんなも、きてね」
「あ、あァ。承知した……」
二人の会話にやはり、三成はギョッと目を見開く。平和なこの現代で、『合戦』の言葉を聞くとは思ってもみなかったのだ。
そもそも、殺し合うことが御法度のこの時代で、一体どうして合戦なんてできるのか。三成の中で、疑問が湧いては消えてを繰り返していた。
「じゃ、おれは、いくね。……あ、そうそう。みつなりくんの、きにしてた、うまね。あれ、おれのうま、なんだー。かっこいいでしょ!」
三成が思考の海に浸っているうちに、言いたいことは言い終えた将門が三成へ手を振りながら自身の教室へと去っていった。……三成の当初の疑問に対する答えと共に。
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将門がやって来た次の休み時間。三成は吉継や左近をはじめとするESS部の面々に揉みくちゃにされていた。
「ぐえ……左近。左近ってば。苦しいんだけど……」
「俺! 三成様が! あの平将門先輩に絡まれたって聞いて心配したんですけど!」
「……過保護……」
「そう言うヤスも、佐吉にもたれ掛かってンじゃねェか」
左近が顔の近くで大声を出し家康にのし掛かられる三成は、されるがままの状態ながら違和感を感じていた。ただただ三年生が突撃してきただけだというのに、左近も家康も、過剰な程に心配するのだ。
普段は温厚な三成も、流石に己はそこまで子供じゃないと機嫌が降下し始める。秀吉に助けを求めようと顔を向けると、秀吉もやはり三成を心配していたのだと苦笑する。
「将門先輩の機嫌を損ねると呪われるって噂があってな。みんな、“平将門の呪い”が怖いのさ」
「噂って……そんな理由で?」
いよいよ三成の機嫌が底辺に達するか否かのタイミングで吉継から助けが入った。強力な呪いを持つ将門への警戒故であるとの解説に、三成は先程から感じていた違和感の正体に行き着いた。噂や周りの反応と、将門本人の様子にギャップを感じたのだ。
「みんな、噂を鵜呑みにしてるっていうの?」
「鵜呑みにっつーか、実際、首塚を壊そうとした連中に不幸が降りかかった事もあったからな。妙に信憑性があンだよ」
「三成様に危険な目に遭ってほしくないですし」
驚いて小さく呟いた三成に信長と左近から補足が入った途端、今度こそ三成の機嫌は底辺に到達した。信長の言うことも左近の気持ちもわかるが、噂が先行していると言っていい将門の現状は、三成にとって気分の良いものではなかったのだ。
「でも、左近。それだとさ、僕も避けられて然るべきじゃない?」
「な、それはっ……!」
三成が自身を引き合いに出した瞬間、左近は言葉が出なかった。左近には三成が何を言おうとしているのかが分かった。分かってしまった。そして、何よりも大切な主に己の傷を掘り返させてしまった自分自身を恨んだ。
「家康に楯突いた大罪人。天下を狙った奸臣。そんな評価とか噂とかもあったよね。……家康に楯突いたのは事実だけどさ。左近から見て、僕は秀吉様を脅かした奸臣? 口に出すのも憚られるような大悪党?」
三成の言葉に、左近は間髪入れずにそんな事はないと叫んだ。左近から見て三成は、大罪人でも奸臣でもなく、豊臣の忠臣で、己の大切な主君なのだ。
二人のやりとりに、秀吉は苦笑しつつも顔色は悪く、家康に至っては小麦の肌を青ざめさせている。吹雪でもあったかのように気温が下がる空気の中、吉継だけはこれぞ三成、と頷いていた。
吉継も三成が何を言いたいのかを理解していた。三成は将門を、四百年前の吉継と重ねていたのだ。汚れた膿と業病の噂がある中、それがどうしたと吉継との縁を大切にし続けた筆頭こそが三成である。そんな彼は生まれ変わっても噂による忌避や敬遠を嫌うのは道理だった。そのうえ、吉継を傷付けぬようにと気を配る事もやってのけた。そして、そんな三成だからこそ、将門は初対面の彼と合戦がしたいと言い出すほどに気に入ったのだろう。
「さてさて、信長様。将門先輩が放課後、ESS部の皆と合戦がしたいんだと。三成のことがよほど気に入ったらしい」
「ほぉン。先輩がねェ」
しかし、空気が凍ったままにしておく訳にはいかない。吉継は周囲の雰囲気を和らげるためにも、柏手を打って信長に将門からの伝言を伝えた。すると言いたいことは粗方言えたらしい三成が、吉継の傍にひょっこりと現れた。先の休み時間から会話に出ていた“合戦”が気になるのだ。
「……合戦って? 今って、殺し合いはダメなはずなんだけど」
「この学校独自の試合みたいなものさ」
「準備に時間と金がかかるから頻繁にはできねェけどな」
三成にとって、“合戦”は四百年前の知識で止まったままだった上、転校前の講習では、学校独自のものは習わないのだ。故に、吉継と信長の言う「準備に時間と金がかかる試合」である“合戦”が、いまいち想像できずに頭上に疑問符を浮かべている。
そんな三成の様子に、信長は笑いながらメモを渡し買い出しを言いつけた。いつのまにか復活した家康も、三成を手伝うと言い出し、やはり三成は困惑のままに流されるしかなかった。
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そうして迎えた放課後。信長が急いで確保した体育館には三成、左近、吉継、家康、秀吉、信長、行長、道誉、正則、そして将門が集まっていた。
「さァて、全員揃ったな」
「揃ったって言ってもぉ、十人だけだけどねぇ」
「うっせ。それは言うなよ。元々活動日じゃァねェんだからよ」
信長が点呼を終えたところで秀吉から茶々を入れられてむくれる。ともすれば我が強くなってしまいがちなESS部の面々は、元々の活動予定でない日に声を掛けても集まることの方が稀なのだ。
「みつなりくん、あさぶりだねー」
「よろしくお願いします、先輩」
「……ルール……説明……能力……把握……」
「お、そうだな。じゃ、先にルール説明すっから、しっかり聞いとけよ」
信長は自身の近くでマイペースに将門と談笑する三成を確認し、家康に急かされて合戦のルール説明を始めた。
そも、“合戦”とは日ノ本学園が転生者達の能力を制御させる訓練として始まった試合である。しかし、“加護”や“呪い”を持った転生者を始め、彼らの能力は人の命を奪いかねない強力なもの。そこで、安全に考慮してルールが定められる事になったのだ。そうして決まったルールがこの十個である。
一、合戦とは大将首と弁当のメニュー(またはお菓子)を奪い合う試合であり、大将首になるメニューはその時々でランダムに決まる。
一、制限時間(十分)以内に大将首を獲った時点で勝利が確定する。
一、制限時間以内に両チームとも大将首を獲れなかったら、奪えた品数が多い方が勝利である。
一、攻撃/妨害/防御/兵站のポジション分けがある。
一、攻撃係は相手の陣地に斬り込んで弁当の中身を専用のタッパーに入れる。
一、妨害係は相手チームの防御係と兵站係の無力化を試みる。
一、防御係は弁当と兵站係を守る。
一、兵站係は合戦中に弁当の補充を行う。
一、十分以内に片付けができない様な大規模な能力の使用は禁止である。
一、骨折二ヶ所以上などの後遺症が残りかねない大怪我をさせるのは厳禁である。
「……とマア、今回はこんな感じだな」
信長のルール説明に、三成は昼間の買い出しの意味を理解した。そして、食べ物を粗末に扱ってしまう事態もあるのではないかと不安が過るも、傍に居た左近から、そのあたりは防御系の能力持ちが守るから大丈夫だと補足がなされた。
「で、そうそう。佐吉は自分の転生能力、把握してるか? ちなみにオレは大雑把に言うと炎を操る能力だな」
信長は三成に転生能力について訊ねるや否や、実際に見せてやる、と自身の補助器である機関銃を銃身が上を向くように構えた。引き金を引くと、銃弾が装填されていないにも関わらず、銃口からは色鮮やかな炎が花火のように発射された。
「……あ、はい! 僕は、植物を操って色々できます」
炎の美しさに思わず見惚れるも、すぐに自身への問いかけを思い出して答える。そうしてお返しと言わんばかりに三成も自身の能力を実演して見せた。制服のポケットから取り出した植物の種を空中に投げると、物理法則や自然の摂理を無視して草花が育ち、枯れていった。
その様に信長は目を見開いて見つめ、そうして内心で頭を抱えた。当てが外れたのだ。
信長はもとより、三成の前世の事から、彼の能力は『米を出す』などの兵站向きなものだと予測して、予定を組んでいた。だというのに三成の能力は、どちらかと言えば、防御や妨害向きだったのだ。
しかし、いつまでも頭を抱えてばかりではいられない。成るように成るかと気を取り直して、話を進めることにした。
「チーム別けはオレとヤスと佐吉、左近、吉継が赤チーム。ヒデと道誉、正則、先輩が白チームな。行長は審判頼む」
チームに分かれた時、三成は首を傾げた。秀吉達の白チームは一人少ないのだ。人数に差があるのにフェアな試合ができるものなのかと心配になった三成の肩を、正則が心配するなと叩いて、自身の転生能力を発動してみせた。
正則の能力が発動すると、彼の隣には、三成にとって何処か懐かしい面影の大きな虎――加藤清正が居た。曰く、正則は清正と二人で一人の扱いのため、三成ら赤チームとの人数差は有って無いようなものなのだ。
「準備はいいか、にゃ? 大将首は唐揚げ! ンにゃあ、開戦、にゃー!」
人数の問題も解消し、両チームがそれぞれの自陣に着くと、開戦の合図と共にホイッスルの音がけたたましく響き渡った。
「うっし。佐吉は兵站、ヤスは防御だ! 左近、吉継、行くぜ!」
「……三成……余の……隣……居ればいい……」
「う、うん」
開戦してすぐに、信長は戸惑う三成を置いて駆け出していった。呆然とする三成を見かねて、家康が三成の手を引いて持ち場に着く。そうして家康は、補助器の太刀を構えた。
「……『此処は、大権現の座す場所。
「わ、すごい……結界ってヤツ?」
「…そう……内からの……守り……」
家康の言葉と共に太刀の刃が煌めくと、唐揚げが盛られた皿を中心に半透明な薄緑のドームが出現した。
三成が興奮気味に結界をペタペタと触れるが、その手が薄緑の幕を貫通する事は無い。三成に語った様に、家康の結界は内側からの守り――外からの侵入は許すが内側から外へは出ることができない様にする事に特化しているのだ。
結界の外では激しい攻防が続いている。
吉継が怪しい術を掛けようとすれば清正と正則が妨害し、左近が大将首へと箸を伸ばせば道誉に叩き落とされ、秀吉が吉継達を無力化しようとすれば信長の火が吹く。どうやら信長達は秀吉ら白チームを攻めあぐんでいるようだった。
膠着状態に陥った体育館の中で、将門は不気味なほどに動きが無かった。攻めもせず、防御もせず、じっとコート内を見つめるのみである。
このまま試合終了まで動いてくれるな、と家康は願う。そんな家康の祈りも虚しく、ニヤリと紅い目を細めた将門が、とうとう結界内に攻め込んで来た。
「みつなりくん、いえやすくん。あーそーぼー!」
「……っ……!」
将門は結界に侵入してくるや否や無防備な三成に斬りかかった。将門の放った攻撃が三成に到達するかといった所で、彼の大太刀は家康の太刀に阻まれる。
鍔迫り合いにもつれ込むがしかし、流石は三大怨霊にも数えられる将門。体格の割に重い攻撃に、家康は顔を顰めた。
「家康っ! 『絡まれ、寄生の枝。
「あは。まだまだ」
「く、う……重っ……!」
そこに、体勢を立て直した三成が寄生の枝を伸ばして将門に絡ませる。枝を引っ張って将門の妨害を試みるも、そんなもので止まる将門ではない。三成と家康が二人がかりで戦ってもなお、暴れまわる将門に歯が立たずにじりじりと押されだしている。
「……せぇいっ……!」
「あは、ははは。あはははははははは! たのしーね!」
それでも一瞬、できた隙に、家康がもう一度斬りかかり直す。三成も続いて、寄生の枝を床に固定し、補助器の薙刀での応戦に切り替えた。
三成らの刃が届きかけたその時、不意に、将門は壊れた玩具のように笑いだして距離を取り、大太刀を己の頭上に掲げた。
「おれも、ほんき。『まだまだ、やれるよね?
「な、アレ……反則じゃんか……!」
「……先輩……はしゃぎすぎ……!」
逆光によって将門の紅い瞳が妖しく輝いた瞬間、三成達の居る区画の天井から大量の矢や槍が降り注ぎ始めた。呆然と立ちすくむ三成達の背後で、けたたましいホイッスルと行長の怒声が響いた。
「うぉーい!? 将門先輩、ガッツリ反則じゃにゃーか! レッドカード、にゃーッ!」
「えー。あたんなきゃ、はんそくに、ならないよ?」
「フシャーッ! 当たりそうだから反則なんだにゃあ! ルール見返せ!」
興奮してニャアニャアと怒鳴り散らす行長だが、将門はキョトンと惚けるばかりである。しかし、将門が行長の方へ意識が逸れたことによって矢の放出される威力が弱まり、家康は勝ち筋を見出した。
「……三成……撃ち落とす……できそう……?」
「僕にそこまで求めないで!? ……あ、いやでも、アレなら、何とかなる、か?」
「……やって……」
「エ!? ……あー、もう! どうなっても僕は知らないからね! 援護、任せたよ」
大量の矢によって擦り傷を作りつつも、家康と三成は即興の作戦会議をする――と言っても、家康の無茶振りに三成が呻いているのが現状ではあるが。
少し悩んで、三成は覚悟を決めて補助器を構える。三成の当てが外れる可能性もあるのだが、何もせずに矢の針山になるのは嫌なのだ。
「……うん……『此処は、大権現の座す場所。……日輪は昇り、遍く生命に加護を授ける結界を成す。……
家康が太刀を構えて呪文を唱える。最初に張ったソレよりも堅い結界が、今度は矢の放出点を起点に展開された。
しかし、勢いを取り戻した将門の矢は、数秒の後に結界を突き破る。だがその数秒で、三成の準備も整った。
「『紅蓮の花弁は煉獄を成し、蒼き野原を染め上げる。燃やせ、薙ぎ払え、炎の花。
三成の言葉と共に彼らの周囲に炎の花が大きく咲く。舞い上がる花弁は確かな熱を持ってジリジリと三成らを照らしつつ、将門の矢を焼き尽くす。
燃えカスが舞い散り、安堵のため息をついたその時、またしても三成の鼓膜を行長の怒声が揺さぶった。
「三成ぃー!? なんっ、おみゃっ、反則ぅー!」
「片付けはすぐできるから大丈夫ーッ!」
「ニャーッ! ドイツもコイツもぉ……!」
行長は動揺していた。転生してからの人生では最大級の動揺だ。
真面目が服を着て歩いているようなあの三成が、反則行為をしたのだ。
とはいえ、三成本人には反則行為であるという認識はない。何せ、炎の花は完全に三成の制御下にあり、補助器の効果もあって暴走の危険はなく、片付けも一瞬なのだから。
しかし、行長が花から感じ取った熱量は人間すらも焼きかねない程のものだったのだ。この認識の違いゆえに、三成は何故行長が怒鳴っているのかがわからずに先の将門のように目を丸くするのである。
三成もルールをルールと思わない問題児集団・武将科の仲間入りか、と行長が明後日の方へと意識を飛ばしていると、焦ったような正則の叫びが三成と家康へ向けられていた。
「徳川! 石田! 避けろ!」
大きな咆哮と共に清正が三成達の方へと走っている。それだけであれば問題はないのだが、彼の目に理性の欠片は見当たらず、正気を失い獣同然となっているのだ。
なんとか間一髪で家康が回避したのを目にして一安心した一瞬後、行長と正則は息を呑んだ。
「……ぇ」
したたる血潮に三成は目を見開く。
回避の遅れた彼の肩口には、清正の牙が深々と突き刺さっていた。
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◯TIPs
合戦
日ノ本学園独自のスポーツ。転生者達の能力を制御させる訓練として始まった試合。安全に考慮して十個のルールが定められている。
平将門(前世)
(?〜940)
平将門の乱の首謀者。京で晒し首になっても戦の再戦を望み、果てには胴体を求めて関東へと飛ぶなどブッ飛んだ逸話のあるクレイジーガイ。日本三大怨霊の一人。
平将門(転生後)
1話時点で17歳、8月生まれ
身長156cm、体重59Kg
転生能力「太陽神の呪い」
補助器「大太刀・桔梗」
日ノ本学園高等部 武将科 3年天平組
オカルト研究部の部長。前世で色々やらかした上に転生してからも合戦三昧で過ごしていたら周囲から畏れられるようになっていて少し困っていた。裏表の無い戦闘狂。
加藤清正(前世)
(1562〜1611)
豊臣秀吉に仕えた武将。賤ヶ岳七本槍の一人。築城の名手で熊本城の設計を手がけた人。
加藤清正(転生後)
1話時点で16歳、11月生まれ
体長4m、体重220Kg
転生能力「魂共有の呪い・虎」
補助器 無し
巨大なホワイトタイガー。転生したら福島正則と魂を共有した上に虎化していた。人間以外の転生者は法令で定められた“転生者”ではないため、補助器は支給されなかった。
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