第5話:目標!

――伊400・艦橋司令塔――


 薄暗い司令室に、ホログラムが青白く揺れている。


 日下敏夫艦長を中心に、伊400の幹部たち、そして“雪風”の艦長『富嶽武夫』も共に、画面に映る解析データを見つめていた。


 その中心に浮かぶのは、地球の西岸――サンフランシスコ沖の海域。


「……間違いありません! これは、列強側の通信網に秘匿されていた特別周波数です」


 暗号解読班の乗員が低く報告する。


「米国最高司令部のデータバンクから回収した暗号ファイルの中に、**コード・天ノ扉**と呼ばれる警備対象が記録されていました」


 富嶽が眉をひそめた。

「“天ノ扉”……?」


 日下はホログラムの中に浮かぶ海域の一点を指差す。


「この地点……サンフランシスコ沖、水深3600メートルの海底に存在する未登録の構造体がある」


 オペレーターが補足する。


「正式な記録には存在しません。しかし、連合軍艦艇の過去ログを追跡した結果、 この座標に定期的な艦艇の往来と、異常なエネルギー消費が検出されています」


 富嶽が声を低くする。

「……つまり、そこが“牢獄”か」


 日下は静かに頷いた。


「“天ノ扉”とは、本来日本の象徴である“天皇陛下”を封印するために作られた、列強の海中要塞……その可能性が極めて高い」


 室内の空気が一瞬、張り詰める。

 富下先任将校が声を震わせながら言う。

 「……まさか、本当に……陛下が生きていらっしゃると?」


 暗号解読班の乗員が頷く。

 そして日下が呟く。


「列強の“分断統治”政策は、ただの物理的な封鎖ではなかった。日本の精神的支柱を完全に失わせることが目的だった」


 富嶽が怒りを含んだ声で低く呟く。

「象徴を奪い、国の心を殺すつもりだったのか……」


 日下は一点を見据えたまま、静かに言った。


「だが、逆に言えば……陛下を取り戻せば、この分断された世界に“魂”を取り戻すことができる」


 日下はゆっくりと立ち上がり、全員を見渡す。

 その目には、決意の光が宿っていた。


「この情報は、何者かが連合軍司令部の奥深くに隠し続けていたものが“偶然”見つかったのではない! 神々によって我々に託されたのだ」


 富嶽も立ち上がり、低く唸るように言った。


「……サンフランシスコ沖、海中要塞“天ノ扉”か」

「伊400と雪風、この二隻が、そこまで行けるかどうかですが? それに……我が艦は水上艦である故……」


「行ける!」

 日下は言い切った。


「行くしかない! 日本を、陛下を取り戻すために……! “雪風”にしかできない事が絶対にある! そして、この命を賭ける覚悟がある者だけ、ついてこい」


 静寂の中、全員が無言で頷いた。


 富下先任将校が絞り出すように言う。

「……艦長、我々は……歴史の転換点に立っているのですね?」


 日下はゆっくりと頷いた。

「いや、これから我々が、歴史を作る」


 その瞬間、ホログラム上のサンフランシスコ沖に赤い円が描かれた。

 それは、ただの地図ではなかった。

 運命の座標だった。


 目標:天ノ扉! 作戦名称――「帰還(リターン・オブ・ミカド)」

 闇の海に眠る、日本の魂を――いま、奪還する時が来た。


「これより、伊400と雪風は陛下救出のため、出撃する!!」

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