4 一方その頃残留組は



調査隊を送り込んでから8日、残った側は残った側で苦境に立たされていた。


「襲撃! 8時の方向から魔物の群れの襲撃が来た! 第1防衛班は対処に!命大事に、危なそうなら引いて囲んで叩いて!」


「ええい、出会え出会え!」

「くそう、JCのやることじゃないよこれ!」

「ここまで連続で来るなんて、堀と槍を作っといて良かった!!」

「みんな、気を引き締めよう!」

「もうぐろいのやだー!」


オリジナルである私が今いるのは土を積み上げて作った3メートルほどの丘の上。魔物の群れを見つけた監視班の複製がすぐさま私に報告し、すぐに指示を出すと複製達がわらわらと魔物へと対処を始める。


2メートルほどの土を掘り固めて作った堀の前に並び、降りた魔物を三人掛かりで上から囲んで原始的な槍で突き殺し、堀を飛び越えたり崩そうとするやつには投擲兵の複製達が優先的に石を投げて牽制、殺害する。


そうやっていると全部の魔物が逃げるか死んで……。


「撃退、撃退、逃げた魔物は全部索敵範囲外に逃走したよ!あとは修理班頼んだ!」



そうしたら、私が撃退を宣言し、修復班の複製達を呼ぶと、防衛班達は休憩に入って修復版は魔物の死体を片付けたり戦闘で壊れた堀を直し始める。




これが調査班を出してから今まで8日の間、1日に3度起こっている日常である。



どうしてこうなったのかは予想がついている。

おそらく調査隊の何人かが食われて、そこから匂いや足跡で辿って来られた、その魔物を返り討ちにして殺すことでその血の匂いに惹かれて、その負の連鎖で今のこの惨事になったのだと思われるのだ。


50隊、150人も調査に出したので、この状況も多少の予想はしていて、出発までの3日間に魔物の角を敷き詰めた堀を掘ったり、原始的な槍を作ったりして迎撃の準備は進めていたが、ここまでとはさすがに予想外。


集中を欠いてのミス、強い魔物の襲撃、調査隊の死体を投げつけてくる凶悪な魔物の襲撃といった自体によって数人ぐらいの人数が死んだ事もあって……。


「あー、こほん。魔物の撃退ご苦労さま。第2、第3防衛班の出番が終わるまでは緊急時以外は休んでて良いよ!」


「これでようやく1日休める……明日またこれやるんだね……」

「疲れた……ようやく終わった……」

「今回はまだマシだったね」

「マシなだけできついことに変わりはないんだけどね」

「体が筋肉痛で痛いよ……」

「死にたくない……もう嫌だ……」


複製達はこの有り様である。

発狂したり負傷したメンバーの人数だけ自分を複製、補充してどうにか繋げている状態で、増え続ける複製達は現在500人くらい。生活圏のリソース的にはギリギリだがなんとか回復する人数と釣り合って、そのうえで『万物複製』を全開で回してどうにかやっていっている状況である。



そんな現状を考えながら、防衛班が散って行くのを見て私は監視班の膝の上に倒れ込んで話し始める。


「んだー、疲れたよー。もう精神の限界ー」


「我慢してくださいよ、オリジナルはここで指示してるだけでいいんですから」

「そうですよ、ふんぞり返ってるやつに限界とか言われたくないです」


「ムー、命を背負ってるのは精神にくるんだぞ、指示を失敗できないし。それにそんなことを言ったらそっちはどうなんだよ、監視役なんて見てるだけじゃん!」


「いやわかってるでしょ!暗黙の了解で私が見逃して死んだら惨殺される事が決まってるんですよ!やりたくないけど集中を欠かれて死ぬのは勘弁だし自分ならこれで気が引き締まるはずだからって理由で!自分相手だからかみんな厳しいんですよ!」

「こんな状況になって自分の怖さに気がついちゃったんだ、私って命が危なくなると結構残酷になれちゃう人だったんだね」


愚痴や軽口を叩き合って精神の安定を図る。これはオリジナルにとっては重要な役目でもある。


なにせ生み出す複製の精神は複製時の私のものだからちょっとでも気分を軽くしておかないと戦況が揺るぎかねないんだよね…。



そんなことを考えながらもどうしても不安が浮き出てくる。なにせ、もしも何かしらの問題が起これば全てが瓦解するのだから。

だからこそ状況を変える何かしらを持って帰ってくる人を全員が待っている。


「調査隊、早く帰ってきてよ……」


そう小さくつぶやいた声は誰にも届かずに消えていった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る