第22話 流石は王様 ちょっと怖いですわ
ウルペスが反対した。オリクトにとっては嬉しい事だ。この場で一番発言力がある者が味方になったのだ。
しかし、それをはいそうですかと頷くわけにはいかない。真っ先にラゴスが反論する。
「どういう事ですか父上。あの男がオリーを求めて戦争を起こしたらどうするんですか!」
そんな馬鹿な。と思ったが否定はできない。
この手の男は文字通り初対面の女性に対し自身のすべてを捧げる、傷つける者うを一切許さない。そんな極度の溺愛と帝国の力。これらが混ざればただ事ではなくなる。
もし戦争が起これば一番の被害者は国民だ。そんな事はあってはならないとオリクトの良心が痛む。
「いや、戦争は起きぬよ」
だがウルペスは冷静だった。
「オーラムは良くも悪くも皇帝……よりも竜であるカルノタスに集中している。王に力が集中するのを良く思わぬ貴族はどこにでもいる。そもそも、姫を娶る為に戦争なんぞ起こせば国中から反発がある」
「確かに。それに娘をカルノタス殿下に嫁がせたいオーラムの貴族からすれば、オリーとの婚姻は絶対に阻止たいはず」
ルプスの言う事は最もだ。そう考えるとオーラム内で防ぐ算段はある。
「そうだ。未然に防ぐのも容易い。その上オリーが国内にいる以上、褒められた行為ではないが人質のようにもできる」
「貴方という人は……。まあそれだから今があるんですけど」
ルプスの心境が傾く。
「そしてオリーを失うものも大きい」
「わ、私を?」
驚いた。愛してくれているのは解っていあた。しかし男尊女卑の色が濃いこの世界で、父がそんなに評価してくれたとは思ってもいなかった。
「ああ。確かにクド族関連が少々急なのは事実。そしてラゴスの代で整えるのが一番リスクが少ない。しかし既にオリーは実績を出してしまった」
「実績?」
「オリーの発明品よ」
シルビラに突かれるもラゴスは首を傾げるだけ。二人のやり取りにウルペスは呆れたようにため息をつく。
「照明付き鉱夫用兜。魔動掘削機に防塵マスク。フェルム領にある鉱山で大活躍だそうだな」
「そんなものを作っていたのか。知らなかった……」
驚き目が点になる兄。本当にオリクトが何をしていたのか把握していなかったようだ。
流石にどうかとウルペスはまたため息をつく。
「もしオーラムに嫁いだ後、それらの権利を主張されたらどうなる。発明品の徴収、使用料の請求。いくらでも利用できる」
「お父様、いくらなんでも……」
「私ならやる。オリーが直接言わずとも、カルノタスやオーラムの連中が言い出すだろう。それだけの価値があるのだ」
反論ができない。確かに可能性はある。
「ラゴス。もしオリーが弟なら足下を掬われたぞ。王位争いに負けてたかもな」
「!」
ラゴスの顔から血の気が引く。
「お前は頭も良く視野が広い。次期国王として申し分ない才だ。しかし足下がお留守だな。もし私のように兄弟がいればどうなってた事やら」
「……善処します」
「それだけではない。お前達三人は協力し合えるのだ。それを忘れてはならぬ」
シルビラ、オリクトへ順に視線を送る。
「オキシェンとの同盟、国防の要であるブラーク家、魔法具生産のマグネシア。三人の繋がりは国に大きな影響を与えるだろう。だからこそ手を取り合うのが重要なのだ」
一瞬言葉を失う。彼の言う通りかもしれない。
流石は現国王。ここまで考えていたのかと驚く。
「……すまないオリー。私は君の仕事を軽んじていた。いや、ドルドン達の事もだ」
「私こそごめんなさい。自分の事ばかりでお兄様に何も伝えてなかった」
家族なのだ。もっと協力しなければ国なんて大層なものを守れない。何よりラゴスには弟がいないのだ。王位争いが無いのならより手を取り合うべきだろう。
「さて、小言はこのくらいにしよう。本題はオーラムだからな」
仕切り直しとばかりに手を叩くと、再び空気が変わる。
「オリー、これが私達の意見だ。しかし今回の件はお前の意見が一番重要だ。オリーはどうしたいのか、聞かせてくれ」
矛先が自分に向けられる。まるで裁判の被告人席に立ったようなプレッシャー。王国の行く末を決め兼ねない選択だ。
深呼吸をし頭を冷ます。感情だけでなく損得勘定、国との関わり。そして自分に何ができるか。
王女として何を選択すべきか。
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