第14話 いい? 貴族のパーティーは遊びじゃないの
人集り。前世で体験した通勤ラッシュより遥かにマシだが、この人数は酔ってしまいそうだ。
仕方が無い事だろう。なんせ一国の王女の結婚披露宴だ。国内の有力貴族は勿論、近隣諸国からも客を招いている。それだけ壮大なパーティーなのだ。
前世のオリクトなら税金の無駄遣い、と断していただろう。だが今の彼女は違う。
人件費は勿論、出される料理、その食材。貴族達が着る衣類。その全てに使う金は生産者である民へと流れる。謂わば一つの事業だ。
それに他国に力を見せつける必要だってある。ここで嘗められれば隙が生まれる。そこを狙って戦争でも起こされれば被害を受けるのは民だ。
だからこそ敵わないと思わせる必要がある。そして王女であるオリクトもだ。
ドルドンをエスコート役に彼の腕につかまり人々の間を歩く。
(結局フル装備かぁ。まあドルドンのプレゼントだから良いんだけど)
羽のブローチ、菱型のイヤリング、ルビーを繋げたネックレス。毎年一つづつ送られてくるドルドンお手製の装飾品達だ。どれもが魔法具といった最高級品。知る人が見れば目玉が飛び出るような金額だ。
しかもこの全てがオリクトの護衛を目的としたもの。その気になれば騎士の二三人は木っ端微塵にできる。金額、性能、どれをとってもオリクトの最強装備なのだ。
「いた。ドルドン」
「はい」
二人で目標に向け歩く。ドルドンは緊張しているのか無表情。下手に慌てるよりマシだが少々不安だ。いざという時はこちらがフォローすれば良い。
そんな事を考えなが目的の二人組に近づく。
オリクトと同じ真っ赤な瞳、真逆のスラリと伸びた肢体。長い金髪を揺らす今日の主役。オリクトの姉、シルビラだ。
「お姉様、ご結婚おめでとうございます」
「ありがとうオリー」
そしても一人。シルビラの隣に立つダンセを見上げる。
襟の間からも解る太く筋肉が威圧感を放つ。小柄なオリクトの三倍はあろう肩幅に短く刈り上げたブラウンの髪。
シルビラの夫。アンガス・ブラークだ。
「そしてアンガス様。心からお祝い申し上げます」
「ありがとうございます殿下」
低く聞き覚えのない声だ。しかし力強く獣の唸り声を思わせる声色と、強面のアンガスの風貌は見事にマッチしている。
「そして……君が」
「はっ。オリクト様の婚約者、ドルドン・マグネシアでございます」
背筋を伸ばしたまま一礼。アンガスはドルドンを値踏みするように眺めている。
「噂は聞いている。そうだ、クド族には武具の発注で無理をさせたな。うちの騎士全員分の魔法武具を用意するなんて大変だっただろう」
「滅相もございません。皆大口の注文に喜んでおりました」
「ならば職人達に伝えてほしい。そなたらの武具のおかげで、先日の盗賊団討伐……騎士達の完全勝利となった。素晴らしい仕事だ。騎士達も喜んでいる」
「我々にとって最高の讚辞です。皆喜ぶ事でしょう」
本当に嬉しいのだろう。ドルドンの頬が緩む。
職人として、作った物が役立ち褒められるのは喜ばしい事だ。オリクトも彼らの地位向上に繋がり嬉しい。
「では他に挨拶回りがありますので失礼します」
「ええ。また後でねオリー」
姉の微笑みに見送られ二人は次に向かう。
余裕を魅せるような微笑。周囲も花嫁の妹だと噂し注目を集める。この国の第二王女だ、当然である。
しかしそのどれもが彼女に向けられたものではない。
「見ろよ、あの薄汚れた……」
「本当に殿下の婚約者なのか? あんなのより私の息子の方が相応しい」
「職人如きに爵位を与えるとは。陛下も何を考えているのやら」
ドルドンへの、クド族への陰口だ。
ウルペスの計らいから評価は見直されている。現にアンガスもクド族が作った武具を高く評価していた。しかしそれでも本来異民族であるクド族を心良く思わない者は多い。
「……オリー。僕は大丈夫だよ」
陰口はドルドンも聞こえている。しかし彼は揺るがない。この程度で嘆く程ヤワなメンタルではなかった。
「ええ。信じてるもの」
そしてオリクトからすれば、文句があるなら掛かってこいと常に臨戦態勢。女だからと舐めてる連中は返り討ちにしてやろうと息巻いている。
決して屈しない。二人には既に鋼鉄の如き絆があった。
そんな二人の前に少女が立ちはだかる。
「お久しぶりです殿下」
「あら、ちょうど挨拶に行く所だったのよフリーシア」
ツインテールにまとめたたアンガスと同じ色の髪。オリクトと同じくらいの小柄な身長。しかし身体の一部だけはまるで違う。背丈に回されるはずの栄養が全部胸部に行ったようなグラマラスな少女だ。
新郎アンガスの妹、フリーシアである。
「……さて、お久しぶりねドルドン様。前に会ったのはオリクト様のお誕生日だったかしら」
「はい。フリーシア嬢もお元気なようで」
「当たり前ですわ。なんせ今日はアンガスお兄様の結婚式ですもの。にしては……」
周囲の視線にフリーシアも気付く。奇異と好奇心、その中に混ざる侮蔑。
フリーシアはニヤリと意地悪そうに口角を釣り上げる。
「そう言えばオリクト殿下。素敵なネックレスですが、何処の宝石商から購入されたのですか? しかもそれ、魔法具では?」
何が言いたいのかオリクトも察した。良い友を得たと感謝する。
「そうなの。実はこれだけじゃなくて、全部ドルドン様お手製なのよ」
そう周囲に見せつけるようにネックレスに触れた。
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