第476話

 人の領域へと自らの意思でやってくる魔物を根絶しようとするのであれば、早ければ早いほど良い。

 そう考えた俺は、さっそく開拓村へとやってきた。

 テレポートゲートを使うと帰りに多少問題が出るため、今回はイチゴエアを利用しました。

 機内食を食べる暇もなく着くので、あまり飛行機に乗ったという感じはないのが玉に瑕。

 前の座席に着いているモニターで映画を3本見てもまだつかないくらいの旅行がしてみたいなぁ……。

 いや、行きたいことろにはイチゴに頼めば幾らでも連れて行ってもらえるんだけど、そういうことじゃなくてね?

 旅行という行為自体を楽しみたいんだ……。


 まあ、この世界の旅行って前世の大航海時代の太平洋横断くらい命がけなんだけどもね。


「あら大試!いきなりどうしたの?」

「ちょっと紅羽に会いに」

「だぁぶ……(小僧、また来たのか……)」

「あああああ紅羽今日もかわいいなああああああ!」

「すまんのご母堂、時間がかかりそうじゃから、茶でも貰えんかのう?」

「ええ、ティータイムにしましょう!」


 そして1時間後。


「よし、満足した」

「もう帰るの?」

「あぁ。ついでの用もあるから」

「ついで?」

「ちょっと風雅にね」

「あらそう?でも殺さないようにするのよ?」

「わかってるよ」


 一体この母親は、俺のことをなんだと思っているのか?

 ラブ&ピースを何より大切にしているというのに。

 それを実現するためにパワーを重視するだけで。


 そして、村の中にある風雅の家にに向かった。




 コンコンッ


 おぉ……この扉は、ノックするといい音がするなぁ……。

 アメリカの映画にでてくるドアみたいだ。

 流石なんとかトレント製。

 開拓村に帰ってきたって感じがするなぁ……。


「大試か!?」


 風雅の声が聞こえた。

 ドアを開けるどころか、声を掛ける前に俺だとわかるなんて、これが狩猟王の力か!?

 玄関が開き、見慣れた顔が出てきた。


「よく俺だってわかったな?」

「この村でノックするなんてお前くらいだろ……」

「……開拓村に帰ってきたって気がするわ」


 やっぱおかしいってこの村!


「それで、何か用か?」

「あぁ。ちょっとお前に仕事を頼みたくてな」

「仕事……?お前が俺に?」


 随分と驚いているらしい。

 それに、かなり怪しんでいるようだ。

 そりゃそうだろう、俺は風雅にとって、自分が殺そうとした相手で、更に本気で殺しに来た相手だ。

 俺としては、母さんが既に呪い的なものをかけて俺や俺の大切な人たちに危害を加えられなくなった時点で、もうどうでもいいと思っているんだけれど、本人としてはそう思えないんだろう。

 どんな仕返しをされるか不安なんだろうな。

 でもな……今俺が仕返しするとしたら、主人公の立場を勝手に降りて、俺に苦労を舞い込ませたことに対してなんだよなぁ……。

 まあ、聖羅たちと婚約できた事を考えれば、お釣りを払ってもいいくらいのことなんですけどもね?


 というわけで、これは仕返しとか報復なんてもんではなく、仕事の依頼なんですわ。





「……つまり、その変な熊を狩れば良いのか?」

「5頭な」

「そうか……」


 真面目な顔で俺の説明を聞いた風雅。

 俺が見てきた風雅の中で、最もシリアスな顔だ。


「やっぱり5頭ってなると難しそうか?」

「いや、熊5頭なら一晩で狩れる数だけどよ、それが特定の個体ってなるとなぁ……」


 そうだよなぁ……。

 俺としてもダメ元で来てみた部分はあるんだけどさ……。


「3日くらいはかかるだろうな」

「まじかよ……」

「時間かけ過ぎか?なら2日でなんとかしてみるけどよ……」

「いや、早くても1週間くらいはかかるかと思ってたわ。狩りきるのすら」

「狩る熊全員が最近いた場所までわかってんだろ?だったら俺なら余裕だ」

「すげぇな狩猟王……」

「狩りならお前よりやってきたからな」


 そりゃ小さい頃から狩りの手伝いしてきたんだしな。

 ギフトもスキルも、相当に育っているんだろう。

 いいなぁ……。

 俺の具現化可能数くらいしか成長しないギフトとは大違いだ……。

 まあ、気に入ってはいるんだけどさ?

 デメリットで他の魔術が使えないのはどうなのさ?

 俺だってファイアボール出したい!

 折角のファンタジーなのに!


「じゃあ、受けてもらえるか?」

「受けるのは良いけどよ、報酬はあるのか?」

「逆に聞くが、何か要求はあるか?ここだと金ってわけにも行かないだろ?」


 ギフトマネーで支払える商業施設なんて無いんだよなぁここ。


「……じゃあ、子供服……赤ん坊のから、5歳くらいまでのもんが欲しい。男の子用と女の子用な」

「あぁ……うーん……そうかぁ……」


 これは予想外の要求だ……。

 反応に困る……。


「ダメか?」

「いや、全くダメじゃない。ただ……」

「ただ、なんだ?」

「改めてお前って、本当に父親になったんだなぁと……」

「そうだ。だから、仕事があるならやりたいし、それが人のためになるって言うなら尚更だ」

「そうか……」


 なんか、お前のことカッコいいと思っちゃってるわ俺。


 なんであんな馬鹿だったんだ……?

 童貞だったからか……?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る