第15話:乳幼児の喫煙は好まれません。

「———〜〜〜ッ!!」


とあるポツンと一軒家Dr.Fの研究所で、己の痴態にもがき苦しみ、床を転げ回っている奴が一人。


俺のことなんだけどね!


「はわぁぁぁあぁぁ〜〜〜!!」


何やってんだ俺ぇ!


いやッ、ほん、ほんとに何やってんの!?


いくらOYSの能力に公式名称が無かったとはいえ、語ったやつがもう死ぬ事になるところも踏まえて!

流石にあの時はテンションがハイ⤴︎!! になっていたとしてもなんだあの名乗りは!


ちらり、と思い出してみる。






『俺の能力は『私だけの空ザ・ワールド』』






「ふぬぅお〜ッ!」


はっ、はははは、恥ずかしすぎだろ! なんだよ『ザ・ワールド』って、DI◯じゃあないんだから!


あっ、これ止められない。一度頭によぎっちゃったら思い出すのをやめられないパターンだこれ。


俺の意思に逆らってその続きが再生される。






『俺は『調律者トゥナー時計弄りの白クロノ・ホワイト』。お前が相手をしていたのは、この世界の意思そのモノだ』






「ギィィィぁぁぁ゛ッ!!」


はっ、恥ずか死してしまうわ!


フロアに背中をつけ、意味もなく、ただ足と腕を赤ちゃんのように上下に揺すってしまう。

冷静な俺だったら今の姿の方がよっぽどだと思うが、今は冷静じゃないからどうだっていいよねおぎゃぁぁぁあ!!


『……………スッ』


つい最近叩き起こしたお手伝いロボットくん三世が、拡張パーツの中からガラガラを取り出し、俺の眼の前で規則的に振る。


うん、赤ちゃんにはそれでいいかもしれないんだけど、俺、赤ちゃんじゃないんだ、ばぶぅ……………いやその機能どこで使うんだよッ!!


「ッ! そろそろ思考を元に戻そう」


脳の奥底でイキったセリフが鬼リピートされているのを感じながら、三世くんに代用コーヒーを入れてきてとお願いする。


……………なんで動かないんだよ。なになに? 『乳幼児に多量のカフェイン接種は好まれません』? ……やかましいわッ!!


命令を受け止めたお手伝いロボの背中を見送りながら、どうやって解体スクラップにしてやろうかと知恵を巡らせる。

っていうか、三世三世言ってるけど、あいつ一番最初に作られた初号機だからな。博士のネーミングセンス、これがわからない。


閑話休題、オルターならばバーナテヴィルを追うという判断をするだろう。次に目撃情報があるのは雪山、『シタイ山脈』の中腹らへん。今回は天然の冷却機能が吹き荒れているから俺に有利だ。それと……主人公が初めて別部隊の幻想少女と相対することになっている。


あの二人は独特だからなぁ……まぁなんとかなるでしょ(適当)。


『……』

「ありがとう」


三世が持ってきたコーヒーを啜りながら、スパナを使って両足を外す。

今までこれで戦闘を賄ってきたが、流石に性能不足感が否めない。この一週間で全力で改造し、せめて『タキオン』を2回弱使えるようにしなければ。


「あぁ……『クレシューズ』が恋しい」


オルターが技術の髄を使い潰して制作してくれた、唯一無二の伝説級オブジェクト。当時からも、『なんで今の技術でここまで強いのができたのかわからないんだけど! なんか自分に負けた気がする!!』ってぼやいてたなぁ。


「……」


煙草に火を付け、紫煙を燻らせる。


吸い始めたあの日に比べて、随分と指先が冷たくなったと感じるのは気のせいだろうか。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る