海中の試練

 頭上のサメは僕たちの存在には気づいていないらしい。近くの魚に噛み付くと、辺り一面に鮮血が広がる。狭まった視界をなんとかしようと手で散らそうとした時、ゴツンと音を立てて派手にコンクリートにぶつける。



 音でこちらに気づいたらしい巨大なサメが鋭く血で染まった歯を剥き出しにして襲いくる! ニコラがチューブを手繰り寄せてなんとか危機を脱出した。



「パーツは手に入ったから、早く上に戻ろう!」



「かしこまりました」



 ニコラが海上目指して進もうとするが、何かがおかしい。よくチューブを見ると、ビルの窓のフレームに引っかかっている! これでは、僕たちはサメの餌となってしまう。このチューブはダイヤモンド並みで簡単には切れない。パワードスーツから切り離すことはできるけど、ニコラのサポートなしでは浮上できない。



「ニコラ、ドローンだ! ドローンで誘導するんだ! 僕が隙を見てサメの目にこいつを突き刺す!」



 僕は手元に腐食した鉄筋を持ちつつ指示する。「かしこまりました」とニコラは言うと、腕からドローンを射出する。サメは頭周りを飛びまわるドローンが邪魔なのか、噛み砕こうと大きく口を開けるが、空振りに終わる。徐々にこちらに近づいてくるサメの目に標準を合わせると一気に鉄筋を突き刺す。



「今のうちに浮上だ!」



 ニコラが窓枠に絡まったチューブを解くと僕たちは一気に上へ上へと泳いでいく。



〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



「危機一髪だったね」



「ええ」とニコラ。



「お二人とも無事で何よりです。帰りがあまりにも遅いので、心配していました。それで、成果は?」



「多分、宇宙船を直せるんじゃないかな。ローラン、赤道に向けて船を進めてくれ。赤道に着いたら、修理して宇宙へ戻ろう」



「了解です。ああ、そうでした。お二人が海中へ行っている間に、簡単な衛星を飛ばしました。取得した映像がこちらになります」



 スクリーンに映されたのは墜落した飛行機に座礁した船。そうか、飛行機は急に着陸地点を失って、着陸に失敗したに違いない。船は座礁が致命的でなくても、非常食が尽きて餓死したに違いない。どちらにせよ、生存者は期待できない。



「ありがとう、もう消してくれ」



 この広大な土地でたった一人である事実を改めて突きつけられた。



「赤道に着いたら起こしてよ。一眠りするから」



〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



「レオン、起きてください」



「赤道に着いたのかい?」



「それが……北極に着きまして」



「北極!? ローラン、真逆じゃないか……。今度はコンパスが狂ったんじゃないかな」



「それが……コンパスは正常です。つまり、今まで我々は気づかなかったわけです。



「それって……いわゆるポールシフトってやつか。もし、北極と南極が一気に変わったら、水陸逆転も納得がいく」



 でも、疑問は残る。なぜ、ポールシフトが起きたのか。マントルの急激な移動の痕跡はない。



「レオン、不思議な信号をキャッチしました。地球人のものではありませんが、一定の規則性があります。知的生命体によるものと推測されます」



 次の瞬間、隕石が落ちて来るのが見えた。



「発信源はあれです」



「よし、分かった。進路をあれの落下地点に向けてくれ。その知的生命体とご対面といこうか」

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