第23話転がる話
初めて見る光景に僕は少しの動揺のような感情を抱いていた。
何が起きていたかと言えば…
聖香と三枝リリが揃って会話をしているからだった。
しかも…聖香は本日…あろうことかすっぴんだったのだ。
今までの学生生活で一度も見たことがない光景が繰り広げられている。
聖香がすっぴんで登校して来たことも…
そんな彼女と三枝リリが直接顔を合わせて会話をしているのもだ。
これから何事か起きてしまう。
そんな気がして仕方がなかったのだ。
触らぬように彼女らを素通りすると僕は教室に入っていく。
自らの椅子に腰掛けると鏡来栖が僕の下へとやって来る。
「なぁ。三枝が話しているのって…」
「あぁ。あの鬼ギャルだよ…」
「なんで動揺していないんだよ…鬼ギャルがあんなに清楚美人だったなんて…
お前…知っていたのか…?」
「あぁ。バイト先ではいつもあの姿なんだ…」
「マジか…あの美人と今まで一緒に居て…良く惚れなかったな…」
「いやぁ…」
「なんだ?やっぱり惚れているとか…?」
来栖の質問に僕は苦笑とともにどうしようもなく首を傾げて見せる。
僕の反応に来栖は少しだけ驚いた表情を浮かべた後に何とも言えない表情へと変化させていく。
「今までそういう素振りを見せなかったのは…
それに三枝の気持ちは…
だから全くあいつの好意を気にもしなかったんだな…」
来栖は少しだけ残念そうな表情を浮かべた後に三枝リリの姿を見つめていたようだった。
「そんなことは…」
「いや…良いんだ。恋愛だし…お前の自由だからな。今の発言は気にするな」
「そうか…」
少しだけ気まずい雰囲気の僕らだったが…
三枝リリが教室に戻ってきて会話は中断された。
「おはよう。聖香さんって本当は名前通りの美人さんなんだね!
光も知っていたなら教えてよ!
私も負けないように自分磨き頑張らないと…!」
三枝リリは満面の笑みを浮かべると僕らの輪に入り椅子に腰掛けた。
「鬼ギャルと…先輩と何の話をしていたんだ?」
来栖が先んじて口を開いて三枝リリの続く言葉を待っていた。
「えっとね…
どっちが先に光を落とせるか…
恨みっこなし正々堂々の勝負をしようって話をしてきたの…
だから光…これから覚悟していてね?」
三枝リリの唐突なカミングアウトに僕も来栖も完全に不意を打たれて面食らっていた。
何も言葉が出てこずにただ驚くことしか出来ない僕とは正反対に…
来栖はいきなり大きな声で笑い出すと僕の肩を叩いた。
「良いじゃんか!すげぇ良い展開!
どっちと付き合うかわからないが…頑張れよ!
いやぁー俺としては何か救われた気分だわー」
来栖は急に笑顔になると三枝リリと僕の顔を交互に見渡していた。
僕はこれから起きるであろう急展開に目が眩みそうだった。
来栖は何処か嬉しそうに自席へと戻っていく。
三枝リリは未来の自分の姿を夢想して思いを馳せているようだった。
聖香の表情を見たわけでは無いのだが…
きっと彼女も勝負に向けて全力で挑むのだろう。
そんなことが理解できてしまった朝の出来事なのであった。
ここから僕を巡って二人の女子が奮闘する物語が幕を開けようとしていたのである。
しかしながら…
この物語にも終幕が訪れようとしていたことをまだ誰も知らなかった…。
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