第十一場。

  飛行船発着場。

  カウアドリが駆け込んでくる。


カウアドリ:ここまで、来れば大丈夫ですね。やぁ驚いた。


  クランク続いて現れる。


クランク:待て、カウアドリ、お前どうしたんだ。

カウアドリ:どうもこうもありません! あの船の亡霊が出やがったんです。

クランク:亡霊? ……それは、ナルフェール号のか。

カウアドリ:ナルフェール? ああ。そんな名前でしたね。全く災難ですよ。何故、俺のところに……。

クランク:カウアドリ。

カウアドリ:何ですかね?

クランク:お前、あの事故について何か知っているのか?

カウアドリ:事故? 何のことですか。

クランク:答えろ。知っているのか。


  クランク、カウアドリの襟を掴む。


カウアドリ:おいおい、どいつもこいつも何ですか、襟が伸びるじゃないですか! やめろよぉ!

クランク:お前、あの事故に何か関係しているのか!

カウアドリ:そう熱くならないで下さいよ。……ああそうですか、お前、この時期に組織に入ってきたからおかしいなと思ったんですよ。何か訳ありですね。差し詰め、あの船の関係者ですか。と言うことは、関わった俺を消そうって腹ですか。っは! そんなものに屈するこのカウアドリではありませんねぇ!

クランク:お前、何を知ってる?

カウアドリ:クランクさん、聞きたいことがあるんなら、


  カウアドリ、クランクの腕を払い距離を取る。


カウアドリ:……拳で語りませんか?

クランク:ああ、そうだな。


  クランク、懐から銃を抜く。


カウアドリ:……ちょっと、タンマ。拳って言いましたよね。狡くないですか。

クランク:黙れ。お前は質問にだけ答えろ。船を沈めたのはお前か?

カウアドリ:沈める? 何言ってるんですか、あれは事故なんでしょう?

クランク:いいや違う。あれは、仕組まれたものだ。お前らの組織がこの件に関わっていることは調べがついている。そしてあの夜、お前はあそこに居たんじゃ無いのか!

カウアドリ:いや、確かに居ましたがね、俺はただ命令されて少女を一人掻っ攫ってきただけです。船をどうこうするなんて。

クランク:少女?

カウアドリ:さっき俺が見た亡霊ですよ。ある屋敷から攫ってきて、あの船に積み込んだ。でもおかしいですねぇ。よくよく考えてみたら、俺が攫ってきたのは人間じゃなくて機械人形なんですよ。それもよく出来た、殆ど人間みたいなやつ。あれですかね、魂込めて作られた彫刻には命が宿るみたいな。神秘ですねぇ。いや、俺に言わせれば薄気味悪いだけですけどねぇ。

クランク:飛行船に積み込まれたのは、機械人形。やはりそうか。それで、その機械人形は今どこに?

カウアドリ:そんなの知りませんよ。あの飛行船と一緒に消えたとばかり思っていましたがね、誰かが持ち出したんじゃ無いんですか。

クランク:お前、本当に何も知らないんだな?

カウアドリ:何度言えば分かるんですかね、知りませんよ。なぁクランクさんよ。俺に銃を向けたってことは、組織に背くってことですが良いんですかね。

クランク:俺の心配か? 余裕だな。

カウアドリ:いえいえそんな。……ただ、その様子だと先は長くないですよ。

クランク:何が言いたい?

カウアドリ:簡単なことです。先輩を、あまり舐めない方が良いってことですよ!


  カウアドリ、クランクに足技。銃を取り落とす。


カウアドリ:おやぁ、油断しすぎですね。やっぱり俺って格下に見えますか? でもね、俺がこの稼業をやってどれくらいになると思ってるんです? もう忘れましたよ。ははは。

クランク:くそ……!

カウアドリ:さぁ、形勢逆転ってやつですよ。まずは、そうですね、あなたの目的でも聞きましょうか。何が目的ですか?

クランク:……仇討ちだ。

カウアドリ:ほう、仇討ち? 誰の?

クランク:恋人だ!

カウアドリ:それは、本当ですか?

クランク:あの日俺の恋人、リリーは、あの船に船員として乗っていたんだ! そして、あの爆発に巻き込まれて、死んだ!

カウアドリ:……そうでしたか。

クランク:彼女は、あの船を希望の船だと言っていた。殺されたんだ! 知ってるか? あの船は、この国と他国とを結ぶ船になるはずだった。彼女はそれを心から喜んでいたよ。この閉塞した国も、羽ばたく日が来たんだって。でも彼女の思いは裏切られた! 分かるか? 希望の船を落とすということがどういうことなのか。俺は誓ったよ、そんなふざけたことを企てた奴に必ず復讐してやるってな! 

カウアドリ:そうですか。そういう事情でしたか。


  カウアドリ、銃をクランクに返す。


カウアドリ:だったら、俺はあんたに協力しますよ。その仇討ち、手伝わせてもらいますねぇ!

クランク:ありがとう、お前、以外に良いやつなんだな。

カウアドリ:褒めても何も出ませんよ。

クランク:……そのようだな。


  クランク、カウアドリを撃つ。


クランク:やれやれ。碌な情報も持ってない。所詮下っ端か。

カウアドリ:何、を……?

クランク:ゴミ掃除だよ。良い奴だろうがゴミはゴミ。何も知らないんなら用済みだ。ああ、形勢逆転、だな。

カウアドリ:お前、さっきの話は……。

クランク:あれか。嘘だよ。

カウアドリ:嘘?

クランク:作り話だよ。この組織があの件に関係してるらしいから調べてたんだが、どうもハズレらしい。

カウアドリ:お前の目的は、何なんですか。

クランク:言うと思うか?

カウアドリ:冥土の土産に。

クランク:残念だが、俺はあんたみたいに甘くないぜ。でもそうだな、この世に居ない恋人の為に泣いてくれたあんたに免じて少しだけ教えてやるよ。仇討ちってのは本当だ。


  クランク、カウアドリに銃を向ける。


カウアドリ:はは、悪くない最期ですねぇ。

クランク:じゃあな、先輩。

マーチ:(の声)そこまでだ!

クランク:誰だ!


  マーチ、現れる。


マーチ:俺の美声を知らないとは、さてはお前潜りだな?

クランク:何だお前、こいつの仲間か?

マーチ:いいや。通りすがりの正義の味方さ。

クランク:何のつもりか知らないが、邪魔をするならあいつみたいになるぞ。

マーチ:おやおや、そいつは怖ぇ。

クランク:分かったら大人しく消えな。

マーチ:でも、良いのかい?

クランク:は?

マーチ:あんたのその銃、軍の奴だろ? ということは、あんたの素性は自ずと……。

クランク:察しの良いゴミは死ね!


  クランク、マーチを撃つ。

  避けるマーチ。


クランク:避けただと……!

マーチ:おいおい最近の軍人さんってのはなっちゃいねぇな。それともあんた、そっちでも潜りかい?

クランク:黙れ、薄汚いゴミが!


  マーチ、クランクの懐に潜り込み、銃を奪う。


クランク:何!

マーチ:さっきも銃落としてたし、あんた、訓練が足りないんじゃねぇの?

クランク:くそ!

マーチ:……ヴィオラ!

ヴィオラ:あいよ。


  ヴィオラ、カウアドリに駆け寄る。


マーチ:形勢逆転の逆転の逆転ってやつ?

カウアドリ:あなた、見てたんですか。

マーチ:悪いな。俺にはあんたがどっちか分からなかったんでな。

カウアドリ:良いですよ、助けてもらって文句はありません。それより、


  クランク、逃げようとする。

  マーチ、威嚇射撃。


マーチ:動くな。自慢だがよ、俺は賭け事と射撃が下手だ。どこにどんな風に当たるかは神様だって分からないぜ。

ヴィオラ:殺しちゃ駄目よ。こいつ色々知ってそうだから。

マーチ:分かってるよ。

クランク:っち……!

マーチ:さて、まずは何を吐いてもらおうか……。

ヴィオラ:あなた、誰の命令で動いているの?

マーチ:お前が訊くの? まぁいいや、……おいあんた誰の命令で動いてる。

クランク:さぁな。

ヴィオラ:良いから答えて。……マーチ、ほら早く!

マーチ:なんか俺復唱させられてばっかりだな。……良いから答えろ!

クランク:嫌だと言ったら?

ヴィオラ:撃つわ。

マーチ:撃つわ……撃つぞ!

クランク:撃てよ、好きにしろ。

ヴィオラ:あっそ、じゃあ撃って、マーチ。

マーチ:あっそ、じゃあ撃って、マー……え、マジ?

ヴィオラ:だってこいつ吐く気なさそうだから時間の無駄ね。さっさと始末なさい。

マーチ:いや、でもさ。

ヴィオラ:何? 人殺しは嫌?

マーチ:嫌だけどさ、良いのか、本当に情報聞き出さなくて。

ヴィオラ:その銃見てて分かったわ。それ、特殊部隊のやつね。

クランク:何故それを!

ヴィオラ:……さてね。あんたが口を割るんなら教えてあげても良いけど? どう? 良い取引でしょ?

クランク:ふざけるな!

ヴィオラ:大真面目よ。これは結構なお金になりそうな話だもの。

クランク:金だと? お前、そんな物のために俺の邪魔をするのか!

ヴィオラ:そんな物って、この世の全てでしょうよ。あなたが何のために生きてるかは知らないけど、どうせ名誉とか、権力とか正義の為でしょ、下らないわ。

マーチ:俺さっき正義の味方って名乗ったんだけど。

ヴィオラ:私は愛の為よ。

クランク:愛?

カウアドリ:愛?

マーチ:愛?

ヴィオラ:人は愛の為に生きることこそ尊いのよ。もっとも、私の恋愛対象はお金だけど。

クランク:はは、はははは、愛か。

マーチ:どした?

クランク:だったら、俺は何も間違っちゃいない。何故なら俺を支えるのも、愛だからな!


  クランク、走り出す。


ヴィオラ:撃って!

マーチ:おう!


  マーチ、クランクを撃つ。

  クランクと擦れ違うようにスレング現れる。


スレング:何の騒ぎだ! ……って、うおおお!

マーチ:だ、旦那!


  発砲音。

  クランク、逃げ去る。


ヴィオラ:逃がしたか。

スレング:お、お前ら! あ、危ないじゃないか!

マーチ:ほんと、旦那は間の悪い男だよ。

スレング:こんなところで何してる! と言うか、その物騒な物なんだ!

マーチ:これは話せば長くなるんだけどよ、それよりも、旦那、腕の良い医者知らねぇか?

スレング:医者? ……おい、どうしたカウアドリ!

カウアドリ:へへ旦那、今日はよく会うな。

マーチ:ひとまず、俺の事務所へ運ぼう。この近くだ。


  暗転。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る