第5話 初戦闘

 くぅーと割れた腹筋から音が鳴った。

 朝は、パンと塩スープとドライフルーツだけ。

 女子高生の時はこれで足りていたが、この体では物足りない量なのだろう。

 少し早いが、昼食にするか。


 屋台は暇そうだ。

 お客は一切おらず、店主は料理の仕込みをしていたり、椅子で昼寝をしている。店自体、閉めている所もある。

 ソーセージや串肉屋は止めておこう。何の肉か分からないので危険すぎる。

 串焼きにした小魚や沢蟹みたいなのもある。西地区や東地区にある川で採れるのだろうか? 要チェックだ。

 ジャガイモや人参、白いかぼちゃの串焼きも売っていた。蒸かしたジャガイモは無さそうだ。じゃがバタ食べたい。

 開いている店を覗いていくと分かった事がある。

 ここの料理は、焼くか煮るかが主流。野菜を含め生食はしない。麺料理はない。お菓子類は皆無だ。


 窯屋を見ると、ピザのようにフリスビー型にしたパンの上にチーズを振りかけたものが売っていた。

 出来上がりを想像したら、お腹の虫がまた鳴った。


「お兄さん、そのチーズは何で出来てるの」


 注文する前に大事な事を確認する。


「牛の乳だ。魔物の乳なんか使ってないから安心してくれ」


 魔獣を食すのは貧民地区だけみたい。

 私は安心して注文をする。


「あいよ。今から焼き上げるから少し待っててくれ」


 隣の店が飲み物を売っていたので、レモネードみたいな物を買ってからお店の前に設置してある机と椅子に腰かけた。

 レモネードっぽいから甘いと思い飲んでみたら、凄く酸っぱかった。何の果実なんだろう?


「ほい、お待ちどうさん」


 お兄さんがわざわざ持ってきてくれた。木皿に乗せたパンは、チーズがこんがりと焼きあがっている。

 熱々のパンを力任せに千切ると、チーズが一緒に伸びて糸を引く。

 相変わらずパンは硬いが、チーズは乳の風味があり、コクと酸っぱさが合わさって、凄く美味しい。麦の香りがしないサッパリ風味のパンと塩味の強いチーズは相性がいい。

 それを流し込むレモネードぽいジュースもいい感じだ。

 ただ、これはチーズと一緒に焼いただけのパンで、それ以上でもそれ以下でもなかった。見た目ピザっぽかったから少し残念。

 とはいえ、美味しくてパクパクっと食べてしまった。

 もう一枚頼もうかと考えていると、「君たち、魔術道具のおもちゃはいらないかい?」と弱々しい声が聞こえた。


 魔術道具!?


 気になる単語に反応して顔を向けると、二つ隣の露店で、子供たち相手に商売をしている若い男性が見えた。


「こんなのいらない」


 子供たちが立ち去るのを見ながら私はその露店へ近づいた。


「少し見ても」


 肩を落とす男性に声を掛けると、男性は顔を上げて笑顔で「どうぞどうぞ」と答える。

 男性店員は私と同じ年ぐらい(女子高生時代)。目の下にクマが出来ていて、不健康そうだ。


「これなんてどうですか?」


 雑多と並べてある魔術具から細長い円柱型の木を取る。

 先端に赤色の石が嵌め込まれており、胴体の中央に透明な石が埋め込まれていた。


「この中央の石から魔力を流すと……」


 男性店員はペンライトのように握り、親指で中央の魔石を触ると……。


「おお、ライターだ」


 先端の赤い石から炎が飛び出し、燃え続けている。


「らいたぁ? というのは分かりませんが、魔石に魔力を流し込むと炎が出ます。これで、火打ち石や種火の必要はありません。とても便利です」


「私もやっていい?」と尋ねる、「もちろん」と気兼ねなく渡してくれた。

 男性店員のように魔術具を握り、中央の魔石を触る……が、何も起きない。そもそも魔力を流し込むってどうやるの?

「ふーん、ふーん!」と力んでも何も起きない。


「魔力は体全体に流れています」


 私が魔力の操作が出来ない事に気が付いた男性店員は、親切に説明してくれる。


「例えば、体中に血液が流れていますよね。指先をナイフでスパッと切ると血が出ます。体中の血液を切った指先に集中させて、ピューピューと血液を押し出す感じです」

「血液はそんな風に操作できませんよ」

「例えばの話です。血液を魔力に置き換えてやってみてください」


 分かったような、分からないような説明を聞いて、何となくイメージする。

 血液では気持ち悪いので、水に置き換える。体を貯水タンク、指先をホースの先端。ホースの先端から水が飛び出すイメージ……イメージ……。

 親指に水(魔力)を出す感じで、中央の魔石に触れると先端の赤い魔石から炎の柱が飛び出した。


「うおっ!?」


 一メートルほどの火柱が上がるとすぐに消えてしまった。プスプスと煙を上げている赤い魔石を見ると、ひび割れて壊れていた。

 これ、私が壊したのかな? それとも欠陥品?


「あちゃー、壊れてしまいましたね。まだ試作中の物で、今度改造しておきます」


 えーと……欠陥品扱いになりました。


「次に紹介するのはこれ!」


 六面体の四角い箱。

 一面ずつ銀色の塗料で魔法陣らしきものが描かれている。


「ルマルシャンの箱!? これでサドマゾ好きの魔導士を呼び出すんですね」


 似たような箱を思い出して、嬉しくなる。


「何を言っているのか分かりませんが、呼び出す事に関しては近いです。魔導士は出ませんけど……」


 そう言ってから、男性店員が箱に魔力を流すと、銀色の魔法陣が光り出す。そして、箱の上にもやまとわりだした。

「さーて、何が現れるかな?」と呟くと、靄が一か所へ集まり、動物の形へと変化して、角の生えた兎になった。


「ホーンラビットでした。正解した人はいるかな?」

「えーと……何これ?」

「これは魔石と魔法陣を組み合わせた玩具箱です。魔法陣に魔物の特徴を、箱の中に幻影魔術に特化した魔石が入っています。箱は六面ありますので、六匹の魔物が無作為に浮かび上がります。何の魔物が現れるか当てる玩具です。ちなみに魔物はホブ・ゴブリン、大口スラ……」

「もういいです」


 ルマルシャンの箱じゃなかったので、テンションだだ下がりだ。


「ん? これは大砲? 弾が出たりするの?」


 鉄の筒に車輪が付いた手の平サイズの大砲があった。

 小さくて可愛い。


「さすがお目が高い。これは弾の代わりに空気が出ます」


 手の平サイズの大砲を掲げ、お尻についている紐を引っ張る。ポワンと空気の塊が私の顔にぶつかる。

 これは空気砲だ。


「魔力量によっては、もっと強めの空気を出すこともできます。結構痛いですよ。さらにこうすると……」


 男性店員は、別の魔石を側面に取り付けると、筒を上空に向けて紐を引っ張る。すると、筒先から煙の輪が上空へと上っていった。


「水の魔石で煙を作らせて……」


 男性店員の言葉が途切れると、「気を付けてください」と小声で囁いた。

「何を?」と言う前に近くから酸っぱい匂いが鼻を突く。


「おっさん、これから冒険者に成りたいんだろ」


 横から声を掛けられた。

 匂いに顔をしかめながら相手を見ると、目がギョロリとして、やせ細った男がいた。

 どこかで見た記憶がある。


「怪しい者じゃないぜ。俺は鋼鉄等級冒険者だ」


 この人、体臭と口臭が酷い。どのくらいお風呂に入っていないんだ?

 鼻呼吸から口呼吸へ切り替えた私は、ここで相手の事を思い出した。

 この人、冒険者ギルドの待合室の長椅子に座っていた二人組の片割れだ。


「冒険者について、実際の冒険者の俺が教えてやるよ。聞きたいだろ?」


 冒険者視点の話、ぜひ聞きたい……が、この男の目つきが嫌で、不信感が拭えない。

 人を見た目で判断してはいけないと言うが、この男は駄目だ、と私の第六感がビンビンと警笛を鳴らしている。

 そういえば、この男は二人組だった筈。

 もう一人は? と何気なく意識を後ろに向くと、私のお尻に知らない手が伸びていた。


「ひっ、痴漢!?」


 私はお尻に伸びた手から距離を置く。


「ち、痴漢じゃねーよ! 誰が好き好んでおっさんのケツを触るか!」


 私のお尻を触ろうとした男が怒鳴りつけてくる。

 片割れのもう一人だ。

 この男もやせ細り、顔色が悪く、非常に臭い。

 そんな男の右手にはナイフを、左手には見慣れた革袋が握られていた。


「馬鹿、気付かれてんじゃねーよ! さっさとずらかるぞ!」


 最初に声をかけてきた男が、きびすを返して走り去る。

 痴漢の男も後を追うように駆け出した。


「あいつら窃盗だよ。あんたのお金を盗っていったよ。追いかけた方がいいと思うよ」


 何が起きているのか判断できず、茫然としていた私に店員の男性が教えてくれた。

 言われてみれば、腰が軽い。

 腰に下げていた革袋を見れば、紐が切られ、革袋自体無くなっていた。


「ああー、私のお金!?」


 ようやく気が付いた。

 これから日用品を買ったり、宿に泊まったり、冒険者に成ったりとお金がかかる。

 そのお金が無くなったら、日本ですら働いた事のない私が、異世界でどうやって生きていけばいいの!?

 走り去った男たちを見ると、結構距離を離されている。

 これから走れば追いかけられるか? それとも声を張り上げて、他人に取り押さえてもらうか?

 あわあわと判断できず視線を彷徨っていると、ある物が目についた。


「これとこれ、借りるね」


 手を伸ばしたのはミニチュアサイズの大砲。そして、店員の前に置いてあった黄色のリンゴ。


「ちょっと、そのリンゴ、後で食べるのに!?」


 店員の男性が叫んでるが、緊急事態なので無視をする。

 このまま大砲を撃っても空気が出るだけだ。

 それなら本物の大砲みたいに物を詰めて、空気で押し出してぶつければ、走り去る男を一瞬でも止められると思った。

 大砲の筒先に黄色のリンゴをグイグイと詰める。

 道具に流す魔力量で威力が上がると言っていたので、先ほど習ったイメージで大砲に魔力をガンガンに流し込んでいく。

 手前を走る男の背中に向けて大砲を構える。そして、「喰らえ!」とお尻の紐を引いた。


 「うわっ!?」


 大砲が爆発する。

 その勢いで私の体は後ろへ吹き飛び、地面に倒れ、ゴロゴロと転がった。


「いてて……」


 擦り傷だらけの体に眉を寄せながら状況を確認する。

 手には紐が握られているだけで、大砲の本体はバラバラに壊れてしまった。

 窃盗をした二人の男は、重なるように地面に倒れている。勢い良く飛んだ黄色いリンゴは、見事、手前の男の背中にクリーンヒットして、ぶつかった勢いで前を走っていた男と露店を巻き込んで倒れたのだろう。

 玩具の大砲で上手くいくとは思わなかったが、無事に飛び出し、盗人に当たって安堵する。

 まぁ、関係ない露店も巻き添えにしてしまっているけど……後で謝ればいいよね。


「僕の魔道具が……」


 店員の男性が嘆き悲しんでいるのを無視して、私は男たちの元へ駆け寄る。


 巻き添えを食らった露店はパン屋だったようで、色々な形のパンが散乱していた。

 そんな散らばったパンの横で、盗人の一人が白目になって気絶していた。

 男の手に革袋が握っていたので奪い取る。

 お金の入った革袋をポケットに入れて、もう一人の男を見ると既に立ち上がっていた。


「おっさん! やってくれたな!」


 拳を握り締めて襲い掛かってきた。

 急いで後ろに下がって距離を空ける。

 男がパンチやキックを連続で仕掛けてくるが、一定の距離を開けているので避けるのは容易だ。


「てめー、避けてばかりいやがって卑怯だぞ。正々堂々と戦え!」


 窃盗犯に正々堂々と戦えと言われても……。

 それに私は喧嘩なんか人生で一度もした事がない。正直、どうしていいか分からず、混乱中であった。


 男が大きく踏み込んで殴りかかる。だが、転がっていたパンを踏みつけてバランスを崩した。


 チャンス!

 人生初のナックルパーンチッ!


 男の顔に綺麗に入った。

 始めて人の顔を殴った気分は、拳も心も痛かった。

 顔を殴られた男は、何事もなく、立ち上がる。


 ええー!? 結構、良いのが入ったつもりなのに……。


 なぜか、殴られた本人もビックリして、頬を触り、首を傾げている。


「子供のような拳だな。その筋肉は見掛け倒しか」


 やっぱり。

 私も薄々気付いていました。


「それに体力もない。口で呼吸して、肩が上がってるぜ。そんなんで冒険者希望か?」


 体力もないのは知っているが、ここでわざわざ教えてやるほど親切ではない。


「私の居る所は風下です」

「はぁ? 風下? 風が関係してるのか?」

「あなたが話す度に体臭と口臭が私に襲い掛かってきてるのです。鼻で呼吸したら、意識が飛んでしまいます。なんて恐ろしい攻撃。さすが冒険者ですね」

「なっ、そんな訳あるか!?」


 男がショックのあまりよろめく。

 自覚がなかったみたいだ。


「人の事、言えるか! おっさんだって、相当臭いぞ」


 嘘!? 

 野次馬に集まってきた人たちに視線を向けると、皆、私から視線を逸らした。

 一日お風呂に入っていなかっただけなのに……。


「もう、許さねぇー! 完全に頭にきた!」


 そう言って、男はズボンのポケットからナイフを取り出して構えた。

 そして、中腰になって右手から左手へ、左手から右手へポンポンと投げている。


「ちょっと、刃物なんて卑怯じゃない!? 正々堂々戦えって言っといて……この卑怯者ッ!」

「知るかッ!」


 お腹目掛けて突いてくる。

 へっぴり腰だったので、少し体を反らしたら上手く躱せた。

 同じようにお腹にナイフを連続で突いてくるが、同じように避ける。

 お腹目掛けて空を切ったナイフを元に戻した男は、一歩踏み込んで、顔へと横に一閃した。

 お腹ばかり狙っていたから、急に頭部を狙われて反応が遅れる。

 反射的に手が出て、顔を防ぐ。


「痛ッ!?」


 手の平に激痛が走る。

 深くはないが、傷口の範囲は広い。

 血が滴り落ちて、火傷したようにジンジンと痛みが続く。

 顔から汗が流れる。

 相手は腐っても冒険者。それに対して私は喧嘩すらした事のない一般人。

 ナイフを持った冒険者と素手の素人では結果は見えている。

 お金の入った皮袋も取り戻したし、相手をせずに逃げた方が良さそうだ。と考えていると……。


「これを使いな」


 野次馬の中からエプロンを付けたお兄さんが現れ、長い棒を投げて寄越した。

 腕を伸ばして、その棒を受け取る。

 長さ一メートル。

 硬くて丈夫な棒。

 某ゲームの初期装備『ヒノキの棒』に似ているが、よくよく見ると木の棒ではなかった。


「これ、フランスパンなんだけど!?」


 一メートルほどの硬くて丈夫なフランスパンでした。


「ふらんすってのは分からないが、カビすら生えない立派なパンだ」


 わっはっはっとパンをくれたお兄さんが笑う。

 私、遊ばれてない?

 無いよりはましと思い込み、フランスパンを正面に構える。


「馬鹿にしやがって!」


 男は青筋を立てて、余計に怒り出す。

 無理もない。逆の立場なら私も怒る所だ。


 手が痛くて、血がヌルヌルで意識が逸れていく。

 集中していない私に気が付いた男は、一気に懐に飛び込み、お腹に二突き、顔に一閃する。

 お腹はへっぴり腰のため届かず、顔の一閃はフランスパンにぶつかり、たまたま防いだ。

 フランスパンで防いだ事に驚いた男は一瞬動きが止まる。

 それを見た私は、急いでフランスパンを男に向けて振り下ろすが、男もすぐに立て直し難なく躱す。


 死ぬかもしれない。

 そんな言葉が脳裏に現れ、汗が止めどなく流れる。

 呼吸は荒れ、足が震える。負ければ死ぬ。死ななくても大怪我はする。

 どっちみち嫌だ。

 勝たなければ。


「うわわぁぁーーっ!」


 恐怖を振り払うように大声を出して、男に向かった。

 上段に構えたフランスパンを男に向けて袈裟斬りするが、大振りの攻撃は簡単に躱され、カウンターのナイフが目の前に迫る。

「ああ、死ぬ」と心の中で死を悟ってしまった私は、足に力が無くなり横へと崩れた。

 それが功を奏して、目の前に迫っていたナイフが頭上を通り過ぎる。

 どっと冷や汗が噴き出し、体中を湿らせた。


「ちっ」と舌打ちした男はナイフを下向きに持ち替る。

 尻もちをついた私に一歩一歩近づいてくる。


「来るな! 止めろ! 死にたくない!」


 恥も外見も気にせず、座ったままフランスパンを振り回す。

 男はギョロリとした目で私を見下ろす。

 その瞳には何も映っていない。

 怒りも喜びも悲しみも何の感情もない。

 ただ、目の前にある生物を殺す。魔物の討伐を生業とする冒険者とは、こういう職業なのだろう。

 私は名前も知らない窃盗犯に、魔物のように殺されるのだ。



 酷い人生だった。

 勝手に異世界に召喚され、ハゲのおっさんに姿を変えられ、不味いご飯を食べて、硬いベッドで眠って、男に金を盗まれ、そして殺される。

 悪い夢だ。

 夢なら早く覚めてくれ!


 フランスパンを振り回す気力もなく、目の前の男を見つめる。

 男はゆっくりと腕を上げると、一直線に振り落とした。



―――― 腕を上げて ――――



 頭の中で声がした。

 急いで腕を上げる。

 鈍い衝撃が腕を伝う。

 男は驚愕に目を見開いている。

 ナイフは私の禿げた頭ではなく、フランスパンに刺さっていた。

 男は急いでナイフを引き抜こうと力を入れるが、フランスパンに深く刺さっていて抜けない。

 男から離れる為、私は男の腹目掛けて蹴りを入れるが、少し狙いがずれて、下の方へいってしまった。

「うぐぅっ……」と男が呻き、股間を抑えてうずくまる。

「ごめん、わざとじゃないからね」と心の中で謝りながら立ち上がる。

 

 形勢逆転。

 この機会を逃せば後はない。

 私は男に近づき、野球のバッターのようにフランスパンを構える。


「くそがぁ!」

 

 涙目で私を睨む男。

 タールマンの頭を吹き飛ばすように、男の頭目掛けて、フランスパンを叩きつけた。

 

 フランスパンの破片が飛び散る中、男は地面に倒れる。

 折る覚悟で振り払ったフランスパンは折れてない。

 どんだけ硬いの!?


 男は呻き声をあげて地面に倒れている。

 このまま立ち上がって、第二戦が始まっても困る。

 そこで私は、露店の前に置いてある長椅子を運び、上向きに倒れている男の元へ行く。

 椅子の脚を固定している補助板の窪みを男の首元に合わせ、反対の脚で両腕も合わせた。

 そして、体重をかけて椅子の上に座る。

 男は長椅子の脚に挟まれ身動き出来ない。

 男が動かない事を確認してから私はゆっくりと足を組み、フランスパンの先端を優雅に一かじりした。


 これにて一件落着。


 決まったね。

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