第43話 告白バーベキュー

「私は、言いたいと思う」


 僕らの視線がアウィーロに向く。掠れた声の裏にある本当の彼の声は繊細で少し高い。


「リーフという女生徒が言っていた噂を覚えているだろうか」

「ギドルヴァーグから引き戻された生徒の話?」


「ああ。……あれは私の話なのだ」


「えっ」

「私は一度この学園を卒業し、スィッフハンターとしてギドルヴァーグへ探索に出ていた。しかし任務中に魔物の大群と遭遇し、チームメイトで友人だった仲間が動けなくなった。私も助けを呼ぼうと足掻いたが、結局魔物に捕まってしまった。危険信号発進の装置と声を奪われ、他のチームの助けが来るまで何もできなかった。結局単独行動と危険信号を出さなかった責任を問われて、スィッフハンターの資格を失うこととなった」


 淡々と記事か何かを読むようにアウィーロは続ける。

「私たちは元々全員女性で構成されていたチームで、女性だけのチームは耐久性に欠けると、スィッフユニオンからも男女混合にする内容の通知を受けていた。もうすぐ別れが来るとわかっていたのに、それまで持たずにこうなってしまった」



「え、じょ……!?」



 そこまで言って僕は口を紡ぐ。みんな驚いている。きっと勘違いしていたのは僕だけじゃない。


「アウィーロ。一応言っておくが、俺たちは皆、君が男性だと思って生活していた」

「そうなのか?」


「俺も違和感を感じたのはトーナメント戦でだった。確かめるために資料保管庫に入り、そこで君が女性だと知ったのだ」

「それなら聞けばよかっただろう」


「何を言っても良くない空気になる未来しか見えなかったんだ」


 資料保管庫に入った日にすでに知っていたなら、なんでその時に言わなかったんだと僕はユグナを責めるように見る。しかし彼はそれを無視してアウィーロから目を離さなかった。


「危険信号を知らせる機械を魔物に破壊されていたこと、そして声も失っていたことから、私の罪は軽く見られ、当初の決定よりも早く、この学園の再入学の許しが出た。今だ魔族に捕まった友人たちの消息は知れない。私は早くハンターになって助けに行きたい。卒業を急いでいるのはそのためだ」


 まだ声は掠れているが女性らしい高い声がところどころで聞こえる。これまで知らずに肩とか組んでしまっていたことを後で謝っておこう……。


「ずっと言えなくて申し訳なかった。引き戻された生徒があのように騒がれるとは知らずに、話す勇気を失ってしまったんだそれにーー」

 彼女はまた、寂しそうな顔をする。


「ここまで一緒にいてくれたメンバーに、自分の行動を軽蔑されてしまうかもしれないと怖くなったのだ」


「そんなこと思うわけないよ」

「そうだ。むしろ一度卒業の実績があるのは心強い」

「そう、か……。ありがとう。やはり話してよかった」


 彼女は優しく笑った。女性らしいハニカミ笑顔を見て、僕らは優しく彼女を囲む。なんだか改めて本当の仲間になったように思えた。


「ほら、焼けた!」


 それからはしばらく、美味しいバーベキューが続いた。そしてそれがひと段落してきたところで、解散の提案が出てきた。それを遮るようにポリトナが声を出す。


「ボクも話しておきたくなったかも。ユグナが言った通り、ボクの話は卒業の妨げになるかもしれないから」


「もちろん聞かせてよ」

「お茶を淹れました。どうぞ」


 満腹になって落ち着いた僕らをポリトナはゆっくりと見る。そして震えた声で絞り出すように言った。


「あの、ボク……」


 みんなの視線がポリトナに集まった。彼女はその瞬間ぐっと唇を噛んで辛そうな顔をする。


「ボクね、みんなとは違うんだ」

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