第36話 真相
「理由を聞いてもいいかな?」
こくりと頷いて彼女は僕らを見上げた。その目には涙が浮かんでいる。あらあらとメロネが駆け寄って彼女の隣に座った。こういう時にメロネは本当に気が利く。リーフちゃんも落ち着いてくれたようで大変ありがたかった。
「……先輩方は、新入生の噂をご存知でしょうか?」
「噂?」
僕の頭の中で一つ明確な話題が上がった。クラスメイトのキイルから聞いた話を僕は口に出していく。
「それってあれだよね。新入生にギドルヴァーグから引き戻された生徒がいるって」
「そうです……その噂を利用して、私脅されていて」
「脅されている?」
いよいよ単純な話ではなく、物騒な雰囲気になってきた。僕らは彼女の言葉を待つ。
「二年生のトーナメント戦の細工に協力しなければ、私をその引き戻された生徒だとみんなに言いふらすと言われて……それで仕方がなかったんです」
「そんな、なんて酷いこと……」
「リーフちゃんはあくまで噂の張本人にされそうになっただけで、本当に引き戻しされた生徒じゃないんだよね……?」
「はい……。違います。でも、その人に言われたらみんな信じちゃいます。きっと学園から出て行けってみんなに言われる……それが怖くて」
「君を脅しているのは一体誰なんだ? 新入生の中の出来て間もないコミュニティに、そのような影響力のある人物がいるとは思えないが」
彼女は言いづらそうに僕を見た。確かにここで実名を出すのは勇気がいるだろう。でも言ってもらわなければ対処ができない。
「大丈夫。僕たちも協力するから。言ってみて」
観念したように彼女は伏せていた目を上げる。覚悟を決めた目をしていた。
「に、二年生の……ギルン先輩です」
「はあ!? ギルンってあの!?」
僕は数時間前にトーナメント表の前で会った生徒を思い出す。ギロリと睨む視線を思い出して思わず身震いしてしまった。
彼女に接点を聞くと、移動中に急に呼び止められたらしい。
「どうして君が協力させられているか、心当たりはある?」
「私、少し練習すれば、いろいろな属性の魔法が打てるから、多分それで……」
確かに彼女は僕と話をしてから先ほどの魔法を習得したようだった。優秀な生徒なんだろう。それなのにこんな幼気な新入生を脅すなんて、許せることではない。
「これは明日、彼に勝って話を聞かなければならないな」
「そうだね……」
勝つ理由がまた増える。僕も負けていられないなと気合が入った。そうと決まればここはお開きにして帰った方がいい。
彼女は僕とポリトナで寮まで送り届けることにする。その前に、とユグナが彼女の目線に合わせて腰を落とした。
「しかしだ。君は他のチームの使用する魔法属性を全員から聞き出したのか?」
「……確かにそうだな」
僕もそれはうっすら疑問に思っていた。彼女は大会出場者に次々と怪我人を出し、チームを棄権させることに成功している。つまり襲う対象の魔法使いの弱点をついて急襲できていることになる。全チームの魔法使いに会いに行き、あなたが使う魔法の属性は何かと聞き回ったのだろうか? 予選まででチーム数が減っているとはいえ、相当骨が折れるだろう。
「いえ……。二年生のDクラスの名簿と魔法属性はすでに入手していました。しかしDクラスに所属しておらず、入学後に魔法発現された第三の選択肢の先輩方の情報はどこにもなく……直接聞くことにしたのです」
「ああ、なるほど……! 道理で」
そこまで聞いてやっと僕の中で辻褄が合った。属性を聞き出すために憧れていると言って聞き出したのか。そう言われて僕は素直に属性を教えてしまっているし。
新入生がこの僅かな期間で特定の生徒に憧れるなんておかしいと思っていたんだ。相手がたとえ”完璧超人ユグナ様”だったとしても。
「おい、今俺について失礼なことを考えただろう? 言わなくても顔を見ればわかるんだからな」
「い、いやそんな。ユグナの考えすぎでしょう」
ユグナの鋭い視線を避けて、さっき僕に攻撃する前の彼女の顔を思い出す。泣きそうで、辛そうで、本当にやりたくないといった顔だった。
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