第34話 決戦前夜の来訪者
「決勝戦は明日の昼に行われる。必ず勝とう」
控え室兼宿舎でユグナはそう告げた。その重々しい口調から、相手となるギルンはユグナにとっても強敵となるようだ。しかも彼らのチームもギルンが魔法発現しており、魔法使いを二人有している。ギルンは召喚魔法を使用するらしい。
「彼らのチームに関する奇妙な話を耳にしたことがある」
さらにアウィーロが続けた。彼の話では、バーディにギドルヴァーグから魔物を召喚した人物としてギルンの名前が上がっているらしい。召喚魔法を使える魔法使いは滅多にいないから、学園に在籍する彼が疑われていると。なんだか聞けば聞くほど怖いやつだ。ボコボコにするとか息巻いていたけれど、気分転換してくなってきた。
「ちょっと外出てくる」
「ああ。あまり遠出はするなよ。怪我人がたくさん出ているから用心しろ」
「うん、わかった」
ユグナのお母さんみたいな発言に少し笑いながら、僕は会場を出た。そのままコロシアム同士を繋ぐ通路を進み、途中の手すりに手をかけて景色を眺める。高い位置にあるので学園を含む景色がよく見えた。
ところどころに明かりが灯って夜景になっていて、景色的には最高だ。こういう時に抱き寄せられる特別な相手がいたらどんなにいいだろう。と思ったけれど、少し惨めになったのでこれ以上考えることはやめにする。でも、風が髪を撫ぜるたびに想像してしまう。僕を呼ぶ大切な人の幻を。
「あの……」
そうそう、こんなふうに声をかけられて……あれ? 今本当に声がしなかったか? 僕はばっと後ろを振り返った。
するとそこには、いつぞやのユグナファン、リーフちゃんが立っている。
「君は……どうしてここに?」
「第三の選択肢がトーナメント決勝まで行ったと聞きまして、いても立ってもいられずに……応援に来てしまいました」
「そっか。決勝戦は明日のお昼だから、よかったら見に来てよ。その方がリーフちゃんにとってもいいはずでしょ?」
この間、彼女が慌てて逃げてしまったことから、彼女はとてもシャイだと僕は思っている。きっとユグナから見られるのは耐えきれない。でも試合中なら、ユグナをどれだけ見ても視線は返ってこないから見放題だ。
「いえ……その」
彼女は何か言いずらそうにしている。体の後ろに手を回して、何度も僕の顔をちらちらと見た。
なんだ、困っている……?
「どうしたの? 何か困ったことでもある?」
そう聞いてから、僕はやっと気がついた。彼女の後ろから大きな魔力を感じる。大きな技を打つために魔力を溜め込んでいるみたいな、そんな気配だ。一応警戒しておくことにする。彼女に限って何もないとは思うけれど。
「リーフちゃん?」
リーフちゃんははっと息を吸って、涙目で俯く。え、泣いてる……? と状況を整理する前に彼女は話し始めた。
「私、やっぱりこんなことしたくありません。……でも、これが私の役目だから。許されないことはわかっています。嫌われるのは怖いけど、もう会えなくなるよりいいんです。ずっと好きだったサテ先輩には特に……」
「え、ちょっと待って、今なんてーー」
彼女の目がこちらに向いた。待て待て。”ズットスキダッタサテセンパイ”? どういうことだ。
この子が憧れているのはユグナだろう? 一体何が起きている?
「私はもう、こうするしかないんです!!!」
彼女は急に僕に向かって両手を掲げた。
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