第32話 対戦不戦対戦

「試合のタイムスケジュールが発表されたようだ。確認してくる」

 もう定番になりつつあるユグナのセリフを聞き、僕らは一人で行こうとする彼についていった。


「なんだ、一緒に来るのか」

「だってもう小道具を作る必要はないからね」

 そういえばユグナは嬉しそうにして「なら来い」とだけ言った。随分と歩いた先で僕らは試合の時間と会場を確認する。


「昼から……南側のコロシアムで」

 まるであの時を繰り返しているようだ。挽回のチャンスが巡ってきたと僕は思う。待ち侘びた時間はすぐにやってくる。



「負けないわよ♡」

「もちろん」


「それでは、試合開始!!」


 試合開始の直前にイービスから声をかけられる。僕らの雰囲気が違うことはわかっているようで、それ以上の発言は特にはなかった。魔法使いの生徒が大きく両手を広げる。

 魔法攻撃で相手を怯ませてから追撃。前回仕入れた情報と同様で、戦法は変わっていないみたいだ。真正面から仕掛ける攻撃はユグナの防御壁によって消滅する。


「なっ……!」


 生まれた時から魔法使いだった人たちにとって、つい最近魔法が使えるようになった僕らの力は赤子の手をひねるようなものだと認知されているらしい。ちゃんと魔法を使いこなしているところを見せれば彼らはすごく驚いた顔をする。

 僕らは逆にドヤ顔で返してやった。こう見えてすごく特訓したんだからな、と目線で語りかけておく。僕らをナメないでいただきたい。


「なんで俺の防御魔法を、さも自分がやりましたって顔ができるんだ」

 ユグナに呆れられたところで、僕の方も本当に魔法を見せつけることにする。披露するのは、最近ようやく使えるようになった雷の魔法だ。思えば魔法発現してからこれを使いこなせるようになるまで結構な時間がかかったように思う。


「わああああ!!!」


 たった一撃で相手の魔法使いはダウン。他の面々も順調に抑え込めている。彼らは真っ向勝負に執着して、不意をついたり、裏をかいたりしてこない。もし以前の僕らとの戦いが彼らをそうさせたのかもしれないと思うと、なんだか申し訳なくなってしまった。手を動かしていれば、いつの間にか残る相手は一人。その人は大きな弓を片手に僕らを狙っている。


「イービス……」

「負けないって言ったでしょう」


 彼はきっとすごく腕の立つ弓使いだ。アウィーロと互角かそれ以上もしれない。こんな状況になっても、弱気にならずに僕らに照準を合わせている。

 でも、仲間を失って僕らが揃っている状態で勝つのは無謀なこと。戦いはそう長くは続かなかった。正々堂々と挑んだ勝負で、僕らは今度こそ本当の勝利を収めた。



「えっ!? 不戦勝?」

「らしい。俺たちは次、準決勝だ」

「ええ……」

 次の試合のスケジュールを確認した僕らは目を疑った。まだ一回戦しか突破していないはずの僕らのトーナメントの線が準決勝まで伸びていたのだ。

 その理由をすぐにユグナとアウィーロが本部に聞きに行ってくれる。帰ってきた彼らから知らされたのは、僕たちの二回戦と三回戦の相手が怪我で棄権したという知らせだった。


「ま、まあ簡単に勝ち進めたと思えばいいでしょうか……」

「だよねだよね! ボクらってばラッキーじゃん?」

「そうは思うが、何とも奇妙な話だ……他にも怪我などで棄権しているチームが複数あるらしい」

「怪我……ねぇ」


 他にも不戦勝のチームがいくつかあるらしく、大会のスケジュールは早められて進んでいった。僕たちの次の試合も今日中に開始できるらしい。なんだかちょっと不気味に感じてしまうけれど、僕らにとってはいいこと続きなので、深くは考えないことにする。待機時間はとにかくユグナの話を聞いて、どのように戦うかを考えていた。


 準決勝が始まる。相手チームのメンバーのほとんどが僕らより一年早くこの学園に入学した生徒らしい。割り振られたチームに魔法使いがおらず、一年留年した者たちで構成されている。Dクラスの生徒以外は僕らより一年先輩だ。彼らが武器カプセルから取り出した武器は学校支給のものではないようで、すごく強そうに見えた。


「クール待機の間にずっと探索していたんでね。武器や装備は君たちよりもいいものを持っている自信があるよ」


 魔法使いがいなかった頃、僕たちもバーディを必死に探していたからわかる。魔法使いが不在であれだけの武器を揃えるのは簡単ではなかっただろう。Eクラスの生徒の手から目眩しや瞬間的に火や水の攻撃を出す魔道具が飛んできて、自分たちと戦っているみたいだと思った。


 相手の魔道具が尽きるまで僕の魔法で耐える作戦に切り替える。Dクラスの魔法使いも魔力のキャパシティがそこまで多くないようで、魔力切れの予兆は見えていた。

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