5話
「ギャーギャーゴァアアアー!!」
その時。
通路の奥からモンスターが姿を現す。
「ゲント君。うしろに下がってくれ」
「はい」
フェルンは手元に素早く『光の書』の魔導書を呼び出した。
そんな彼女の影に隠れて、ゲントは光のパネルを立ち上げる。
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[モンスター名]
リザルフォス
[危険度]
D+級
[タイプ]
炎獣型
[ステータス]
Lv. 22
HP 1800/1800
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(危険度はD+級。こいつはリザルフォスっていうのか)
その体は燃え盛る炎で覆われており、獰猛で鋭い牙がこちらへ向けられていた。
背中には凶暴な獣の刺青があり、頭部にはいかつい2本の角が生えている。
実際に対峙するモンスターは、想像以上におぞましい存在だった。
動物園で巨大なアフリカゾウやサイ、ライオンなどの獰猛な動物を見たことがあるゲントだったが、それの何十倍も威圧感があった。
部屋のソファーに寝転びながら、まったりゲームしてモンスターとバトルするのとはわけが違う。
実際は命の危険を感じるレベルで脅威的なのだ。
けれど、そんなおぞましい敵相手にもフェルンは物怖じひとつしない。
彼女が『光の書』を片手に詠唱文を詠み上げると、目の前に黄金の魔法陣が発現する。
「光の楔よ、我が使命は汝に秘められた真理を解き放つことなり――光魔法レベル5〈
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[魔法名]
光の閃
[魔法レベル/属性]
レベル5/光-攻撃
[MQ]
130以上
[魔力消費]
200
[効果]
敵単体に大ダメージの光属性攻撃。
光輝によって相手の視界を制限し、攻撃の正確性を下げる。
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魔法陣から巨大な光の柱が何本も放たれ、リザルフォスに勢いよく突き刺さった。
「キュアアアアアア~~!?」
敵は一瞬のうちにして串刺しとなり、あっという間に絶命する。
(すごい。また一撃で倒したぞ)
フェルンの魔法を目にするのはこれで数度目だったが、その感動はぜんぜん色褪せなかった。
実際に目の前で展開される魔法は本当に圧巻だ、とゲントは思う。
鮮やかな魔法陣が立ち上がって、そこから煌びやかな魔法が発動されるさまは、VFXを駆使したスペクタクル映像を間近で見ているような迫力があった。
「ふぅ」
戦闘を終えたフェルンは、黒い煙を上げるモンスターの付近に落ちているアイテムを拾うと、それを腰にぶら下げたマジックポーチの中へ入れる。
このポーチ型の収納魔法具は、アイテムを自由に出し入れできるっていう異世界作品の定番のアレだ。
どういう原理なのかは一切不明だが、このポーチは異次元に繋がっているらしく、この世界ではもっともポピュラーな魔法具のひとつらしい。
ゲントも自分で確認すると、腰のベルトあたりにマジックポーチが備え付けられていた。
「大丈夫だったかい? ゲント君」
「はい。ありがとうございます」
あれから1時間近く。
ダンジョンの中を探索し続け、モンスターと遭遇するたびにフェルンは難なく敵を倒していた。
(よくこんな可憐な子があんな狂暴な敵に立ち向かえるよな。本当に勇敢だ)
それでいてフェルンはとても献身的だった。
「すまない。さっき攻撃を避ける時に足を怪我したでしょ?」
「これくらいぜんぜん大丈夫ですよ」
「無理はしちゃダメだ。私が治してあげるから」
その場でしゃがみ込むと、フェルンは手元に『治癒の書』を呼び出す。
そして、片手をゲントの右脚にかざしながら、詠唱文を詠み上げた。
「神秘と智慧の息吹を纏い、再生の祝福に生命の泉を蘇らせん――回復魔法レベル4〈
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[魔法名]
癒しの聖歌
[魔法レベル/属性]
レベル4/無-回復
[MQ]
120以上
[魔力消費]
170
[効果]
味方1人を全回復させる。
大いなる光の環と聖なる息吹によって傷を完全に癒す。
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ピカッ!
温かな光が右脚を包み込んでしばらくすると、ゲントはまったく痛みを感じなくなっていた。
「痛みが消えたみたいです。どうもすみません」
「とんでもない。私がこんな厄介なことにキミを巻き込んでしまったんだからね。これからもなにかあったら遠慮なく言ってくれ」
そう言って笑顔を残すと、フェルンは先立って通路を歩きはじめる。
(こんなかわいくて気遣いのできる子・・・。なかなかいないよな)
彼女には現代人が忘れてしまっている擦れていない優しさがあった。
その純真さに触れ、ゲントは自然と心まで温かくなる。
フェルンがすごいのはそれだけじゃない。
かわいくて、気遣いができて、それでいてむちゃくちゃ強いのだ。
先ほど気になってステータスを見せてもらったのだが、自分とは比べものにならなかったことをゲントは思い出す。
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【フェルン・コンチェルト】
Lv. 86
HP 5360/6700
MQ 300
魔力総量 530万9140
魔力 209万9990
魔法攻撃力 34500
魔法防御力 25600
火属性威力 83
水属性威力 87
風属性威力 91
雷属性威力 82
光属性威力 98
筋力 313
耐久 344
敏捷 209
回避 398
幸運 622
クラスA+
聖級魔術師
[アビリティ]
《孤高》
《煌めく理力》
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(フェルンさんは謙遜してたけど、たぶんとんでもないんだと思う)
まずそもそも魔力総量530万9140というのがぶっ飛んでいる。
歩きながら聞いた彼女の話によれば、一般的な魔力総量はだいたい10万とかそんなものらしい。
それにMQも300とずば抜けて突出していた。
このMQというのは、魔力に関する理解度を数値化したもののようだ。
高レベルの魔法を使うためには高いMQが要求される。
そのため、誰でも難易度の高い魔法が使えるわけではなく、MQの低い者は簡単な魔法しか発動できないことになる。
「MQは『学問の書』の魔法を利用して高めることができるんだよ」
「平均的なMQってどれくらいなんでしょう?」
「うーん。だいたい70とか80とか、それくらいじゃないかな」
「てことは、フェルンさんすごいじゃないですか」
「ぜんぜん。私なんかまだまださ。だって、MQがもっと高かったら召喚に失敗してなかっただろうしね。ゲント君にも迷惑をかけていなかったはずだから」
そんな風に謙虚に言葉を選んでいたが、ゲントはフェルンがとんでもない才能を持っていることに気づいていた。
ちなみにフェルンくらいMQが高い者ならば、複数の魔導書を同時に使用することができるようだ。
一方のゲントはというと、どの数値も軒並みゼロ。
まさにフェルンとは真逆の存在と言える。
だったらスキルがいいのでは?
よく異世界作品の主人公は突然チートスキルが目覚めて、超人的な力を発揮するのが定番だ。
それに期待して、まだチェックしていなかったスキルの項目を確認するも・・・。
(うわぁ、使えない系のやつだ)
【太刀奪い】は〝相手の武器を奪うことができる〟というこのダンジョンではまったく役立たずのものだった。
(自分にできることはフェルンさんの邪魔をしないことだな)
そんなことを思いながら、ゲントは彼女の後をついて行くのだった。
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