第7話
月日が流れるのは早いもので、それから半年が経ったある日の日曜日──突然、サッちゃんの両親が家にやってくる。俺達は玄関で適当に挨拶を交わすと、本題に触れることなく、居間へと移動した。
伯父さん達……一体、どうしたんだろ? 1年以上は海外に居るって言ってたから、まさかサッちゃんを迎えに来たとかじゃないよね?
「いやぁ、突然すまないね」と、伯父さんは言って、奥さんと一緒に奥の座布団に座る。その隣にサッちゃんが座り、俺はテーブルを挟んでサッちゃんの向かい側に座った。
父さんは伯父さんの前に座ると「大丈夫だよ。丁度、暇していた所だったんだ。ところで仕事の方は順調かい?」
早速、俺が聞きたい事を聞いてくれて、俺は真剣に伯父さんを見つめる。サッちゃんも同じ気持ちなのか、真剣に見つめていた。
「あぁ。順調、順調。だから、そろそろ里美を迎えに来るよと言いに来たんだ」
「え、ちょっと待って聞いてない。何でそんなことになってるの!?」
「そうだよ伯父さん、1年以上は掛かるって言ってたじゃないか」
悪い予感が的中してしまい、ついイラっとしたのもあって俺達は荒い口調で伯父さんに問いただす。
それにビックリしたのか、伯父さんは目を丸くして驚いた表情をみせた。だけど直ぐに奥さんの方に顔を向けると、笑顔をみせる。奥さんもそんな伯父さんをみて、優しく微笑んでいた。
母さんが居間へとやってきて、コーヒーが入ったカップを順に置いて行く。そして俺の前にコーヒーカップを置くと「あら、篤。預かる前は反対するかのようにあれこれ言ってたのに、随分と寂しそうじゃない」
「え……それは──」
確かにそうだから言い返せない。最初はスンとした態度の女の子と過ごすなんて気まずくて嫌だなぁ……って気持ちが出ていた。だけど今は違う……今は可愛いサッちゃんと過ごすのが当たり前になって来ていて、離れるなんて寂しくて、考えたくない。
「まぁまぁ、母さん。可愛いからって子供をあまりからかっちゃいけないよ。兄さん、里美ちゃんを迎えに来るのは大体、いつぐらいになるんだい?」
「それが……厚かましいと思って先に言えなかったんだけど、実はこのまま海外勤務しないか? って、言われているんだ。昇進になるし俺はそっちの方が良いと思っているんだけど、どうだろうか?」
「なぁんだ! それを早く言えよ、兄さん! もちろん、良いに決まっているじゃないか! おめでとう!」
「ありがとう!」
「良いなぁ海外勤務……うちの会社は景気悪いし、そんな話でないからなぁ。」
「じゃあうちの会社に来ないか? 海外で一緒に働いてくれる人を募集しているんだ」
伯父さんがそう言うと、父さんは横に座ろうとしている母さんに顔を向ける。母さんはそれに気づいた様で、ニッコリ微笑むと「あなたの好きな様にして良いわよ」
「じゃあ前向きに考えてみようかな? もちろん、俺も家事が出来ないから、静江には付いてきて貰うことになるけど……」
「えぇ、もちろん良いですよ」
父さんは母さんの返事を聞くと、俺の方に顔を向け、ポンポンと肩を叩く。
「という訳で、俺達は海外に行くかもしれないが、お前はどうだ?」
「え……嫌だ」
「あっはっはっはっは、だと思ったよ! それじゃお前は里美ちゃんとこの家で留守番な」
「う、うん……」
──ん? という事は……その話が本当になれば、しばらくサッちゃんと二人っきりになれるってこと!?
「さぁ~て……それじゃ色々聞きたいから、兄さん。四人でちょっと出かけようぜ」
「そうだな」
大人たち四人はスッと立ち上がり、ゾロゾロとダイニングの方へと向かっていく。まるで擦り合わせたかのようにポンポンと話が進み過ぎて、俺はボォー……としたまま見送っていた。すると突然、父さんだけが立ち止まり、クルッと俺の方を向く。
「どうしたの?」
「責任を持てる様になるまでは、ちゃんとゴムをするんだぞ!」
父さんはそう言って、俺に向かってサムズアップする。その意味が分かった俺はカァ……と体を熱くしながら「田口さんの両親も居るのに、何言ってんだ。馬鹿おやじ!」
「あっはっはっはっは……」
父さんは笑いながら俺達に背を向け、母さんたちの方へと歩いて行く──玄関が閉まる音が聞こえ、両親たちが出て行った事は分かったけど、父さんが変な事を言い残していくから、俺は気まずくなり、サッちゃんの方に顔を向けられなくなっていた。
「とんとんと話が進んで信じられないけど……まだ私達は一緒に住めるって事で良いんだよね?」
「そういう事になるね」
「良かった……」
サッちゃんはスッと立ち上がり……俺の横に座る。二人三脚の時の方が近かったけど、いつもと違う雰囲気からなのか、妙に距離を意識してしまって、あの時よりもドキドキしている様な気がした。
「ねぇ、お父さんに1年以上は掛かるって言ってたじゃないかって言ってくれたって事は、アッ君も私と同じ気持ちだったって事で良いんだよね?」
「──うん」
「じゃあ静江さんの言う通り、アッ君も寂しいって思ってくれていたって事で良いんだよね?」
「──うん」
「嬉しいなぁ……」
サッちゃんは顔を赤く染めながら俯き加減でそう言って、床に付いていた俺の手の上に自分の手を重ねる。その手は凄く柔らかくて温かく、俺の手に汗を滲ませる。
「そういえばさ……」
「なに?」
「──喫茶店に行った時、私の気持ちは伝えたじゃない? でも……アッ君の気持ちは伝えて貰ってないんだけど……いま聞きたいな」
「い、いま?」
「うん、今。だって、いつまた離れて暮らすって話があがるか分からないじゃない? だったら今、聞きたいなぁ」
サッちゃんは甘えるかのように上目遣いで俺を見つめる。こんな目をされちゃ……言うしかないよな。俺はゴクッと唾を飲み込み……ゆっくりと口を開く。
「俺も……俺もサッちゃんの事が好きだよ。だから……俺と付き合って欲しい」
「ふふふ、ありがとう!」
サッちゃんは今まで見せた事ないぐらい可愛い笑顔を浮かべ、俺に向かって両手を広げる。見掛けによらず甘えん坊さんだな。本当……俺の知らない田口さんは今日も可愛い! 俺はそう思いながら、サッちゃんを引き寄せギュッと抱きしめた。
俺の知らない田口さんは今日も可愛い! 若葉結実(わかば ゆいみ) @nizyuuzinkaku
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