第4話 トンカツには何かける?
「石橋くん、ありがとう。本棚」
「あぁ、全然。俺でできることでもなんでも」
俺は四人掛けのダイニングテーブルで父さんの向かい側に腰掛けた。父さんの隣には静香さんが、俺の隣には里華が座った。
テーブルの上には一人一枚のトンカツとサラダ、小鉢にはほうれん草と油揚げの和物。ほかほかの白米は炊き立てだ。
「よかったわね、里華」
静香さんの問いかけに里華は笑顔で返事をした。それを見て俺は心底ホッとする。いただきますと挨拶をして俺は食卓にあったトンカツソースを手に取った。とろっと甘いソースをかけていると父さんはしゃばしゃばのウスターソースを手にする。
「あら、二人は別々のソースなのね」
静香さんがふっと微笑むと父さんが
「圭はそういえば甘めのトンカツソースだよな」
「甘めというか、父さんのかけるソース水っぽくてサクサク感がなくなるじゃん。だから嫌ってだけ」
ウスターソースはシャバシャバしているのでトンカツにかけるとせっかくの衣がしなしなとしてしまう。
「そうかぁ? サッパリするぞ。静香さんはどっちをかけます?」
父さんの問いかけに静香さんは悪戯に笑うと
「私、トンカツはお塩で食べるのが好きなの。お肉の味が好きだから」
そういって静香さんはさっとレモンを絞ってから塩をかけると美味しそうにトンカツを頬張った。庶民の俺はテレビの中でしか見たことのない食べ方だが、彼女があまりにも美味しそうに食べるもんで、さっさとソースをかけてしまったことを後悔する。
「里華ちゃんは何をかけるんだい?」
父さんのパスに里華は恥ずかしそうに食卓の小さな瓶を指差した。
「醤油?」
俺は思わず声に出すと里華はちょっとだけ赤面し
「サッパリして美味しいよ、醤油」
と言って醤油差しを手に取ってトンカツにじゅわっとかけてしまう。トンカツに醤油をかける人を初めて見た。どんな味がするんだろうか?
「里華ったら、物心ついた時から醤油が好きでね。アジフライにコロッケ、ポテトサラダにもかけちゃうのよ」
「もうママ、やめてよ。恥ずかしい」
里華は口に入れていたトンカツを飲み込んでから恥ずかしそうに口を尖らせる。俺は、次トンカツを食べるときは塩と醤油だと心に決めて、自分のトンカツを頬張った。ちょっといい肉を使っているのかサクサクの後すぐに口の中で溶けてしまう。
「美味しい……」
俺の言葉に静香さんが喜んでくれ、父さんも嬉しそうだった。付け合わせの千切りサラダにはマヨネーズをかけて頬張る。トンカツのこってりをサラダとマヨネーズの酸味でリセットしてからまたトンカツ。甘いソースと白米のコンボですぐにでも食べ終わってしまいそうだ。
俺の反応に向かい側の二人が嬉しそうに顔を見合わせている。父さんも静香さんも幸せそうで俺はもう一口白米を頬張った。
「ねぇ、ママ。うちは昔から中濃ソースはあったけどとんかつソースは買ったことなかったよね?」
「そうねぇ、とんかつソースは甘めでお料理に使うのには中濃の方が便利だから。どうして?」
里華は箸を置くと、遠慮がちに俺の方を向いて顔を赤くする。
「あのね、石橋くん。一切れずつ交換こしない?」
「いいけど、どうぞ」
俺は突然の交渉に驚きつつ身をひいて里華が取りやすいように皿を差し出した。彼女は嬉しそうに微笑むと、とんかつソースのたっぷりかかった一切れを箸でつかみ自分の皿へ乗せると、今度は醤油のかかった一切れを俺の皿の上に置いた。
「いただきます」
里華はとんかつソースのかかった一切れを一口、噛んだ瞬間にトンカツの油とソースがじゅわっと彼女の唇を濡らし、そして彼女の顔が笑顔になる。
「おいひぃ……甘くてしょっぱくてお好み焼きみたいな味」
学校では「女王様」なんて呼ばれているクールな彼女の子供っぽい一面に俺はどきどきしっぱなしだ。彼女は白米を少し頬張ると味わって食べてから残った一口を口に入れる。
「あら、里華もとんかつソース派になっちゃったみたいね」
俺も初めて食べる「醤油掛けトンカツ」を口に入れる。アツアツのトンカツにかかったしょうゆは熱で良い香りがたち、口の中でしょっぱさとトンカツの甘さが妙にマッチする。もしかすると、和からしがあればもっと美味しいかもしれない。
「うま……」
とんかつソースの甘いものいいが、このエッジの効いた醤油はさらに白米が欲しくなる上に中毒性が高い。もっと食いたい!
「実は……後一枚余分にあったりして。圭、里華ちゃん。食べるかい?」
いつのまにかキッチンへ移動していた父さんはカウンター部分からもう一枚のトンカツを見せて言った。俺と里華は顔を見合わせて一言、
「食べたい!」
俺と里華が兄妹になって初めての食卓、俺にとっては初めてづくしで忘れられない良い思い出になった。
***あとがき***
お読みいただきありがとうございます!皆さんはとんかつに何かけますか?!おろしポン酢もおすすめだぞ!
ランキング上がって書籍化したいぞ! 応援よろおねです!!
少しでも面白いと思ったら、作者のモチベーションが上がりますので、広告下の☆で評価するの+ボタンからぽちっと3回よろしくお願いします。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます