28 モーガン・ル・フェイ
「ふぅー。とんだ災難だった……」
長い交渉の末、やっと少女の手から開放されたアルシエラは、私の肩へヒョコンと着地した。
対して、先ほどまでモフたんをつまんでいた女性は、深い溜め息をつく。
「失礼しました。貴方の飼い犬から気持ち悪い気配がしたので、つい火炎魔法で焼き払おうとしてしまいました。貴方からも少し同じ気配がしますが……」
それは、もはや『つい』というレベルの話では無い。
「私はモーガン。ログレシア魔法学校の議長を務めている者です」
議長とは何だ?
そんな疑問が脳裏をよぎったが、何かを察したらしいアルシエラが口を開いた。
「分かりやすい表現に言換えるならば『議長』とは『生徒会長』とほぼ同義だ」
ほう。つまりこのモーガンさんは、魔法学校の生徒内で頂点に立つ存在なのか――。
「私は桃花琥珀です。名字がトウカで、コハクが名前です。そしてこちらがシデンさん」
「えぇ、お会い出来て光栄です。ミス・トウカに……」
モーガンは言葉を詰まらせた様子を見たシデンが、補足する。
「私に名字は無い。だからシデンで結構だ」
「そうですか。ミス・トウカにシデン」
モーガンは無表情のまま、こちらに手を伸ばした。
挨拶代わりの握手だろう。
応えるべく、こちらも手を伸ばしたが――その瞬間、モーガンの背後から少年の声がこだまする。
「「モーガン議長!」」
いや、少年だけでは無い。
少女の声も、同時にこだました。
不機嫌そうに目を伏せたモーガンが、傍に駆け寄ってくる男女二人の生徒と向き合った。
「ミカとラディア。こんなに慌ててどうしてのですか?」
すると、少年が慌てた表情で説明し始めた。
「さっき、ラディアが客船の周囲で奇妙な魔力反応を感じたって」
「アンタも感じたって言ってたでしょ?」
どうやら、少年の方がミカで、少女の名前がラディアらしい。
ミカは、栗毛にライトグリーンの瞳がよく映えた少年で、丸い眼鏡と、頬に広がったそばかすが特徴的だ。
手入れをしていないのだろうか。制服のシャツはシワだらけになっていた。
そして、ラディアはウェーブがかったブロンドに、オレンジ色の瞳を持つ少女だ。シャツの第一ボタンまで閉め、制服を上品に着こなしている様子からはお嬢様らしい雰囲気を感じた。
「それは艦長の責務でしょう。どうして私が……チッ、仕方ありませんね」
大きな舌打ちをしたモーガンは、ミカとラディアにあれこれ指示を出してから、サロン内から姿を消した。
機嫌の悪さを露骨に表していたモーガンであったが、一般生徒だと思われる二人からは、怯えている様な雰囲気は感じ取れなかった。もしかすると、モーガンが悪態をつく事は日常茶飯事なのかもしれない。
嵐が去った後の様な静けさがサロンを包んだが、それもつかの間。
すぐさまラディアの叫ぶような声がこだまする。
「トウカさんに……そちらはシデンさんでしたよね。私はラディアそして、こっちの不甲斐なさそうな男の子はミカ」
「だっ誰が不甲斐ないですって。失礼な」
そして、急に名前を出されたミカの心情を表すかの如く、彼の持つ本の内何冊かが飛び跳ねた。
「よろしくね、ラディアさんとミカさん」
先ほどのモーガンをまねて手を差し出すと、ラディアの両手がこちらの手を覆った。
その時、ラディアの透き通った瞳と視線が交わる。
オレンジ色の虹彩だった。
トパーズみたいに美しい瞳。
どこかで見たことがあるような……。
「もしかして、ラディアさんの目って
「違うよー。よく間違えられるけどね」
「そうでしたか。すみません。さっきラディアさんの瞳と似た
ラディアの表情が硬直する。
「それってもしかして……赤髪の人?」
「そうですよ」
そして、硬直していた顔からみるみる血の気が引いた。
「うそぉ。教えてくれてありがとう。私ちょっと自分の部屋に戻るね」
「どうかしたのですか?」
「だって、その男……多分、
どうやら彼女があの男性が言っていた妹らしい。
あんな兄が同じ船に居ると聞いたら、誰だってこんな反応をするよね。
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