独特の美文に揺らめく世界
- ★★★ Excellent!!!
メガバンクで目覚ましい業績を上げた期待の若手にして、誰もが目を奪われるほどの眉目秀麗なスーパースター、藤崎諒太。櫻岾支店の次に彼が赴任したのは、北海道のさびれた漁師町、猫魔岬。その支店閉店のために、史上最年少支店長としての着任。しかし、その町が何ともユニークで魅力的でした。
北海道入りする航空機の窓から目撃した未知なる巨大海洋生物の影、陸繋島にそびえる根古間神社、新月の夜にてんてんと灯される篝火、明治期まで続いていた豊漁を願っての人身御供、消えた海洋学者、妖怪居酒屋と見まごう『海鮮居酒屋 海猫』、『恐怖!呪いの網元屋敷』と呼びならわされる旅館、渚亭、開かずの間、無数の眷属(猫!)を従え、にや、と笑う護り神(!)……
三度の飯より怪異大好きな藤崎さんはすっかり猫魔岬に惚れこみます。さびれた町を再興しようとする住民たち。そこに手を差し伸べてくれたのは、かつて櫻岾支店時代に知り合った、あの御大……
怪異と因習を受け止め、自然の猛威に堪えながら、猫魔岬の人々はたくましく生きていきます。そこにどっぷりつかり込むようにして町を愛する藤崎さんの奮闘を見守るうちに、きっとあなたも本作にはまり込んでいることでしょう。簡潔かつ詩的な美文が、物語を妖しく揺らめかせます。
あ、最後になりましたが、猫魔岬支店課長の権堂龍弥氏、ごつい名前そのままの硬派な男で、こちらもまた公私ともにハイスペックな理論派なのですが、超がつく恐がり。そのギャップがたまらなく可愛らしいのです。いい味出しています。