第4話 異世界ハーレムへようこそ

夜の歓楽街サンゼ。眠らない街だ。

今夜はここのお姉さんの居る店に寄って一泊…と、ダルが楽しみにしていると、ダルの背後にはなぜかスピンクスと魔法犯罪調査官のポーがしっかり付いて来ていた。

何でお前たちが居るのだ…


さすがに女連れ…というか見た目だけ子供連れでは夜遊びもできない。

ダルは仕方なく水たまりの路地を抜け歓楽街から外れた安宿に一泊する。

なんか…床が傾いてるな。

「コイツと相部屋で頼む」

「おい、コラ」

さっさとスピンクスが部屋を決めてしまった。

質素な異民族の帽子をかぶった宿屋のオヤジがカタコトの口調でしゃべりかけてくる。

「お嬢さんタチ親子カ?」

「違う、夫婦だ」

ダルはズッコケた。


さて、夜も更けて来たと思えば、隣のベッドではスピンクスとポーがずっとベッドの中で熱い戦いを繰り広げている。

窓から差し込む月明かりで部屋の中は薄明るい。


「いい加減にしろよ。お前ら…お?」

ダルが振り向くと、隣のベッドの布団からは、裸の尻がはみ出て見える。

薄暗い部屋のシルエットには長いシッポがウネっている。

スピンクスのだな…

ちょうど裸の尻を向けて、布団の外に突き出した格好だ。

布団の中からはポーの喘ぎ声が小さく聞こえてくる。

ナニやってんだアイツらは。

ダルは呆れたが

「しかし…薄暗くてよく見えないな…」


ダルはそっとベッドから降りて近づいてみる。

シッポの下では引き締まった尻が上下に動き、美しい肌が月明かりに照らされている。

思わずダルは手を伸ばしたが、ハッ!と気づいて止めた。

(イカン、これは絶対『アイツの罠』に違いない!!)

すると突き出された尻が持ち上がり、不意にダルの正面に向いた。

中身が見えそうだ!

罠と知りつつ思わずダルが顔を近づけたその瞬間、シッポがダルの目玉を払う。


「ぐああ!眼があ!眼があ!」


ダルが床にひっくり返ると、赤いリングに手足を拘束された。

????これはスピンクスの拘束魔法?


急に室内が昼間の様に明るくなる。

霞む眼で見上げると全裸のスピンクスとポーがダルの顔を踏み付けながら見下ろしている。

残念ながら目が霞んでよく見えない。

「ダル、貴様はいたいけな美少女たちに痴漢行為を働こうとしたな。残念なヤツめ!」

スピンクスは野獣の牙を剥いて微笑んだ。


「お前が誘ったんだろうがっ!」


「ふっ、素直じゃないな、仲間に入れて可愛がってやる」

ギクっ!嫌な予感しかしない。


「やれ」「はい」

スピンクスが命じると、ポーがダルのズボンを脱がし始めた。

「おいコラ!クソガキ!何をして…うおっ!」ポーはダルの裸の尻を蹴り上げ、股間を掴み上げた。

「貴様、奴隷のぶんさいでこのボクを馬鹿にするのか!」

「アイタタタタ!ちぎれる!ちぎれる!」

つかコイツ今、俺のことを奴隷と言ったよな?


全裸のスピンクスがダルにまたがり胸の上に乗る。

シッポで目隠しされて見えないが、胸には何やら感触が伝わってくる。何という高等プレイだ。


スピンクスが股間に顔を近づけてくると、冷たい息が股間にかかる。

あ、ヤバい!ゾクゾクする

「ほう、なかなか立派なオモチャを持っているではないかダ〜ル〜」スピンクスが先っぽを指先でピン!と弾いた。

「痛てっ!」


「しっかり準備はできている様じゃな。さて、では始めようかのう」

スピンクスは立ち上がってシッポをムチの様に振るい、床をピシャリと打つ。

夜の街にダルの絶叫が響いた。


夜が明けた。

というかダルは一睡もしていない。

「昨夜は楽しかったのうダル」

「…うるさい」

悪夢の様な一夜だった。

ダルは目隠しをしたまま全裸で転がされ、二匹のケダモノに、あんな事やこんな事を夜明けまでやられていた。

早い話がオモチャだ。


さて水たまりでガタガタの路地裏を抜けてサンゼの歓楽街に入ると今回の現場に到着した。

古い屋敷を改造した娼館だな。

なるほど幽霊屋敷にちょうどいい。


「今回の事件は首無し遺体の謎!遊廓編だ!」

スピンクスはノリノリで実況するが…これのどこが冒険者ギルドの仕事なのか?


「サンゼ市の娼館に首無し女の亡霊が出たそうだ」山小屋のギルド出張所で赤鼻のヤルソンが酒ビンをあおりながら依頼書と資料を投げ渡した。

「最近のギルドは幽霊探索もやるのか?」

「全員逃げ帰ったらしいぜ、それに最近じゃあ戦争が続いたせいで従軍神官も忙しくてな」

ダルは資料をパラパラめくりながらグチる

「教会にでも頼んだ方がいいんじゃねぇか」


「依頼料金は金貨15枚だ!」


「マジかよ!」ダルは金に飛び付いた。

……それが四日前の話だ。いや自業自得だな。


ダルは組合(ギルド)の中でもベテラン冒険者の一人だ。

もっともキャリアだけ長いが、小さく奇妙な仕事ばかりを請け負って食っているダメ冒険者だ…いや便利屋というべきか。

「便利屋ダル」とギルドでは呼ばれてはいる。

「便利屋」

それは他の冒険者には絶対できない仕事。

『誰もやりたがらない。困難で奇妙な依頼を解決する』

それが冒険者ダルの行く現場だ。


「というか何でお前が居るんだチビっ子」

ポーはニヤニヤしながら、魔法で空中に羊皮紙を広げる。


「無礼な奴隷め!ボクには魔法寮より獣神調査専任の正式な辞令が出ているのだ!」

スピンクスの専属調査員かよ…ダルは呆れた顔をした。

というかずっと奴隷よばわりだなコイツ。


「ワレはダル専属の守護獣神じゃからのう」

スピンクスは美少女の顔に猫の様に銀青の目を細めて、長いシッポをヒュンヒュンさせながら満面の笑みをたたえてニタ〜と笑っている。

化け猫に取り憑かれた気分しかしない…


幽霊屋敷の前には女たちが何人か立っている。立ちんぼの客引きだろう。

「お兄さん、寄ってかないかい」

痩せこけた青白い顔の老婆に呼び止められた。

いや老婆に見えたがまだ若い。

バサバサの髪で落ち窪んだ目をしている。

もう一人の年配の女が横から声を掛けてきた

「おや、イイ娘を連れてるじゃな〜い。高く売れるよ」

女はスピンクスに寄って行く

「あ!待て!ソイツはヤバ…」


スピンクスが銀青の瞳で睨むと女は石になって固まってしまった。


「おいコラ!何やってんだ!元に戻せ!」

ダルがスピンクスを掴んで騒ぐとスピンクスはふて腐れながら魔法を解除した。


女は雑草の上に這いつくばって荒い呼吸をしている。そりゃ恐怖しか無いよなこの地獄猫には。


女たちに金を渡して、この屋敷の幽霊騒ぎ聴き取り調査をする事にした。

「見た事あるよ、首の無い幽霊。あれは地下に行く階段の所だねぇ」

「そうそう、こっちを見てるみたいにジッと立ってるんだよ、首も無いのに」


「地下には何が有るんだ?」


「何も無いさね」

「階段があるのに?」

「部屋は有るけど水浸しでもう行けないんだよ、床もボロボロだし浸水しちまって」

「浸水?」

「昔はこのへんは湿地だったからね」

「湿地を開拓して娼館を建てたのか?」

「ほれ、そこに軍の屯所ができただろ。若い兵士がいっぱいでさ、そこでこの廃屋も選ばれたのさ」

なるほど軍の基地といっしょに干拓された軍属の街だったのか。そういえば昨夜の宿のあたりも道はだいぶデコボコだったな。


「この屋敷はその時に儲けた市長の屋敷さ」

「市長?なぜこんな化け物屋敷になったんだ?」

「戦争だよ、すぐ鎮圧されたけどね。この辺一帯皆殺しにされて市長の家族も死んだ」


「じゃあ幽霊は市長の幽霊か?」

「幽霊は女だよ」

「女?」

分かったのはここまでだ。


屋敷に入ってみると内部はだいぶ痛んでいた。まだ昼だというのに薄暗い。


ここに幽霊が出るのか?だいぶ不気味だな。

あの『お姉さん』たちが使っているのは一階の東側の部屋だけらしい。

幽霊が出るのは西側、地下階段付近。

それに対して若い下級兵卒からクレームが来た様だ。

従軍神官たちが悪魔祓いやら祈祷やらをやったらしいが、手に負えない。

それで頭を抱えた軍の管理職がギルドの神官に依頼した…というのが顛末らしい。


「なるほど、この屋敷がタダで使えるなら金貨15枚でも安いかもな。

かと言ってギルドの神官たちが手に負えない幽霊なんて、どう対応すりゃいいんだ?」


「なんじゃ怖いのか〜ダ〜ル〜」

スピンクスが目を細めて猫の様な笑顔を向けて来る。

お前の方がよっぽど怖いわ!


屋敷の中は床もだいぶ腐っているし暗い。やはり灯りが必要だな。

そういえば出発前にヤルソンからカンテラ用の補充オイルの瓶と着火材を渡されていたのを思い出した。さすがヤルソン全てお見通しってワケね。

「カンテラを取りに戻るか…」


ダルが引き返そうとするとスピンクスが呼び止める。

「全く人間は不自由じゃのう、おい」

スピンクスがアゴで命じると、ポーが「はい」と答えて魔法の杖をかざした。

杖の先に小さな光の固まりが発生する。

光は小さなバレリーナの様な形をしている。

何だこれは?

「妖精を召喚した、霊魂が残留していればこの光で可視化される」

スゲぇ、魔法使いってそんな事もできるんか?

「そういや昨夜の光もひょっとしてこれか?」

「ふっ、また今夜も遊んでやるぞ」

ポーは目を細めてニタ〜と笑った。

「お前、だんだん飼い主に似て来たな」


妖精は人間の顔ぐらいの大きさか。

バレリーナのような衣装で蝶のような羽根でクルクル飛び回る。

まるで光る人形の様だ。


「よし元気そうだな。頼むぜ相棒」

妖精はクルりと回ってバレリーナの様に挨拶をした。

「よし、いい子だ。おい小僧、この妖精の名前は何ていうんだ?」

ダルが振り返るとポーはスピンクスに寄りかかりながら東の一室に入って行くのが見える。

「まだヤルのかアイツら…」


「お前、名前無いのか?」

妖精はうなずく。

「じゃあ、お前の名前はクルンだ。クルクル飛び回るからクルンだ」

妖精はクルクルとうれしそうに飛び回った。


ダルと妖精のクルンは館西側の奥へと進む。

奥の壁面に脇道に行く階段がある。あれが地下道か?

ダルがソッとのぞき込むと…

目の前に居たっ!首無し少女の幽霊が!

ダルは思わず尻もちを着いた。

妖精の光のせいか、やけにリアルで生々しい幽霊の姿があった。

この地方の衣装らしい赤いレースの付いた白いブラウスにチェック柄のスカートをしている。当然首が無い!


幽霊がふと近寄って来た。

ダルは尻もちを着いたまま思わず後ずさりする。

妖精の光のせいかやけにリアルで恐怖感が増している。

「クソっ!こんな事なら教会で懺悔して聖油を頂いてから来るべきだったぜ」

癪だけどポーを呼ぶべきか?


妖精のクルンはさらに幽霊の周りを飛び周って照らしている。


「ん?ちょっと待ったクルン。その幽霊は近寄っても平気なのか?」

クルンはダルの元まで飛んで来てうなずいた。


「妖精が平気だという事は、危害は無いのか」

ダルは起き上がりゆっくり階段に近づくと、幽霊は後ろを振り向き階段を降りて行った。


「着いて来い…って事かね?」

クルンはうなずいた。

ダルとクルンは幽霊の後に着いて行く


地下は水没していた。

床面に立つと水面が、くるぶしの上まで来る。床板はもう腐食してグズグズだ。

ダルは幽霊に連れられてゆっくり地下の一室に進んだ。


崩れ落ちた棚や樽が散乱していた。

元は食糧庫だろうか?

古過ぎて分からないが、掠奪の痕跡が見られる。


幽霊は振り返ると、水中に両手を着いて、床を覗き込んだ。

「何だ?」

ダルは幽霊の覗き込んでいる所へ近づくと、突然足元の床が抜けて、水しぶきが上がり古い井戸の様な穴の中に落ちた。

ダルは水中でもがく、水面上にはクルンの光に照らされて、上から首無し幽霊が覗いているのが見える。


「しまった!罠だったのか!」


ダルは山刀を抜いて壁面を突き刺さすが、石積みの壁に弾かれてしまう。

「クソっ!」

次にワイヤーを伸ばして投げたが水中では思う様にはフックが飛ばない。

足を掛けようにも石壁は滑って空回りするばかりで、その度に水を飲んでしまい、気管に入る。

水上を見ると妖精の光に照らされ首無し幽霊の姿が見えた。


「ダメだ…」

ダルがあきらめかけると空中の光がドプン!と水中に飛び込んで来た。

「クルン!来てくれたのか!」

ダルはクルンにフックを渡すと、クルンは一気に空中まで飛び上がり、ワイヤーを引き上げて天井の梁に巻き付ける。

ダルは水中で必死に腰のホルダーからワイヤーを送り出したが、ふと水中の底の瓦礫の中にクルンの光に照らされて白く丸い物があるのが目に付いた。

「あれは…?」

ダルは必死にワイヤーを手繰り寄せながら水中から浮上する。

「ブハッ!」

ダルが水面から顔だけ出して荒い呼吸を整えてると妖精のクルンが寄って来た。

「サンキュー、助かったぜ」

クルンはクルクルとうれしそうに飛び回る。


振り返ると首無し幽霊が水面に両手を着いてジッと、ダルの方を見ているのが見えた。

ダルも様子をうかがっていると、幽霊は再び井戸を覗き込んだ。

「なるほど、危害は無い様だな…」

ダルはワイヤーを引きながらゆっくりと穴から這い出た。


首無し幽霊はずっと水中を見ている。

「なるほど、あれが『ご依頼の品』かな?」


ダルがワイヤーを渡すと、再びクルンがフックを引きながら水中に飛び込む。

「スゲぇな、妖精って水中でも飛べるのか!」

水の奥が妖精の光で照らされると、腐食した木材の残骸の中に白く丸いものが見えた。

「それだクルン!」


ダルがワイヤーを引き上げると、フックの先には小さなガイコツが付いている。

いつの間にか首無し幽霊がダルの目の前に立っていた。


ダルはちょっと微笑んでガイコツを首無し幽霊に手渡した。

「はい、ご依頼の件、たしかに完了しました」

首無し幽霊はガイコツを受け取ると静かに抱きしめる。

「じゃあな!あまり人前には出るなよ!」

ダルはワイヤーを巻き取りながら立ち去ると、また床が抜けて隣の穴にドボーン!と転落する。

「あ!いけねえ!フックが引っ掛かった!」

フックは上着のどこかに引っ掛かり、ワイヤーが右腕に絡んだ。

「しまった!」

ダルはもがきながら必死で水面に左手を伸ばす。

クルンが水面上をクルクル飛び回っているのが見えるが、ワイヤー無しではダルを引き上げるのは無理だろう…

「クソ…」

ダルの身体が水中に沈みかけたその時、誰かの手がダルの左手を掴んで引き上げた。

細くて小さい。女性の手だ。

ダルの左手が水面まで浮上すると、床板をつかんで、一気に片手で水上に転がり上がる。

ダルは水びたしの床に仰向けになりながらゼェゼェと荒く息を継いだ。


ふと見ると先ほどの首無し幽霊に顔が着いている。

美しいブロンドの長髪で年齢は十代後半だろうか。

首無し幽霊だった少女は泣きながらダルに抱きつくと、ダルの頭の中に少女の心のイメージが流れ込んできた。

何年もの孤独と失われた家族。腐り果てて行く思い出の我が家。そして戦争で殺され、切り裂かれ、地下へ投げ捨てられた記憶。


「そうか、君も辛かったんだな」

ダルはそっと少女を抱きしめた。


「なんじゃ!もう新しい嫁を見つけたのか!ダ〜ル〜」

ギクっとして上を見上げると下着姿のスピンクスとポーが居た。


「ほう、妖精の光を浴びて頭骨を依代(よりしろ)として実体化した様じゃな。珍しい事じゃ。さすがダルじゃのう!」

何言ってんだこの珍獣は。


「だがダルには正妻であるこのワレが居る限り貴様は側室とこころえよ!」

幽霊少女は一瞬驚いた顔をしたが、やがて決心してうなずいた。

え?え?え?

何が始まっているのか?ダルには理解できなかった。


「よろしい、ではお前も今夜の異世界ハーレムの仲間に入れてやる!服を脱いでワレについて参れ」

スピンクスはダルを引きずりながら東の一室に向かう。

幽霊少女は顔を赤らめてうなずくと水面の上で服を脱ぎ始めている。

ついでにクルンも全裸になっている。

お前もかよ!


「ちょっと待て!お前ら!」

ダルが声を上げた次の瞬間、また全身を拘束魔法で縛り上げられ「猿ぐつわ」をかまされた。


「うるさいぞ、奴隷のぶんざいで」

ポーが虫ケラを見る眼で見下ろしている。

ダルは自分の運命を覚った。


そして平和が戻った夜の幽霊屋敷からは、ダルの悲鳴がこだましていた。


〜〜次の冒険に続く〜〜

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便利屋冒険者ダルの事件簿 矢門寺幽太 @Yamonji

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