番外編 未来人ならこの時代の勉強なんて朝飯前かなって
第10.5話【番外編】未来人ならこの時代の勉強なんて朝飯前かなって
翌日、俺がいつものように喫茶店の仕事をしていると、何やら焦った様子のさくらさんが学校から帰って来たかと思えば、そのまま俺に詰め寄ってきた。
「や、ヤバイ!助けてぇ〜!!」
なんだかただならぬ雰囲気だ。俺は真剣に話を聞く姿勢を取った。
「何があったの?」
俺は聞く。
「ぶ、物理と数学教えて!!ヤバイの!ほんっっとうにまずい状況なの!!」
「はい?」
さくらさんからのSOSは、思ったよりも可愛いものだった。
「でも、それなら四季神さんに頼む方が良いんじゃないか?」
四季神さんの学力について詳しく知っているわけではないし、そもそもこの時代の教育レベルがどれほどのものか知らないが、いかにも勉強できます、優等生ですというオーラを纏っている。
しかし、さくらさんは、そんな俺の意見を聞くと、すぐに心得たような表情を浮かべた。
「あ~なるほどね。いやー、ココだけの話なんだけど、実は翔子、3学期末の物理17点」
さくらさんから告げられたのは、それはもう衝撃の事実だった。
「ま、まじ、、、?じゃ、じゃあ数学は?」
「22点」
これはまたまた衝撃の事実だ。まさか30点以下とは。オーラがどうこうとか、分かったような気でいてすいませんでした!!
「ほ、他の教科は?」
「100点」
「え?な、何が?」
100点という、いまさっき聞いた彼女の学力からは到底想像もつかない点数に、俺は理解が追いつかず、半信半疑で尋ねる。
「全部100点だよ。国語、英語、地歴公民に古典に生物に科学、全部、ね」
俺が四季神さんに見たオーラは、多分正しいらしかった。
「ま、まじか、、、」
逆にどうしたらそんな極端になれるのだろう、、、
まるで小説の中か何かの設定みたいな成績だ。
「と、言う訳で、ヤバイの!数学と物理は私も似たような点数なの!」
思い出したかのように再び焦りだして言う。
それに対して、俺は俺が教えるに当たって一番の問題を告げた。
「でも、俺そもそもいま学校行けてないんだけど」
俺も本来なら100年後の今頃には福咲が丘学園の生徒だったはずだが、現実は、いま、100年前の時代にいる俺自身が物語っているわけで、、、学力としては、本当に中学3年で止まっているのだ。
すると、さくらさんはとぼけるようにして言った。
「そこは、、、ほら、未来人ならこの時代の勉強なんて朝飯前かなって♪」
その日の夜、結局さくらさんに勉強を教える事になった俺は、さくらさんの部屋に呼び出されていた。
「では、よろしくお願いします」
さくらさんは律儀に頭を下げた。
「ああ、頑張ろうか」
こうして俺は、果たして本当に習ってもない教科を教えることができるかという不安を抱えつつ、さくらさんに渡された教科書を開くのだった。
● ● ● ●
結論から言うと、教えることは容易にできた。理由としては、俺が中学校のときに習った内容と相違ないものだったからだ。物理は
俺のいた時代の教育レベルは、この時代に比べると高い水準だったのかも知れない。
ちなみに俺は物科総合も中学数学も75点くらいだった。人に教えるには微妙な点数だと思うが、かたや17点と22点なので、まだマシだと思いたい。
「で、こうだから、たすき掛けの因数分解を使って、、、」
「たたすき掛けって何?!え、駅伝?マラソン大会?!」
「いや、たすき掛けって言うのは、、、」
などといった会話を交わしつつ、勉強会を進めていく俺たちだった。
● ● ● ●
「そういえばさ、何でいきなり勉強教えてほしいって思ったの?俺のいた時代は5月入ってからテストがあったけど、この時代は違うのか?」
勉強の合間に、俺は気になったことを聞いた。
「いいや、同じくらいだよ。私のところも5月くらい。ただ、苦手教科のわからなかった部分を、早いうちに勉強しておこうと思って」
「真面目だなあ」
かくいう俺は無計画、一夜漬けタイプだったため、彼女の学習意欲というか計画性に感心していた。
「でも、それならあんなに焦らなくてもよかったんじゃないか?」
「それは、、、ほら、やっぱり今まさに大変そうにしてた方が勉強教えたもらえる確率上がるかなーって。演技だよ、演技」
さくらさんはそう言って笑った。
「まあ、その割には結構基礎的なとこもできてなかったけどな」
「そ、それは言わないでよ~っ!!」
隣に座っていたさくらさんが俺の肩のあたりをぽかぽか叩いてきた。
そして、論理表現11点の俺は、その攻撃を静かに受け入れるのだった。
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