第35話 バスの時間変更

 寿司屋を出たのは12時半を少し過ぎたところだった。やっぱり食べ足りないので、デザートを食べようと思った。お土産屋さんの一角に、椅子とテーブルがあって自販機などもあったが、そこは満席だった。ファーストフードのお店があったが、そこには席がないようだ。何かを買って外で食べるという事か。今、この風ビュービューの中で食べるという選択肢はない。

 少し歩いて行って、あれこれ店を見てみた。そば屋などもあるが、予約オンリーだったりする。温泉旅館のようなところもあって風情があるが、案外食べられる所は少ない。少し行くとレトロな喫茶店を見つけた。ここでケーキでも食べられたらいいなと思ったが、外に出ているメニューを見ると、ケーキの類はないようだった。お食事はあるが、それはもう要らないし。飲み物はコーヒー、紅茶、メロンソーダ……ジュースは寒すぎる。カフェインもダメ。ああ、ここには入れない。

 ダメだ、どこにも入る所がない。この辺りでは時間を潰せない。そうだ、バスの時間を1時間早めよう。何も14時までここで待つ事はないではないか。13時のバスが空(あ)いていれば、13時にしよう。

 と言うわけで、また足立美術館のエントランスへ。例のバスの整理券の入っている箱を見に行った。すると、13時の整理券もたくさん入っている。私は14時の整理券を箱に戻し、13時のを取った。そして、バスの待合室へと向かった。

 ……っていうか、ここで1時間前倒しにしたという事は、今朝のタクシーの意味は……無念。

 待合室は椅子が10脚くらい並んでいるだけの空間だったが、風を防げるのが幸せだった。もっと早くからここに入れば良かったくらいだ。本当に風が強くて、しばらく外に立っていたらすぐに凍えてしまいそうだった。

 バスがやってきた。13時のバスだ。私は乗ったが、待合室にいる人達は皆さん14時の整理券を持っているようだった。

「あ、まだ乗れないのか。」

と言っているから、よっぽど、整理券を交換してくればいいと言おうかと思ったのだが、辞めた。すると、運転手さんに聞く人がいた。

「これに乗ってしまってもいいですか?」

と。すると運転手さんは、

「空(あ)いているので、いいですよ。」

と言っていた。それで、数人が乗り、数人が残った。どちらで時間を潰すかの違いだけだから、と。そうだね、この待合室でおしゃべりしているのが楽しくて楽ならば、それもいいかもね。でも、何事あるか分からないから、先へ先へと行っておいた方がいいと、私の危機管理意識が言っている。もし次のバスが遅れたりしたら、前のバスに乗っておけばよかったと後悔してしまうから。

 さて、再びシャトルバスに乗り、安来駅へ向かった。この辺りにも、新しい家が多い。それに、すごく広い敷地に大きな日本家屋が建っているのを2~3軒見た。あれは何だろう。ある意味大豪邸だ。写真に撮りそびれてしまったが。それにしても、最近建った東京の新しい家で、瓦屋根の家はない。だが、島根県で見る新しそうな家は、黒光りする瓦を乗せた日本家屋なのだ。何故だろう。不思議だ。

 13:20頃に安来駅に到着した。帰りの飛行機の時間は決まっている。それまで、この辺りで時間を潰すか、それとも空港へ行ってからか。先に述べた危機管理意識からすると、空港へ早く行った方がいいが、向こうで何もないとなれば困る。早速検索した。すると、米子空港には「すなば珈琲」があるという。すなば珈琲!昔、鳥取砂丘へ旅行に行った際に入ったカフェだ。モーニングが美味しかった。でも、カフェインレスコーヒーはなかったな。まあ、昔だから仕方ないけれど。そのすなば珈琲が米子空港にもあるのだ。鳥取空港にもあったのだが、営業していなかったのを覚えている。でも、米子の方はやっていそうだ。空港には他にも店があるようだし、やはり空港へ行ってしまおう。

 14:57の電車に乗る予定だったのを、13:53に変更する事にした。それでもまだ30分ほど時間がある。まず、先ほど後回しにした写真撮影をしよう。駅舎を外からパチリ。その辺りには石像などもある。安来といえば「安来節」だ。私の義理の妹が民謡踊りをやっているので、安来節もおなじみだ。安来節とはドジョウすくいの踊りなのである。石像は、かわいい猿がドジョウすくいをしているところを象っている。あ、人間のドジョウすくいもあった。その台座には「すくい愛」という文字が。深い。

 自転車置き場のつつじも撮った。それから、駅舎の中に入り、展示してあるドジョウすくいの人形たちの写真も。手ぬぐいで頬かむりをして、みんな陽気だ。

 もうお土産は買わないつもりだったが、土産屋の方に足を運んでみた。ああ、安来節の手ぬぐいがある。義理の妹のお土産には、既に出雲で手ぬぐいを買ったのだ。ウサギ模様の。これも買うべきか悩む。だが、安来節を踊る彼女が、特に安来節をモチーフにした手ぬぐいを欲しがるのかどうか、ふと疑問に感じた為、買うのは辞めた。

 イチゴのジャムやドライフルーツなどが並んでいる。安来はイチゴの産地なのだな。あっ!椎茸がある!たくさん入っていて278円とは安い。それに、先程の赤だしに入っていたのがこの椎茸としたら……欲しい。絶対に美味しいやつだ。これは買いでしょ。

 というわけで、椎茸を買うついでについ苺バターも。「島根県安来産紅ほっぺ使用」と書いてある。普段なら買えないお値段だが、お土産だと買ってしまう750円。でも、国産イチゴで作られているのだから、そりゃ高いわな。椎茸が安くても意味がないような気もするが、とにかく椎茸と苺バターを購入した。

 さて、そろそろ時間だ。トイレに行き、スーツケースを返却してもらい、買ったお土産をスーツケースにねじ込み、ホームへ。忘れずにスイカをピッとやって。これをしないと出る時に困るから。

 と思っていたのだが、それがそうでもなかった。でも、この時には知る由もない夏目碧央であった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る