第5話 狂気こそ最大の凶器

 

 

「ヤッ!ハッ!」 

「どっせぇい!」 

「シッ!」 

 

 川のほとりにそれぞれの掛け声が響く。

 何をしているのかというと、訓練だ。テイムによって全員の身体能力が強化されたのでそれに慣れるためである。

 掛け声は無くてもいいと思うんだけど、本人たちがやる気満々だし放っておこう。

 わざわざ川のある場所まで来たのはすぐに汗を流すためだ。アジトにはお風呂もシャワーも無いからね。

 

 僕は皆の様子を少し眺めてから、離れたところで自分の訓練に集中する。

 アニフィや山賊をテイムした時は身体能力が少し上がった、だがルナールの時だけは少し特殊だった。

 常時力が強いというわけではなく、意識した時だけ上乗せされる。感覚的には力を解放するというところか。 

 試しに少しだけ解放してみる。10%開放。

 ......ぐぅっ!おいおい、10%でこれかよ!まだ10歳とはいえ、ずっと鍛えてきたのに......。

 僕はニヤリと笑った。いいね、そうこなくちゃ。

 20%解放!


「——っ!?」


 全身の筋肉が悲鳴をあげている。これではまともに戦うことすら出来ないだろう。 

 いいだろう......30%解——!?


「ガハァッ!............ウッ......!」


 僕はたまらずに崩れ落ちて胃の中の物をぶちまけてしまった。


あるじ!大丈夫か!?」

「ハァハァ、ハァ......クソッ」


 まさか30%開放することも出来ないなんて......。いきなり全開にしなくて良かった。


「まったく、無茶をするでない。一部とはいえ妾の力をただの人間——それも10歳の子供が使うなど無謀というものじゃ」

「今の自分の限界を知りたかったんだよ。まさか30%も開放できないとは思わなかったよ......」

「それ以上続けておったら、体の前に心が壊れておるところじゃぞ」

「まだまだ鍛えかたが足りないかぁ。今まで我流だったし仕方ない。少しずつ慣らしていくしかないか......」

「何故それほどまでに強さを求める?戦いなど妾たちに命じれば良いではないか」

「それじゃダメだよ。僕が死んじゃったら世界は変えられないし、楽しめない。それに......こんな素晴らしいモノ、試さないともったいないじゃないか!」

 

 とはいえ、現状だと10%でもきつい。

 鍛えるにしても、この力に耐えれるレベルとなると何年かかるか分かったもんじゃない。さて、どうするか............あ。閃いちゃった!

 なにも筋トレばかりする必要ないじゃないか。だって僕にはテイムがあるんだから。もっと眷属を増やせばいいんだ!そうすれば身体能力は上がる。まぁ体を慣れさせるための訓練は必要だけど。

 ......とりあえず今日の所はもう動けないから水浴びして帰ろう。

 全身が痛すぎて水浴びするのもひと苦労だよ......。

 アニフィ、その触手便利そうだね......僕も触手出せたりしないかな。触手って筋肉痛とかあるのかな。

 

 

 



   *    *    *


 

「ふんふんふ~ん」

「あら、あるじ様。何作ってるの?」

 

 訓練を終えて戻って来たアジトで、作業中の僕に話しかけてきたのはシーニュだった。

 ルナールが「眷属ならば眷属らしく、主様と呼ばんか!」と一喝したことにより、僕の呼び名は主で統一されてしまった。

 なんでもいいよと思っていたけど、よく考えてみれば人前でうっかりラモールと呼ばれてしまえば伯爵家にバレてしまう可能性もあるからちょうどいい。

 

「これはね......地図だよ!」

「地図?」

「うん。あると便利なんだよ~」

 

 というか逆に無いと不便すぎる。なんと、この世界には地図という物が無いらしい。どこかにはあるかもしれないが、たいていはこっちに何日行けばどこの街がある程度の認識なのだそうだ。

 ならば僕が作ってしまおう!ということで鋭意製作中である。

 方法は単純。毎度おなじみフクロウのシエルに飛び回ってもらい、視界共有で得た情報を元に描いていくだけだ。

 ちなみに紙とペンは伯爵家から借りて盗んできた。シエルとアニフィで行ってもらって、隙を見て侵入。収納。離脱。完璧だ。

 隙だらけなんだけど大丈夫かな、伯爵家。まぁ対価果実を置いてきてもらったし許してくれるよね!

 ついでに書斎の様子を覗いてみたら、伯爵が「何もかも終わりだ......怒りを鎮めるにはどうしたら......」なんて頭を抱えていた。ドンマイ!


  実際に描き起こしてみるとなかなかに面白い。森があるからか、道はしばらく1本道だ。

 そしてこの森がデカい。ルナールがいるからか人の手が入らずに成長を続けているのかもしれない。

 そして森の反対側には街があるのだが、間には大きな崖がある。なるほど、この崖のせいで向こうから人は来ないのか。

 

「......とりあえずこんなものかな」

 

 街の名前とかは分からないのでおいおい書き込むとしよう。そういえば自分が生まれた街の名前すら知らないや。軟禁されていたし仕方ないけど。

 

「......スゲェ。こんなもんまで作れちまうのかよ」

「この才能を手放すなんてバカなことをする伯爵様もいるもんだな」

「あ、そういえばさ。冒険者とかっているの?」

「ええ、いるわよ。主様は冒険者に興味あるの?」

「ん、まぁね。資金調達と、あとは仮の身分も必要だし?」

 

 仮の身分ってなんかカッコイイな。

 今の僕はただの浮浪児だし、異世界といえば冒険者だ!

 それならあまり個人の事情とかも突っ込まれなさそうだし、旅をするにもちょうどいい。

 

「それもそうか。......俺達も何か仕事探さないとな」

「んー、それでもいいけど、皆には実働部隊になってほしいんだよね。アニフィを通して指示は出すから」

「......フッ、世直しをする部隊か。面白い」

「その部隊っていうか組織?名前はないの?」

「名前かぁ。たしかにあったほうがいいよね。うーん......」

 

 僕たちの目的......みんなを笑顔にする......悪を懲らしめる......綺麗にする......。


「世界を掃除するってことで”スウィーパー”なんてどうかな?」

「スウィーパーか。いい響きだな」

「なんか強そうでいいっす!」

「じゃあ、今から私たちはスウィーパーね!」


 ネーミングセンスが無いことは分かっているから自身無かったけど、受け入れてもらえたようだ。

 というか単純に意味が伝わってない説ある?英語とか分からないよね?山賊だし。

 ま、気に入ってもらえたならいっか。


 陰に潜み、汚いものを掃除して、綺麗で住みやすい世界を作ってやろうじゃないか。


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