マーギンの知らないかもしれない魔物

ゴイル達だけで対応出来ない魔物が出た時の事を考えるが、王都まで連絡をして、それから特務隊がすぐに応援に出たとしても間に合わないだろう。その事をゴイルに伝える。


「そうだよな、距離の問題はなんともし難いな」


ミスティとシャーラムに来る時は転移魔法有りきだったならな。あぁ、憂鬱な思い出。


「やっぱりここで対応出来るようにしとかないとまずいね」


「まぁ、日頃出る魔物ならうちの村の者でもなんとかなるんだがな。ミャウ族の言ってる新たなる魔物ってのが気になるんだ。ワー族でも殺られる魔物なら相当強いはずだからな」


「そうだね。ミャウ族は魔法攻撃が出来る人が多いんだろ? どれぐらいの威力があるか分からないけど、ワー族の戦闘能力と魔法攻撃でも対応出来なかったのならヤバいね。どれぐらいの大きさの魔物だったんだろうね?」


「そこまで詳しくは知らん。長老が話を聞いたから、今から聞きに行くか?」


ということで長老の所へ。今回は一人ではなく皆も連れて行く。カタリーナと特務隊も繋がりを持っておいた方が良いだろう。



「おぉ、使徒様。また来て下さったのじゃな」


使徒様? と皆が俺を見る。


「だからそれは違うって言ったじゃん」


「いや、このタイミングで来て下さったのじゃ。やはり使徒様としか思えんぞ」


「マーギン、使徒様ってなぁに?」 


カタリーナは聞き慣れぬ使徒様が気になるようだ。


「タイベの昔話に神様の使いが来て、困難を解決してくれたという言い伝えがあるんだよ。その神様の使いが使徒様と呼ばれているんだ」


「わーっ、マーギンすっごーい。神様の使いだったの?」


「違う」


なぜすぐにそんな話を信用するのだ。


カタリーナには長老との話が終わるまで黙っとけと言ってから長老にミャウ族の話を聞く。


「うむ、新たな魔物は腕が4本有り、鋭い爪と尖った牙を持ち、ワー族の攻撃も炎魔法の攻撃も効かなんだらしい」


腕が4本? 何の魔物だろうか? 鋭い爪と尖った牙を持つ魔物は多い。


「大きさと色は分かる?」


「大きさは人より少し大きく、黒い魔物だったそうじゃ」


うーん、それだけだとわからんな。しかし腕が4本か。まさか魔人じゃないだろうな?


マーギンは勇者パーティー時代に魔人と呼ばれる者がいた事は聞かされてはいたが、実物は見たことがなかった。魔王も人型だったから、魔人は魔王の直接の配下なのだろうか? と勝手に想像していたぐらいなのだ。


「マーギン、なんの魔物か想像が付くか?」


とゴイルが聞いてくる。


「いや、腕が4本ある魔物とか知らないな」


「マーギンでも知らない魔物なのか」


と、ローズは何でも知ってるマーギンですら知らない魔物がいるのかと驚いている。


「俺も全部を知ってるわけじゃないからね。新たなる魔物なのか単に俺がまだ遭遇していない魔物なのか、それとも見たら分かる魔物なのか不明だね。ただ、攻撃魔法を使える者とワー族が殺られたのならかなり強くて厄介な魔物なのは間違いない」


「ワー族とはそれほど強いのか?」


「ワー族というのは真なる獣人ともいってね、いくつかの種族に分かれるんだけど、姿形が狼とか猫とかで俺達とは異なるんだ」


「獣なのか?」


「それをワー族に言ったらめちゃくちゃ怒られるかな。もし出会ってもプライドも高いから絶対に獣呼ばわりするなよ」


と、獣なのかと聞いたローズと皆にもくれぐれも獣呼ばわりするなよと言っておく。パンジャに居たフードを被ったSPみたいな奴らがワー族ならここに又来るかもしれないからな。



「長老様、お土産たくさん持って来たんだけど、一緒に食べない?」


魔物の話が一通り終わったので、飯でも食いながら話の続きをしてもいいなと思って誘ってみる。


「ワシは足も歯も悪いからの。気を使ってくれなくても構わんぞ」


「マーギン、長老は粥と塩煮の魚ぐらいしか食べんぞ」


「肉は嫌い?」


「肉は硬いでの」


「なら柔らかくするから。嫌いじゃなかったらそれも食べよう。魚もいつもと違う味付けにしてみるし」


そしてたまには外に出ようと、ゴイルにおんぶさせて外に出た。


マーギンは絹引きのマギュウハンバーグと、鯛の煮付けを作った。皆はまた焼き肉だ。


「うむ、肉がこんなに柔らかくなるとはのぅ」


長老はハンバーグをおろしポン酢で旨そうに食べ、鯛の煮付けを食べて目をカッと見開いた。


「なんじゃこの味はっ」


「嫌いだった?」


「いや、こんな旨い煮魚は初めてじゃ」


「それは良かった。醤油という調味料を使ってるんだけどね、量産の目処が付いたからお土産に樽で持ってきたんだ。後でゴイルに渡しておくよ」


そう言うと長老は嬉しそうな顔をした。やはり年寄りには魚の煮付けが口に合うのだろう。



ズシン ズシンっ


「誰かと思ったらマーギンが来てたのー? あーっ、先に食べてるーーっ」


「マ、マーギンっ。なんだあの化け物はっ」


「あれは化け物じゃないよ。象という動物だ。子供の頃からここで可愛がられて育ってるから大人しいぞ」


「待って、待って、待ちなさいっ」


象のハナコの上に乗ってるのは巫女のマーイ。いつもならよく言うことを聞くのに、マーイの指示を聞かずにズンズンとマーギンのすぐ側に来る。


「おー、ハナコ。久しぶりだな。俺の事を覚えてるか?」


と、マーギンがハナコに挨拶をすると鼻をマーギンに巻き付ける。


「もうーっ、甘えるのは後にしなさい。先にしゃがんで下ろして」


マーイがそう言うと、ハナコはマーギンに鼻を巻き付けながらしゃがむ。


「マーイ、どこに行ってたんだ?」


「漁に使う網の繕いの手伝い。ソードフィッシュが出て、ボロボロにされたのよ」


マーギンはハナコの鼻を撫で撫でしながらマーイと話す。


「ソードフィッシュが出てんのか」


「うん、大きいやつだから厄介みたいよ。で、今回は一緒に来たメンバーが違うのね」


マーイにも皆を紹介する。


「わぁー、可愛い娘さんと美人さんだねぇ。男の人もみんなカッコいいね」


「皆貴族だからな。お育ちの良さが出てるだろ?」


「えっ? そうなの? 普通に話して大丈夫かな?」


「問題ないよ」


「長老も外に出てるの? 珍しいーっ。あっ、なんか美味しそうなの食べてる。ちょっともらおうっと」


ゴイルと違って長老に気を使わないマーイは長老の鯛の煮付けを勝手に食べる。マーイとカタリーナってなんか似てるような気がする。蝶よ花よと育てられるとこんな風になるのだろうか?


「ハナコ、お土産をやるからそろそろ離してくれるかな?」


ハナコはマーギンを鼻で巻いたまま離してないのだ。


マーギンはマジックバッグからリンゴを出してハナコに与えると嬉しそうに食べた。


「マーギン、ハナコに贅沢させるなって前に言っただろうが」 


と、ゴイルが怒る。


「1個だけだって。箱でリンゴとナシをお土産に買って来てるから後でみんなで食べて」


「やったーっ!」


喜ぶマーイ。王都組は南国フルーツを喜ぶから無いものねだりだな。


飯もそろそろ食い終わるので、脱穀機と精米機の話をする。


「今回、米用の魔道具を持って来たんだよ」


「お、そうだ。頼まれてた草も大量に刈り入れたし、米もモミにしてあるぞ」


「ありがとう。明日、持ってきた魔道具を使ってみせるよ。時間取れるなら作ってもらった米で餅つきしようか」


「餅つき?」


「そう。好きか嫌いか分からないけど、試してみて」


ゴイルの家に泊まれと言われたけど、前みたいにテントで寝る事に。やっぱり人の家って気を使うんだよね。


前にテントを張った場所に行くと風呂もガゼボもそのままだったので、追加で小屋タイプの女風呂を作った。


女湯に湯を溜めてから男風呂に洗浄魔法を掛けてお湯を溜める。


「男風呂は大きいんだね」


と、カタリーナがこっちの風呂も見に来る。


「みんなで入れるように作ったやつだからな。女風呂は女3人だからあの大きさで十分だろ?」


「うちは水着を着てこっちに入ろ」


「ハンナ、お前も女風呂に入れ」


「えーっ、こっちの方が広いやん」


そんな事をしたらカタリーナもこっちに入りたいとか言い出しかねんだろうが。


マーギンはハンナリーにあっち行けシッシッとして、軽めの白ワインをキンキンに冷やしていく。


「風呂で飲むのか?」


「ちい兄様も飲む?」


「交代で見張りをせねばならんのに、あまり飲むとまずいだろうが」


「村の中は見張りいらないよ。前に来た時も何事もなかったし、虫除けになる草もその辺にたくさん生えてるから、虫系の魔物も寄って来ない。寝る時には蚊取り線香も焚くしね」


「大丈夫ならもらおうか」


「風呂で飲む酒って旨いんだよねぇ」


と、オルターネンと話していると、その話を聞いたサリドンとホープも飲みたいらしい。


「おーい、果物持って来たよーっ」


そして風呂に入る準備をしていると、向こうから水着で走って来るマーイ。俺達が絶対に風呂に入ると確信してきたようだ。マーイの後からゴイルも来ている。


ビキニ姿で走って来たマーイを見てオルターネン達はぎょっとする。そして視線をそらした。


「マーイ、女湯も作ったからそっちに入れ」


「えーっ、水着を着てきたからいいじゃない」


「俺しか水着を持ってないんだよ。ちい兄様達はフル◯ンになるんだぞ」


「タオル巻けばいいじゃない」


「マ、マーギン。俺たちは後で入るから」


オルターネン達はそそくさとテントに逃げるように入っていった。


「あれ? 迷惑だったかな?」


「マーイの水着姿が刺激的だったんだよ」


「えーっ、店で踊る時も似たような格好じゃない」


「そうかもしれんが、女慣れしてないちい兄様達は恥ずかしいんだよ」


「貴族ってのはそんなものなのか?」


と、ゴイルも不思議そうだ。


「貴族の女性は極力肌を見せたらダメみたいだからね。マーイの水着姿は裸と変わらんのだろ」


「マーギンも私をそんな目で見てるの?」


「見てない。前も一緒に入っただろうが」


「だよねーっ。でもさっ、あの美人さんならそんな目で見るの?」


「みっ 見ない」


マーギンはこの手の事は誤魔化すのが下手なのだ。



ー特務隊のテントの中ー


「飯を食ってた時もあの娘は露出が多いとは思っていたが、あんなの裸同然じゃないかっ」


ホープはマーイの水着姿を見てドギマギしていた。サリドンも顔が真っ赤だ。


「ここでは普通なのかもしれんが目のやり場に困るな」


オルターネンは赤くなってはいないが、目のやり場に困っていたのだ。



ー女風呂ー


「うわっ、ローズってめっちゃ凄い身体してるやんかっ(腹筋)」


「みっ、見るなっ」


「ねーっ、ローズってすっごい身体してるでしょっ(腹筋)」


「姫様っ」


キリリと引き締まった腹筋をカタリーナに撫でられて慌てて隠そうとするローズ。


女風呂が小屋になってるといっても扉で完全に閉じられているわけではないので声は外に聞こえて来る。


特務隊のテント中では真っ赤になっているホープとサリドンにオルターネンが耳を塞げっと怒鳴り、外の風呂ではマーギンがワインを風呂の中にこぼしていたのであった。


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伝説に残らなかった大賢者 しゅーまつ @shumatsu111

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