精米機のリサーチ

イルサンではグリーンカレーを食べた後に米を扱っている店に行く。


「ねぇ、マーギン。何しに行くの?」


カタリーナはずっとこんな感じだ。護衛をするとは言ったけど、お守りをするとは言ってないんだけどな。


「今回は商売の話をする為にタイベに来たからな。精米機という魔道具の需要があるか調べなきゃなんないんだよ」


「精米機ってなぁに?」


「玄米から糠を取る魔道具だ」


「糠ってなぁに? どうしてそれを取るの?」


カタリーナのどうしてどうして攻撃にもう結構限界のマーギン。しかし、うるさいっと言う訳にもいかない。こういうのも社会勉強に繋がるかもしれないからだ。


「フェアリー、晩飯の時にちゃんと説明してやるから今は黙って見とけ」


マーギンはうんざりパラメーターを下げる為に一旦カタリーナを黙らせた。



「すいませーん」


「はい、毎度。何をお探しで?」


「味噌と米が欲しいんだけど、それ以外に需要があるかどうか調査に来たんだよ」


「何をおっしゃってるのかさっぱりわかりませんが?」


「米を旨くする魔道具を開発したんだけど、タイベで売れるかなと思ってね」


「米を旨くする魔道具?」


「そう。この米を見て」


と、マーギンは精米済の米を見せた。


「ずいぶんと白い米ですね」


「これはここで買った米なんだよ」


「えっ?」


「春にここに来て味噌と米を大量に買ったんだけど」


「あーーっ、あの王都から来た黒髪のお客さんでしたか」


「そうそう。で、今回は米を旨くする魔道具が売れるかどうか聞きたいんだ」


「白くなると旨くなるんですかね?」


「とりあえず一袋買うから試してみようか」


マーギンは米を30kg袋を購入し、精米機をドンっと出して精米する。ゴウンゴウンゴウンと魔道具が動いて、ザラザラザラザラと白米になって出て来た。


「米の周りの茶色いのを取ったらこんな白米になる。栄養は減っちゃうけど、米の旨さはこっちの方が上だ。で、周りの茶色いのが糠といって、鶏の餌に混ぜてもいいし、糠漬けを作るのに使ってもいい」


「はぁ」


意味が分かっていない店の人。


「で、白米を炊いたのがこれだ。食べてみて。味付けは塩だけだから」


マーギンは作り置きの塩にぎりを渡した。


「むっ、これが米ですか。ぜんぜんベチャベチャしてませんね」


「それは白米にしたのと関係ないんだけどね。短粒種は茹でるんじゃなくて炊かないとダメなんだよ。これは米を炊く魔道具」


マーギンは自分の炊飯器を見せた。


「これで米を調理するんですか?」


「そう。短粒種用だけどね。実演してみようか? 炊き上がるまで小一時間掛かるけど」


商売の話もあるのでその間に炊き上がるだろう。


精米したての米を何度か研ぎ、炊飯器にセットする。


「これで小一時間待つと食べられるから」


店の人は精米機より炊飯器の方に興味があるようだ。


「これも販売されるので?」


「王都では米はまだ売れてないから販売予定はないけど、そのうち売るとは思うよ。ここまで高性能のやつじゃないと思うけど」


「性能を落としたやつを売るんですか?」


「これは夜にセットしておいたら朝には炊けていて、そのまま保温出来る機能がある。これを売ると15万Gぐらいになっちゃうからね。そこに王都からの輸送料も追加になるから30万Gとかになる。米を食うのにそんなに金を払えんだろ?」


「た、確かに」


「米を炊くだけの物ならもっと安く出来るから、その方がいいんじゃないかと思うぞ」


「なるほど」


「それに米は鍋でも炊けるから、魔道具にお金を払う人は少ないかもね」


タイベは物価も安いが収入も低い。魔道具の店がないのはそれが原因なのだ。


「で、精米機は業務用だから、米をたくさん売る店にはあった方がいいんじゃないかと思うんだよ」


「この魔道具はいかほどで?」


「本体価格は100万G。それプラス輸送料が必要だから、150万Gとかになるだろうね」


「そんなにするのですかっ」


「これでも魔道具を売る方はあまり利益がないんだぞ。まぁ、この魔道具にその価値が無いと思えばそれでもいいよ」


マーギンはそこまで話して、マギュウカルビのタレ焼きの準備を始めた。


「米を食べるのに肉を焼いて来るよ」


外に出てマギュウカルビを焼くと、とてもいい匂いが周りに漂う。


「ようっ、その肉はなんでこんな旨そうな匂いをしてんだ?」


と、通りすがりのおっさんが声を掛けて来た。


「これは焼き肉のタレをつけて焼いてるからな」


「焼き肉のタレ?」


「そう。俺が作ったタレだ。ほら、焼けたから食ってみるか?」


「いいのか?」


「わざわざ声を掛けて来たんだ。食ってみたいんだろ?」


「おっ、おお、悪いな」


おっさんにあーんして食べさせるのは嫌なので、手の上に乗せてやる。


「熱っ」


と、言いながらも手で食べるおっさん。


「旨ぇっ。こんな味は初めて食ったぞ。それになんて柔らかい肉だ!」


「これは特別な肉だからね。滅多に手に入らない肉なんだよ。ラッキーだったなおっさん。王都ならその一切れで1000Gはするぞ」


「げっ、マジかよ」


「金出しても手に入らないから、貴族に売ればもっと高くなるかもしれん」


マーギンはそう言って、焼けた肉を皿に乗せて店の中に戻る。するとちょうど米も炊けたタイミングだった。


「お待たせ。まずは米だけ食ってみて」


炊きたてご飯を器に盛り渡す。


「ふっくらとして何とも言えない甘みがありますね。うちで売ってる米とは思えません」


「だろ? で、ホカホカご飯と焼き肉の組み合わせは最高だぞ」


と、マギュウカルビ焼き肉の皿を渡す。


店の人はまず焼き肉の旨さに目を丸くし、タレの余韻が残った口で米をかき込む。それからは肉米肉米のコンボが止まらず、一気に食べきった。


「こんな旨いものは初めて食べました」


「だろ? で、米を精米する機械の需要はありそうか?」


「うーん、購入をしたいのは山々なのですが、150万Gとなると……」


ここでは米自体もかなり安いからな。


「よう、兄ちゃん。店の奴が食ってた米を俺にももらえないか」


今の様子を見ていた肉を一切れあげたおっさんが後ろから米も食ってみたいと言ってきた。


「じゃ、米だけ食ってみる?」


と、器によそって渡す。


「むっ、これがここで売ってる米か?」


「そう。精米機といって米の周りの茶色いものを取る魔道具が売れるか調べに来たんだよ」


「その魔道具はいくらだ?」


「多分150万Gぐらいになると思う」 


「かなりしやがるんだな」


「新開発の魔道具だからね。王都じゃまだ米を食う文化がないから、まずはタイベでと思ったんだけどね。そのうち家庭用の小さくて安価な物も作るとは思うけど」


「小さいものは一度にどれぐらいの米を白く出来るんだ?」


「家庭用なら一度に5〜600gくらいかな」


「ずいぶんと少なくなるんだな」


「精米すると米の味がどんどん落ちて行くからね。手間だけど毎回食べる分だけ精米するのが一番いいんだよ。店だとそんなわけにはいかないから、30kgを一度に精米して、小分けして売るとかになると思う」


「それを頼んだらいつ頃手に入る?」


「最短で来年の春だね。来年の春か夏には領都に魔道具を扱う店を作ろうと思ってるんだ。その店が出来たら、そこで注文を受けてから生産して運んで来るから、通常なら来年の秋になる。最短なら俺が今注文を受けて、春に持って来ることになる」


「今すぐに150万Gは無理だなぁ」  


ん? 買うつもりがあるのか?


「おっちゃんも米屋してんの?」


「いや、食堂だ。どこも似たような飯だからなんか差別化出来ねぇかと思ってんだよ。あの焼き肉のタレは売らないのか?」


「あれは醤油という調味料をベースに俺が作ったタレだから市販はしてないよ。醤油は量産が始まったから販売は可能だね。ただタイベに持ってくると高くなるねぇ」


「醤油ってなんだ?」


「タイベには魚醤があるだろ? あれを魚じゃなくて大豆から作ったんだよ。 焼おにぎりにして食べてみるか?」


「頼む」


炊けた米を握って、さっき焼き肉を焼いた炭でおにぎりを焼く。そこに醤油を塗って焼き塗って焼きする。醤油の焦げてくる匂いはたまらんね。


こんがり焼けた焼きおにぎりを店の人と見知らぬおっさんに渡す。


「旨いっ」


「だろ? 醤油はこうして焼き物にも使えるし、汁物や生魚の味付けにも使える。 他のものと混ぜて焼き肉のタレとか焼き鳥のタレとか色々なものに使える。甘い物にも合うんだぞ」


「こんなしょっぱいものが甘い物と合う?」


「あぁ、試してみるか?」


マーギンは作ってあったうるち米と餅米の粉を混ぜただダンゴ粉。それを水でこねてダンゴにして茹で、串に刺して焼いていく。タレは醤油に片栗粉と砂糖を混ぜてみたらし餡に。


水を出したり、鍋で湯を沸かしたりするのを魔法でやったので驚くおっさん。


「お前、まさか魔法使いか?」


「そう。本業は魔法書店の店主だ。魔道具の回路も組めるぞ」


「すげぇなお前。で、タイベでは魔道具の店をやるのか?」


「やるのはこいつ、俺は手伝ってやってるだけだ」


「は? こんな嬢ちゃんが店をやるのか」


「そう。こいつはハンナリー商会の商会長だ。タイベと王都の流通と店をやる予定にしている。なんかあれば贔屓にしてやってくれ」


「そうか。新しいものが入ってくるならよろしく頼むわ」


「へへっ、よろしゅうな」


ハンナリーにはとりあえず余計な口を挟まずに、俺のやることを見とけと言い聞かせてあるので黙っていたハンナリー。


「ほら、出来たぞ」


皆の分も焼いたので一人一本ずつみたらし団子を渡して試食。


「しょっぱい調味料が甘くなっても旨ぇ」


「マーギン、これおいひいっ」


「慌てて食うなよ。喉に詰まるぞ」


餅や団子は口から出るほど食うと危ないからな。


「お客さん、米を粉にしたらこんな風になるんですか?」


と、店の人。


「これは半分はここの米。もう半分は餅米という違う米を粉にして混ぜたんだ。ここの米だけでも作れるけど、こんな食感にはならないね」


「餅米?」


「そう。餅米は売ってないから、ナムの村で作ってもらってる。俺達が食う分しか頼んでないから分けてあげられないけどね」


「ナムの村? もしかして先住民の村ですか?」


「そうだよ」


「先住民と繋がりがあるんですか?」


「そうだけど、どうして?」


「いや、揉め事はないのですけど、先住民と付き合うのは難しいと聞いてますので」


「パンジャに行くと先住民もたくさんいるけどね」


「パンジャに住む王国民は変わり者も多いですから」


と、苦笑いをして何やら言葉を濁す店の人。ちょっと差別的な意味が含まれているのかもしれない。


「みんな気の良い人達ばかりだったよ。餅米の生産も快く引き受けてくれたしね」


「その米は来年には手に入りますか?」


「どうだろうね。餅米は他の米の近くで作ると普通の米と同じようになっちゃうんだよ。だから他の田んぼと離して生産してもらわないとダメだから、あまり作れないかもね。俺も生産を頼んで前払いしたから」


「そうですか。それは残念です」


「ここの米でも作れるからそれでいいじゃん」


「米を粉にするだけですか?」


「洗った後水に半日ほど漬けてから乾燥させて、フライパンで焦げない程度に炒るんだよ。それを粉にするだけ。揚げ物とかにも使えるから需要はあると思うぞ」


「お客さん、物知りですねぇ」


「色々と研究したからな。精米機の件はすぐに結論出ないだろうからまた来るわ。次に来るのはこいつになるだろうけど、こいつは魔道具を作れないから、詳しい事は分からんと思う。販売するだけになるからな」


「わかりました。色々とありがとうございます」


米屋の人と食堂をやっているおっさんが何やら話をしていたから、共同購入とかするのかもしれんな。何ヶ所か集まれば買えるだろ。


タイベの人でも白米の方が美味いと感じるなら需要はありそうだなとマーギンは思ったのであった。




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