和解

翌日、領主邸に全員で向かうと使用人総出で玄関前で跪いている。そしてその真ん中で領主が跪いてカタリーナを出迎えていた。


「カタリーナ姫殿下、ようこそタイベへ。お待ち致しておりました」


恐らく隠密が今日カタリーナが来ると連絡を入れたのだろう。


「こんにちはーっ」


仰々しい出迎えに対して軽い挨拶のカタリーナ。


「エドモンドさん、そんなに畏まる必要ないですよ」


と、勝手に「楽にせよ」と言わんばかりのマーギン。


「はっ」


いや、俺にもそんな態度を取らないで欲しい。


「取り敢えず中に入れてもらっていいかな?」


「こちらへどうぞ」


貴族がこういう態度を取るのを見ると、カタリーナってやっぱり姫様なんだなと実感する。


応接室でも堅苦しい対応なので、とっとと用件を済ませることに。


「エドモンドさん、明日に海賊達を釈放してもらって引き受けようと思ってるんですけど、いいですか?」


「もちろんです。ぜひ真っ当な人生を歩ませてやって下さい」


いや、だから俺にはそんな態度を取らなくていいんだよ。


それから特務隊とローズを紹介して、魔物討伐の話をする。


「ハンター組合と連携することになってるんですね」


「マーギン殿の進言通りに事を進めております。街や村の魔物討伐報酬に関しては領から補助を出して対応します。組合は基本その依頼を断らない事になりました」 


「順調に進んでいるようで何よりです。ちなみに先住民からはハンター組合に依頼を出したりしますかね?」


「それはどうでしょうなぁ。可能性があるとしたらパンジャの組合ぐらいですかな。ただ先住民はあまりお金を持っておりませんので、低額の報酬では依頼を受けるハンターはいないでしょう」


「領から補助を出したりとかは?」


「それをすると先住民からも税を取らねばならなくなります。無税の代わりにこちらも何もしないというのが基本ですから」


それもそうか。


「タイベで海の魔物への対応はどうしてます?」


「海の魔物はいるにはいますが、人的被害が出るのは稀で、被害があるのは漁師ですな」


「何が出ます?」


「ソードフィッシュです。網を斬られるので漁がしばらく出来なくなるのです」


あいつか…


「マーギン、ソードフィッシュってなぁに?」


と、カタリーナが質問してくる。


「ソードフィッシュってのはな、先端が剣みたいになってる魚だ。頭を振って獲物を斬り刻む。人でも近付くとヤバいんだぞ」


「へぇー、そんなのいるのね。釣れるかな?」 


カタリーナはまだ釣りに未練があるようだ。


「釣りでは無理だな。糸なんか簡単に斬るから、基本は銛で突くんだ」


「美味しい?」


「白身であっさりした身だな。フライにすると美味いぞ」


「マーギン殿、ソードフィッシュは食べられるのかね?」


「身をほぐして固めてフライにするんですよ。タルタルソースと一緒にパンで挟んで食べると美味いですよ」 


「そうでしたか。存在は知っていたのですが、見たことも食べた事もありませんでした」


「干してもいいんですよ。保存食にもなりますから。水で戻して料理に使うと美味いですよ」


「そうですか。最近数が増えているみたいですので、上手く捕まえる事が出来れば名産になりそうですな」


「漁師が使う網に補助金を出したりします?」


「漁師に補助金?」


「そうです。これから生産を開始する糸がありましてね。その糸は刃物でなかなか切れないんですよ」


「そのような糸があるのですね」


「はい。その糸を使って網を作ればソードフィッシュに網が斬られないと思います。ただ値段が高くなりそうなのでタイベの漁師には買えないかもしれません。領からの補助金があればいいですね」


「うーむ、一つの職種だけに補助金は難しいですな」


「ソードフィッシュの干した物が特産になれば税収も上がると思うんですけどね。北西の辺境領とかで人気が出るかもしれません」


「本当かね?」


「内地になると海の魚は手に入りませんし、塩もそれなりに貴重になるでしょ?ソードフィッシュの干したやつなら、塩抜きした後でも塩味が残りますので、塩を使わなくて済むのですよ」


「なるほど」


「ソードフィッシュは魔物です。普通の魚と違って自然に減っていくことはありません。討伐する方法を確立しないと、漁業は壊滅するかもしれませんね」


「そんなことになるのかね?」 


「今回ライオネルの遠洋漁場で大型クラーケンが出ました。船が遅れていたのはそのせいなんです。陸地で魔物が増えているのと同じようにこれからは海の魔物も増えて行くでしょう。海の魔物が出ても陸地に逃げれば問題ないので人的被害は出ませんが、タイベで漁業が出来なくなると死活問題になります。まぁ、補助金を出してもソードフィッシュが売れれば税収で戻ってくると思いますよ」


「ではそちらは検討材料として考えておきましょう」 


そして次の話題はカタリーナの件に移る。


「姫殿下はいつからいつまでこちらで滞在予定にされますか?」


「えっ?」


「特務隊が魔物討伐をされる間、姫殿下はこちらに滞在なさると伺っております」


「マーギン、どういうこと?」


「俺とハンナリーがタイベに来たのは、海賊達を釈放して仕事の準備をする為だというのは理解しているよな?」


「うん」


「特務隊は見知らぬ魔物の討伐訓練の為にタイベに来たんだ。で、俺は魔物の事を特務隊に教えなければならない」


「この前やった訓練と同じようなこと?」


「そう。で、お前はその時に邪魔になるからここで預かってもらうんだよ」


姫殿下をお前呼ばわりした挙げ句、邪魔者扱いをしたマーギンにぎょっとするエドモンド。


「えーっ、一緒に行きたいっ」


「タイベの森は蒸し暑いし、虫とか蛇とかがたくさんいるんだぞ。それに王都近辺と違って危険度が高い」


「私だけここに残るのいやっ」


「それでも付いて来たいのか? あんまり楽しくないと思うぞ」


「一緒に行きたいのっ。私も連れてって」


「はぁ、しょうがないな。エドモンドさん、という理由なのでカタリーナの滞在はなかった事にしてもらっていいですか?」

 

「姫殿下を魔物が出る森に同行させるつもりかねっ」


「俺が護衛に付きますからなんとかなりますよ。それより酔いつぶれておんぶさせられたりする方が厄介です」


なんの事か意味が分からないがエドモンド。


「エドモンド、マーギンとローズが私を守ってくれるから問題ないわっ」 


「し、しかし姫殿下……」


「大丈夫っ! マーギンが一緒に来て良いって言ってくれたんだから大丈夫なのっ」


めっちゃ嬉しそうな顔の姫殿下からこう言われてはこれ以上どうする事も出来ないエドモンドはわかりましたと答えたのであった。



夕食をご馳走になり、一泊させてもらった翌日に海賊達を釈放する。 



「おー、勢揃いするとやっぱりたくさんいるな」


「マーギン、今回の事は感謝する」


マーロックがマーギンにお礼を言うと、他の海賊が一斉に、


「ありがとうございやした親分っ」


誰が親分だ。


「マーロック、貨物船の所に行くぞ」


「何をしにだ?」 


「お前ら何度も貨物船を襲っただろ? 詫びを入れに行くんだよ。こういうことはキチンとしておけ」


と、マーギンはゾロゾロと元海賊を引き連れて貨物船の所へ。その姿はまんま親分だ。


貨物船の所に行くと、荷物の積み込みをしていた船員がぎょっとする。


「クック船長いる?俺はマーギンってもんだけど」 


そう言うと慌てて走って行き、クックを連れて来た。


「マーギン、こいつらが海賊か?」 


「元海賊ね。ほらマーロック、こちらがクック船長だ」


マーロックにクックを紹介すると。


「俺は元海賊の頭、マーロックだ。これまでの事を謝りたい。荷物を奪って怪我をさせたりしてすみませんでしたっ」


そうマーロックが頭を下げると、部下達も一斉に頭を下げて、すいませんでしたっと大声で謝った。


「頭を上げろマーロック。お前らがなぜ海賊をやっていたかはマーギンから聞いた。お前らがやった事は許される事ではないが、人を殺すという一線を越えなかった事だけは認めてやる」


「クック船長……」


「これから真っ当な人生を歩むんだろ? 二度と海賊なんぞやるなよ」


「はい」


クックはそれ以上責める事はなく、元海賊と貨物船は和解したのであった。

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